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 古い洋画の挿入歌で、よく口ずさんでいた。  ──あなたを思うと、心は安まり、羽が生えたように軽くなる。  和訳するとそんな歌詞だったか。それを、あの人はとても穏やかな顔で歌うのだ。  目を伏せて、微笑んで。  月島。  遠野が呼ぶ。  あの人──篤くんの顔が、声が、頭の中にいっぱいになっていた。  携帯がチカチカと光るのが見える。  しゃがみ、取ろうとすると、ずっと下に沢が見えた。きれいな水が、岩場の中でするすると流れている。きらきらと輝く様は、なんて美しいんだろう。  ──あなたを思うと、幸せに満ち、官能的な愛で満たされる。  愛か。  あたしは、愛しているのだろうか。  兄である篤くんを。  水のにおいが、頭をクリアにする。  月島!  あたしは。  あたしは、愛してる。  たとえ兄だろうと。  あの人を愛してる。 愛してるんだ。  喜びに、涙が流れそうだった。  篤くんを、愛してる。  月島!  どん、と背中に衝撃が走る。  ──あ、本当だ。  あなたを思うと、羽が生えたように、軽くなる。  幸せに満ち、愛で満たされる。  ああ、  本当だ。  篤くんが、やわらかに笑んで、歌っている。 《了》
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