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実の所、彼女には避けられていた。
一稀とのキスの後、「話がある」と伝えたのだが、その日からあからさまに避けられるようになっていた。
まるで自分の話を見透かしているように、尽く話す機会を奪われている。
そうこうしている内に、一稀と話せないまま文化祭も翌日に迫り、どうしたものかと瞬は頭を悩ませていた。
彼女ときちんと話をつけないと、一稀の元へは行けないのだ。
「瞬?どうした?」
拓海が怪訝な様子で顔を覗き込んで来た。
「別になにも」と言いかけて、拓海がそれを遮る。
「まぁ、今は離れていた方がいいかもな。一稀もお前に好きな人取られて心から祝福出来ないだろうし。今はそっとしておく方がいいよ」
「お前は?」
「…え?」
「西条さんのこと、好きだっただろ?」
拓海はハハッと笑った。
「そんなのもう吹っ切れてるって」
「そっか…」
拓海の言葉の先に、どうしてだか一稀の存在がチラつき、妙な焦燥感に襲われる。
「拓海は彼女のこと、好きなままでいいと思う」
「え…?」
「好きな気持ちって、そう簡単には割り切れないだろ。それに、俺と西条さんは…__」
言いかけた時、「岡崎ー!」と誰かが拓海を呼んだ。
「わるい瞬、また後でな」
「あぁ」
拓海を見送り、肩で息をつく。
早くしなければ、拓海を一稀に奪われてしまう、そんな気がした。
瞬は手早く暗幕を貼り終えると、実行委員から預かった予算を手に、買い出しに行くことにした。
その際、床に座って色塗りの作業に没頭している茜の背に向かって声をかける。
「西条さん、買い出し手伝ってくれない?」
ハッとした様子で振り返った彼女に、瞬は気軽に続けた。
「荷物持ち、してくれるとありがたいんだけど」
人形のように大きく可愛らしい瞳が、困惑気味に揺れる。
「いえ、私は…」
彼女が断ろうとした時、隣にいた女子生徒が声を上げた。
「あ、私行くよ!」
続いて、「私も!」「私も!」と女子達が続々と名乗りを上げる。
すると、それを一蹴するように茜は立ち上がった。
「わ、私が行くわ…!」
頬を蒸気させ、茜が強く言い放つ。
そして「行きましょう!」と瞬を促すと、足早に教室を出た。
「西条、待って」
薄暗い廊下をパタパタと先に行ってしまう彼女を慌てて追いかける。
「待てってば…!」
怒りを感じる肩を掴もうとした時、不意に彼女は立ち止まってクルリとこちらに振り返った。
何かを決意した鋭い瞳がキッとこちらを睨み据える。
なぜか、心臓がドキッと跳ね上がった。
「話したいこと、わかってるわ」
「わかってるって…」
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