何年目?

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何年目?

娘を幼稚園に送り届けてから、私は心中気が気でなかった。妻の朝の態度は、今思えば爆発寸前の怒りを隠しているような、不自然なテンションの高さだった。きっと、娘のコンディションに気を遣って、今朝は堪えていたのだろう。お遊戯会のあと、一体どれほど怒られるのか、私は恐怖に打ちひしがれていた。 「お待たせ!間に合って良かった!」 まさにお遊戯会が始まろうとするその時、妻がホールの中に入ってきた。 「やあ、久しぶりだね。」 私が妻にぎこちない笑顔を向けると、妻は私を一瞬睨む。 「久しぶりって。何よ。今朝も会ったでしょ?」 そして、妻はそれだけ言うと、私を置き去りにして周りの親たちに挨拶をした。これは完全に怒っている。私は冷えきたった肝をさらに凍結させた。 ナナミの演技は、パーフェクトだった。親の仇を討つ侍が、娘に乗り移ったような気迫のこもった演技である。しかし、私の頭に内容は全く入ってこない。 「ここで会ったが、百年目!」 娘は見事、宿敵を倒して劇は終わりを迎える。幼稚園のホールには割れんばかりの拍手が響く。私はうっすら涙目になって、それでも拍手で娘の活躍を褒め称えていた。
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