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私は結局もとのパジャマ姿で、再びリビングに向かった。自然体が一番だ。
私がリビングに入ると、妻は素振りを止めてお茶を啜っていた。
「ナナミ、寝ちゃった?」
妻は平然として言う。しかし、妻の足下にはゴルフバッグがちゃんと手の届く位置にある。
「ああ、疲れたみたいだね。気持ち良さそうに眠ってる。」
私はテーブルを挟んで妻の向かいに座った。
「ねぇ、これ。」
妻はゴルフバッグを持ち上げて、ゆっくりとテーブルの上に置いた。
私は今度こそ覚悟を決めて、テーブルの上に手をつく。
「実は...。」
「結婚記念日、覚えててくれたのね。偶々見つけちゃったから、知らないふりも出来なくて、つい持ってきちゃった。」
私が切り出す前に、妻が思わぬことを口にする。
「え?」
「ゴルフやってみたいって言ってたの、ちゃんと聞いててくれて、嬉しいわ。今度練習しに行きましょう。」
妻は本当に嬉しそうに言った。
なるほど、忘れていたけれど確かに今月は私と妻が結婚した月だ。そして妻はそのゴルフクラブを私からのプレゼントだと考えたらしい。
私はこの勘違いに心底救われた気持ちになる。少しずるいけれど、ここはそういうことにしてしまおう。
「そうだね。さっきみたいな乱暴な振り方じゃ、きっとボールにも当たらないんじゃない?」
私は苦笑いをして言った。妻はさっきの素振りを見られていたことを恥ずかしく思ったのか、下を向いて静かにお茶を啜った。
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