帯刀成彬

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「ち、ちょっと帯刀さん、帯刀さんってば!ちょっと待ってくださいよぅ」 上京して2年、いまだに人混みの泳ぎ方に慣れず、うっかり迷子になっても何ら不思議ない私を置いてきぼりに、ほぼ小走りの速度でヤツはこの人混みを縫ってゆく。 無駄だとは分かっていながら、大袈裟に腕を伸ばし、情けない声で呼ぶ私をガン無視して。 ちなみにうちのボスは、自分を肩書きで呼ばせない。みんなと同じように“さん”付けで呼ばせている。 …寂しいのだろうか。 なんて下らないことを考えているうちに、うっかり見失ってしまった。 ああ、もうダメだ。 人混みから頭ひとつ出た後ろ姿を、これでも必死で追いかけたつもりだったんだが。 …っ、 すまない。 ここから先は、オマエ一人で行ってくれ。自分はひとまず、拠点(かいしゃ)を目指す。 ヨレヨレとへたりこみ、脳内にどこかで聞いたような台詞を思い浮かべていたところ、またまた背中を冷気が襲った。 「コラ」 「うっ」 「逃げようったってそうはいかない。 こんなところで坐り込むな。世間様の大迷惑だ。俺に恥をかかせるな」 「そ、そんなこと言ったって!」 思わず立ち上がる私。 「そもそも、経理担当の私が、何故帯刀さんのお得意様巡りに連行されるんです!? 今日だって、会社に帰れば山のように伝票が残ってるってのに、こんなの無茶振りもいいところ… あ、ち、ちょっと!」 言い終わるより先に、とっとと身を翻えす帯刀さんを、私は慌てて追いかける。
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