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「やあね、ドーモね」
応接室に通された私たちは、そこでクライアントの所長さんと面会した。
真っ白な髪をギトギトのポマードで固めた、オールバックのおっちゃんだ。
笑うと金歯がキラリと光る。
「とにかくね、今回のリニューアルはね、内部に力を入れたいのよ。特に美術品ね。私の好きなミレーやマティス、ゴーギャンのレプリカで、出来のいいやつをね。
それからね、あちこちに飾棚を作らせる予定なのね。信楽のツボや皿、茶器に花器も多目に揃えたいのね」
「ええ所長、それでしたら、ぜひ弊社にお任せを。必ずや所長が気に入るものをご用意しますから」
例によって、自信たっぷりに言ってのけるボス。
うっひゃあ、本当に大丈夫なの?
それってかなりの大仕事だけど。
確か先月の通帳残高は…
あ、大丈夫そう。
びひりの私は、つい心配してしまう。
部屋での商談を終えると、私たちは施設の中を案内された。
図面を持って施設の中を歩き、大まかに調度品の種類や大きさや、作者、配置、ライトアップの仕方なんかを決め、図面に書き込んでいく。
ふうん、いつもこんな風に営業してんだ。
うちにほかの営業担当はいないから、大きな仕事は、帯刀さんが取ってくる。
ま、そこだけは大したもんだ。
伊達にエラそうなわけじゃない。
でも、何か意外。
帯刀さんって、あんなに表情豊かな人だったっけ?
今、shinさんや所長さんと、美術品の話で盛り上がっている帯刀さんは、何だか生き生きとしている。一生懸命に、頬を紅潮させて、興奮気味に。
そういえば、ただの仕事用だと思ってたけど、社長室の棚にはゲージュツ系の本や雑誌がいっぱい置いてあった。
帯刀さんは確か、経済学部の出身だったけど、もしかしたらこういう方面が本当に好きなのかも知れない。
だって、こんな会社を立ち上げるくらいだもんね。
「おーい、こはし。
こーはーしー」
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