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生理用ナプキンを初めて付けた日、一稀の心は踊った。
中学三年生にしてやっと来た女の子の印に、自分はやっぱり女の子であったんだと至極ホッとした。
下腹部の鈍痛も、頭痛も、全てが誇らしかった。
声を大にして、ついに私にも月のものが来ました!と皆に触れ回りたかった。
ただ、ブラジャーだけは違った。
そう、レースのついたフリフリで可愛いあのブラジャーだ。
男を翻弄する為だけに存在しているかのようなあのエロティックな見た目。
女にしか付けることを許されない神々しい装備。
あれこそが、一稀にとって女の子の象徴であり憧れだった。
そしてついに、味も素っ気もないスポーツブラを剥ぎ取り、その憧れのブラジャーをネットでこっそりと買って手に取った中学三年生の夏。
言い様のない罪悪感が一稀を襲った。
誰に対してなのかはわからなかった。
男の子を熱望していた両親に対してなのか、それとも、鏡に移る男のような風貌をした己に付けられるブラジャーに対してなのか。
一稀にはわからなかった。
ただ、罪悪感と一緒に、そっとブラジャーをタンスの奥にしまい込むしかなかったのだった。
◇ ◇ ◇
「一稀!今日ゲーセン行こうぜ!」
放課後、教室の中が帰宅する生徒でザワザワと騒がしい中、親友の日下部隼人がガッシと肩を組んできた。
一稀は忌々しく日下部から逃れると、ゴシッと肘で日下部の腹を軽く殴った。
「だぁから、そう言うのやめろってば」
「なんだよ、今まで普通にしてたじゃん。なに?急に俺の事意識しだしたの?お前が?親友なのに?ボーイズラブ始まっちゃう系?」
キャッ、と日下部が自分の体を抱き締める。
「アホか。寒いこと言ってんじゃねぇ。それにどこがボーイズラブだ。男同士じゃないだろ」
日下部は仏顔の細い目をより一層細めると、一稀を下から上へと流し見た。
「んだよ…」
「いや、その也でボーイズラブじゃなかったら、なんなのかなぁって」
一稀は自分の制服姿を見下ろす。
ブレザーの下はスカートではなく、日下部と同じズボンだった。
「これは女子用だろ。女子も履くことを許されたズボンだ。男だけのものじゃない」
非難するように言うと、日下部は鼻で笑った。
「ははっ、うちの学校、女子用のズボンあるもんな。それでこの学校に死に物狂いで勉強して入学したんだよな、お前。偏差値高いのに、それだけの理由でよく頑張ったよ」
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