アイロニー

　彼は言う。

「いや、いま調べてたんだけど、調べれば調べるほど迷ってきちゃって」
「いま？」
「本当は事前に調べておきたかったんだけど、仕事忙しいし、帰ったら寝落ちしちゃうしで、結局当日になっちゃった」
「なによ、言ってくれればよかったのに」

ほんの少し、わたしはむくれてみせた。

「一緒に調べてあげたのにさ」
「だって由菜(ゆな)、なんも選択肢が用意されてない中で『どうする？』って訊かれるの、いやだろ」

　まあ、それは確かにいやだ。会社とかの飲み会でも、一次会が終わって、店先で「この後どうする？」「どうします？」みたいなマゴマゴした会話をするのは嫌いだ。どうせ決めるなら店を出る前に決めろよ、と思ってしまうし、そもそもさして大人数の飲み会は好きじゃない。

　ああ、そういえばそんなことを彼には昔に言った気がする。いつも思うけど、よくそういう瑣末なこと覚えてるよね。記念日の類はよくすっぽかすけどね。