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 柴田はまんじりともしない夜を過ごした。朝になると歯磨きよりも早く、例の事故物件サイトを検索した。  柴田の住むアパートにピンは立てられていなかった。が、隣のマンション、エンパイアステートビルにピンが突き刺さっていた。  柴田は背中が粟立つのを感じていた。  それは三年前の日付だった。サイトにはこう書かれていた。 “マンション屋上から住民女性が飛び降り自殺。100メートルの高さから落下した女性は隣家のアパートの天窓部分にぶつかり衝突死した”    体が震えた。  マンションに面しているのは柴田が住んでいる202号室だった。この部屋のロフトに、女性は飛び降り自殺をしたのだ。  柴田は管理会社や大家に電話をしたが、朝のため連絡がつかなかった。桜木にも連絡したが、まだ寝ているのか電話には出てくれなかった。  天窓からはエンパイアステートビルが見えた。まるで巨人がこちらを監視しているかのようで、えもいわれぬ不気味さを感じた。  柴田の頭に、ある光景が浮かび上ががってきた。  100mの高さから落下した女性の体。それは天窓にぶつかり、肉はトマトのように割け、内臓は零れ、折れた骨は薄い皮膚を突き破った。ひしゃげた指先から滴り落ちる血。それは割れたガラスを伝い、ぽたりぽたりとロフトの床に零れ落ちる。  柴田はネットを検索する。  あるサイトに、このアパートが掲載されているのを見つけた。モザイクが掛けられてはいたが隣に写るマンションと、外壁の色とが一緒だった。  それはオカルト系のブログの記事だった。 “住民が相次いで怪死!呪われたUアパート” 『三年前、都内某所のタワーマンションで女性の投身自殺があった。女性は隣接したアパートの天窓部分に衝突し亡くなった。  女性Aは長年不倫関係にあり、自殺の数日前、男性に関係を解消されていた。  事件当日、部屋の住民は在宅中であった。衝突音で飛び起きた住人B氏は、ロフトが血みどろになり、ガラスや肉片があちらこちらに飛び散っているのを見た。  割れた天窓から赤く染まったスカートが覗いていた。そして衝突した人体は腰辺りから真っ二つに割れていた。  それは深夜二時に起きた出来事だった。』
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