魔王様のコンプレックス

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魔王様のコンプレックス

「ぶわーーん、待ってくださいようぅ。帯刀さ~ん」 「甘いわっ、早く来ないと置いてくぞっ」 今日は火曜日。 私達は、地下鉄とバスで1時間半分の、T町の高級特別養護老人ホーム、『メリィ・ローズ』へ向かっています。 特養とはいっても、お金持ちを対象にした高級施設で、入居料はン千万とか億単位とか。 この夏リニューアルを予定している施設(ここ)内装(インテリア)一式を、うちの会社が請け負うことになり、その見積り兼打ち合わせを行うのだ。 この横暴な男がうちの社長(ボス)、『帯刀成彬(たてわき なりあき)』。 なんと私と3つしか違わない、若冠29歳で社長をやっている、まさに一国一城の主。 でも、彼自身が社長と呼ばれるのを嫌うので、皆『帯刀さん』と呼んでいる。 …多分、老けて見られるのが嫌だからだ。 ちなみに、私は普段こういった営業とは全く関係なく、内勤で経理をやっているが、お年寄りに人気があるのを彼に見込まれて、ここに連行されている次第。 メーワクな話だぜ、まったく。 「うわ…あ」 オートセキュリティの重厚な扉をくぐって、私はつい圧倒された。豪華でキラキラのエントランスは、重厚な扉にオープン階段、足の下は赤い絨緞ときて、まるで西洋のお城みたい。 「はっはっは、お前には一生縁がないとこだな」 黙れ! 打ち合わせのメンバーはもう1人、ここで落ち合うことになっているインテリアデザイナーのshinさんだ。 「さあて、そろそろか…」 帯刀さんが腕時計に目をやった時、 「ハーーイ、ワッキー!」 内股の小走りで、shinさんが仔犬のように駆けつけた。 豆電球みたいな頭をして、口髭生やしたオジサンで、プラスちょっとカマッ気がある。 (この業界には多いらしい) 帯刀さんにゾッコンなのだが、帯刀(カレ)はちょっと引き気味だ。
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