小説家を夢みた日

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改札を出て、自転車置き場に向かう。家は駅から20分の距離だ。今日はテスト期間中なので何時もより早く帰る事が出来た。折角なので小説を書こうか。いや、流石にテスト期間は勉強をしなくては駄目かな。僕は色々考えながら帰りを急いでいた。 もうすぐ家に着くという距離の場所、坂道を立ち漕ぎで上がっている時である。信号待ちで止まっている白いセダンの車の助手席に母が座っているのが解った。母はこちらに気が付いていないようだ。知らない車、誰の車なんだろう。 僕は運転席に目をやった。見た事のない母と同年代位の男性がいた。がっちりとした体形をしている。今日、母は趣味のフラワーアレンジメントの教室に行くと言っていた覚えがある。そこの生徒さんか? 僕は気になり、後をつけた。狭い住宅街の中なので、車はゆっくりと進んでいる。自転車でもすんなり追い付く事が出来た。そうして近所の家の陰に隠れながら様子を見る。車は僕の家の前に止まった。運転席の男性に母が近づくのが解る。そうするとなんて事だ。二人はハグをした様に見えるではないか。まさか母の彼氏? 僕はビックリした。それと同時にワクワクしてきた。 小説のネタになる。 僕は自然と口角があがると、その続きを見守った。二人はそれから少し会話をした様子で、母が助手席から車を降りた。 それだけか。 だが、こんな事情があったので僕は母の浮気の小説を書く事になった。四十代の専業主婦が自宅の前で見知らぬ男性とハグをするなど、ただ事ではない。よしよし、僕はにやりと笑った。小説の題材は主婦の昼下がりの浮気にしよう。浮気が息子にバレるなんてどうだろう。
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