アイロニー

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アイロニー

 一応は女子の端くれであるわたしにも、彼氏というべき存在ができたのは、ただ朝起きて行くべき場所に向かって帰ってきて寝て、という日々を数年間繰り返しただけで「義務教育を修了した」というお墨付きを得られることくらい普遍的なことであるのかもしれない。恋愛は女性の絶対的優位というのはあながち嘘でもないのかもしれなかった。そうでなければ、特別に愛想がいいわけでもないし、料理ができるわけでもない、男が生唾を飲み込むようなプロポーションを持っているわけでもないわたしに彼氏ができることなど、誰が想像できただろうか。  朝霧(あさぎり)さんって、純粋で真面目そうだし、男ウケよさそう。  同性からはそんな風によく言われるけれど、本当に純粋で真面目な女子は、大学生のときの就活で、説明会の予約を忘れた自分が悪いのに、人事担当宛に「予約したのに確認メールが届いていません」なんてウソの問い合わせをしたりしないし、あまつさえそれで「予約されていないようなので、追加で予約させていただきました」という返信をもらったりもしない。それは、わかっている。あとわたしはあまり表に出さないだけで、別にエグい話が苦手なわけでもない。むしろ一度話し出したら、そのへんの「ちょっとわたし悪い子なんです」を気取っている女子が尻尾を巻いて逃げ出すような話もできる自信がある。そんなことに自信を持ってどうする。その前に乾燥してパリパリになりかけている手に甘ったるい匂いのクリームでも塗ってろ。
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