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 インターフォンが鳴ったのでモニターを見てみると、懐かしい顔がこっちを見ていた。  懐かしいと言っても、五年ぶりくらいか。  家を出てからというもの、そうそう実家にも帰ってなかったことを思い出す。なぜか罪悪感が沸き上がり、急いでドアに向かう。鍵を開け、そっとドアを開けると、俯いたままの顔がゆっくり私を捉えた。大きな目に、黒いまつげがばさりと揺れる。 「どうしたの」  思わずそう声をかける。 「お姉ちゃん、今日泊めて」 「いいけど……ってちょっと、茜!」  茜はずかずかと入り込むと、持っていたバッグを放って、ソファにダイブするように倒れ込んだ。思わず走り寄り、バッグを拾う。 「なによ。いきなり来て」 「だって今日は泊まるところがないんだもん」 「あんた友達とルームシェアしてたんじゃなかったの」  茜はぶらぶらと細い足を揺らす。さっきまでハイヒールを履いていた、鍛えられた足だ。毎日着圧ソックスもどきのストッキングに、踵のすり切れたパンプスで歩き回る私とは、大違いな美しい足。  ああ、そうだった。靴を買い直さなきゃ。  でも履き慣れた靴じゃないと、歩き回る営業もつらい。 「それが、今日は帰ってくるなって言われちゃって」 「ふうん」  茜は寝ころんだまま、鞄を手渡す私をじっと見た。 「なに」
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