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 チャイムが鳴ったので出ると、女が立っていた。  誰だったっけ、と思ってすぐ、思い出す。  彼女は── 「志野崎アユミさんね?」  聞かれ、頷く。  どうしてこんなに緊張した顔なのか。  私は驚きつつも、そっちのほうが気になった。  顔つきは緊張で強ばり、だというのに隈ができた目は爛々とした妙な光があった。唇はかさかさで、なんだか酷く疲労していた。 「アユミ? どちら様?」  奥から、お母さんがエプロンをつけたまま顔を出す。 「あ、私のお客さん」 「そう。入ってもらったらどうなの?」 「ああ、うん」  もう一度、彼女の顔を見る。 「春佳、さんですよね?」  私は一応確認した。血の繋がりがないことは知っていたので、顔から情報を読みとるのはできなかったからだ。  彼女は頷いた。 「急にごめんなさい。あなたがまだ実家で暮らしてるって聞いたから」 「話は中でどうですか?」  私は、玄関で鞄を強く握ったままの彼女を促した。恐る恐る入り、靴を脱いだ彼女を連れ、二階の自室に案内する。  子供っぽいものは排除した部屋だが、やはりずっとこの部屋で暮らしてきたせいか、人を招くのには抵抗があった。私の全てがここに詰まっているから。
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