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「なんでルームシェアしてること知ってるの」
「なんでって、母さんが言ってたからよ。近くでルームシェアしてるから、なにか頼ってきたらお願いって。って、なんで私の家知ってるの」
「同じく。お母さんがなにかあったら頼りなさいって。そういえば、家に帰ってるの?」
「いや。忙しくて中々ね。ただ週に一度は連絡あるわよ」
ありがたいことにこまめに連絡をくれ、ありがたいことに結婚はまだかとつつかれる。軽く流すと、いい報告待ってるからね、と念を押されるが、報告もなにもない。毎日忙しく歩き回り、帰って羽を伸ばして寝る。起きればまた、化粧をして、色んな相手の顔を見て笑顔を作り、ぺこぺこと頭を下げる。それが、仕事だ。
茜は肩で切りそろえられた黒髪をぐしゃぐしゃと掻いた。苛立っているらしい。
「茜、今なにしてるの」
「大学生活エンジョイ中よ」
「単位落とさないようにね」
「うまいこと遊んでるから大丈夫」
へらりといい、茜は顔を触って立ち上がった。
「化粧落とさないと!」
「洗面所はあっち」
初めて来たにも関わらず、茜は自分の家のようにくつろぎ、ばたばたと洗面所へと向かった。さっきまで静かに晩酌をしようと思っていたのに。
あの子は本当に変わらない。
いっつも気ままで、周りをうまく振り回す。家族の中心はいつも茜だった。だから明るい家族だったのかもしれないけど。こうして無遠慮と言ってもいいほどの壁なさは、少しありがたかった。
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