あいからあいまで

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あいからあいまで

さよならは、愛。 梅雨明けの空。 肌を刺す恒常的な閃光。 微かに熱を帯びた風。 夏日和。 午後2時を回った商店街。 閑散。 アスファルトにへばりつく蜃気楼。 解放感。 蒸発した存在。 滲む汗は何色。 束の間の徒歩。 少し重い扉。 冷気。 漏れる一息。 渇きを叫ぶ身体。 炭酸飲料。 目標への自由落下。 喉を駆ける小爆発。 夏。 呼び鈴。 液晶に映る人型。 滑らかに、艶やかに、黒い髪。 飛来する紫外線に健康的に蝕まれた肌。 華奢で儚げな向日葵。 それは何よりも夏。 紛れもなく、限りなく、彼女。 蒸発は真実? 真実は蒸発? 無情に流れざるを得ないのは時間と怠惰なラジオ。 焦燥。 抱かなくてはならない恐怖。 反して握りしめる期待。 会いたいのは心? 嗚呼、痛いのも心。 開く扉。 覗く顔。 あの顔。 侵入。 部屋には人、椅子、机、椅子、人。 対談。 味気ない挨拶。 沈黙。 発声。 彼女の口のやわらかな動き。 昼下がり。 提案。 承諾。 決意。 再び訪れる自由な束縛。 ふと覗けば、眼窩に光。 得も言われぬ高揚。 悪い嘘をついているような感情。 連れ立って向かう最寄り駅。 電車を待つ二人。 夏。 刺激的な陽だまりのなかで二人。 到着。 流れる世界に身を委ねる向日葵。 太陽を追うように顔を傾げる長身。 灰色の樹海に緑が差される過程。 やがて一面の新緑。 東京の西は青。 駅を出ると蝉時雨の猛攻。 永い坂を登った先にひとつの家。 人気のない玄関は自然に飲まれて闇。 何寸先も、闇。 病み上がりの廃墟を突き当たり右。 漏れる光。 病みの中でそれは燦然と光。 光を纏っているのは老婆。 腐った床に散乱する数珠。 萎れた花に宿る怪しげな輝き。 ふと少女の眼。 老婆と調和して闇。 病み? 壊れていく過程。 黄色の花弁に差されていく黒。 やがて一面の黒。 狂信的懇願。 助けての叫び。 縋る少女。 蝉時雨が遠のく夏。 少女を引き剥がす努力。 あ。 ああああああああぁぁぁ。 声にならない声は誰の物? 狂った向日葵を抱え逃亡。 眼に灯らない光。 帰路。 電車に揺られる瞳は虚。 一種の後悔。 醒めない夢の束縛。 商店街の帰り道。 黒い向日葵を手に歩く感情は未発見。 花を守るのは使命。 錯覚。 覚束無い足どりで車道への逃避行。 瞬間の衝撃。 遅すぎた叫び。 何処かへ行ってしまった喧騒。 そして驚愕。 散る花がこんなにも美しいことに驚愕。 宙を舞う紅い花弁は最上の芸術。 呑まれる息。 そして恐怖。 怒りも涙も湧き上がらない己への恐怖。 身体が欲しているのは喪失感。 あ。 ああああああああぁぁぁ。 叫びにならない叫びは誰の物? 午後2時。 さよならは、哀。
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