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「お久しぶり、月島くん」
「どうしたんだよ」
「ちょっと話があって。いい?」
アユミは小首を傾げた。
昔から、アユミはなにかを頼むとき、こうしたな、と思い出す。銀のフレームの眼鏡すら懐かしい。髪を束ねている姿も、何一つ変わらない。というか、まるで彼女が時間をも超え、写真から抜け出してきたようだ。
気まぐれのように、郷愁が心をくすぐった。
「ああ、いいよ」
気づくと、アユミを部屋に通していた。
彼女はきょろきょろと部屋を物珍しそうに見ることもなく、すっとテーブルの傍に座った。
冷蔵庫を開け、麦茶をグラスに注ぐ。
ついでに、茜にメールを打っておいた。
──悪いけど、今日は姉のところにでも泊まって。
返事は確認せずポケットにしまう。
ローテーブルにグラスを置こうと身を屈めると、アユミはさっと鞄になにかを押し込んだ。
「どうぞ」
「ああ、ごめん。お気遣いなく。あ」
ふと、テーブルの上のビールを見つけ、小さく笑う。悪戯を甘く咎めるような、上目遣いの笑みには見覚えがある。
「懐かしい顔だな」
「そっちこそ。これ、昔から好きだよね」
「最初に覚えた味って言うのは、なかなか中毒性があるよ」
「ふうん」
アユミはビールをじっと見つめた。
というよりも、どこか遠くを見ている。
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