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11話
封印の間にエリュシエル。
その隣には例の付き添いの男はいない。
いつからか男は姿を消し、
エリュシエルだけで出入りをすることが認められた。
何故急に付き添いがいなくなったのか疑問ではあるけれど、
封印の解けたパンドラを隠すのには好都合だった。
代わりというわけではないが、
封印の間の入り口はエリュシエルの魔力を感知して開くようになり、
エリュシエル以外の者は通れない仕組みとなった。
これもパンドラのことがバレないので好都合だ。
「こんばんは」
封印の間。パンドラがエリュシエルを見つけ笑いかける。
「こんばんは。こんな閉鎖された空間でよく時間が正確に把握できますね…」
堅牢に閉ざされた地中深い地下の一室。
陽の光さえ入らない中で朝か昼か夜かを正確に当てることが果たしてできるのだろうかと
エリュシエルは思った。
「ただ適当に言ってるだけよ」
パンドラが笑う。
「パンドラさんの話はどこまでが嘘でどこからが本当なのか分からないです」
とエリュシエルも笑みを返す。
歴然とした圧倒的な力の差、人生経験の差、
エリュシエルからパンドラの尺を測るのは中々に難しい。
「私の言ってることの大半は嘘で、あとはジョークよ」
エリュシエルを引き寄せながら、パンドラが言う。
「でも、少なくともこれだけ魔力の働かない環境で一瞬でも痛みが止めば
封印を解くことができるは…本当でしたよ?」
パンドラの腕の中でエリュシエルがパンドラの顔を見上げる。
「そんな昔のことは忘れたわ」とパンドラ。
「まったく…災厄と呼ばれていた人の正体は随分茶目っ気があるものですね」
とエリュシエルは苦笑する。
パンドラの胸がエリュシエルに当たる。
それが気恥ずかしくて顔を赤く染めるエリュシエル。
といっても、これでもだいぶマシになった方だ。
初めは余りの気恥ずかしさにパンドラの頰を思い切り叩いてしまい、
そのあとどれだけ頭を下げたかも分からない。
パンドラとしても一瞬唖然として怒ろうとしたが、
余りのエリュシエルの狼狽っぷりに毒気を抜かれたしまった。
きっと自分はこの力のない少女が好きなんだろうとパンドラは思う。
「そういえば…最近お付きの男みないわね?」
ふと思い出したように口にする。
「どうも、私一人で良くなったみたいで
今では私一人で自由に出入りさせてもらってます」
その言葉にパンドラは少し思案する。
その様子を不思議そうに見るエリュシエル。
「パンドラさんがこうやって自由に行動していることがバレたら
封印を解くのを手伝った私も大目玉を喰らいますし…
好都合ではありますよね。それでそれがどうかしたんですか?」
疑問を口にする。
いいことはあっても、悪いことはないはずだ。
「あなたは彼の魔力を感じたことがある?」
自分の疑問がはぐらかされた感じがするが、
エリュシエルはふと気になって思い返してみる。
男と対峙したとき、魔力の気配…。
魔力を扱えない人でも魔力自体は有している。
そのため魔力を感じないということはありえない。
例えどれだけうまく隠したとしても、
聖女の自分には魔力を感じることができる。
「ないです…」
今まではパンドラに会う緊張のせいであまり気にしていなかったが、
確かに魔力を感じなかったような気がする。
「捩<ねじ>くれて、淀<よど>んだ泥水のような魔力…
人の背後に立ち、仕留めるためにただチャンスを伺うような…」
パンドラの言葉に耳を傾けエリュシエルはゴクリと喉を鳴らす。
「あなたも自分から動いているつもりかもしれないけれど、
ひょっとしたら誰かに操られてるかもしれないわね?」
ジッとエリュシエルの顔を見つめるパンドラ。
「な…少なくとも聖女と呼ばれた女ですよ!!?
私は私自身の何者でもないし、誰かに操られてもいません!!」
強い意志を持ってパンドラを睨み返す。
ここで気力で負けてはいけない。そんな気がした。
「そんなことはわかっているわ。あなたはあなた自身。
ただ…ひょっとするとあなたと
私が仲良くなることを望んでいる人が他にいるかもという話よ」
パンドラは意味深なことを呟くと、天井の一点をジッと見つめて、
微笑んだ。
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