第9話 気付かされた気持ち

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ハッと驚いて瞬を見ると、彼は珍しく気まずい顔をして言った。 「ごめん、友達として、だから…」 「友達として…?」 「だから、これも…__」 瞬の指が一稀の顎をそっと持ち、そのまま顔を近付けてくる。 あっ、と思った時には、瞬の柔らかな唇が自身の唇と重なっていた。 柔らかくて優しい、本当に触れるだけのキス。 それでも、一稀にとっては全身が震えるような大きな衝撃だった。 「ごめん」 チュッ、と軽く吸いながら唇を離した後、瞬は小さく謝った。 耳の鼓膜にまでドクドクと鼓動が響く。 内心酷く狼狽えていたが、精一杯強がってみせた。 「あ、謝るなよ。向こうでは、普通、なんだろ…?」 「……そうだと思う?」 「そ、そうじゃなきゃ、困る…」 「じゃあ、そう言うことにして。これは普通のことだから。友達として、慰めるためのものだから…」 瞬の綺麗な瞳にとらえられ、なにも考えられなくなる。 両手で頬を包まれ、もう一度口付けられた。 先程より強引で、奪うように何度も唇を吸われる。 息を、全てを吸い尽くされるようなキスに、一稀はただ、瞬の服にしがみついて必死に受け止めるしかなかった。 (無理だよ…、こんなの、友達としてじゃ、ない…。普通なわけ、ない…) 頭の芯が痺れる中、ふと茜の顔が頭に浮かぶ。 罪悪感が波のように押し寄せ、気付いた時には瞬の胸を突き飛ばしていた。 「ご、ごめん…!!」 「一稀…!」 引き止める瞬を振り切り、マンションから逃げるように飛び出る。 ドクドクと痛いほど暴れる心臓をギュッと握り締め、無我夢中で階段を駆け下りた。 (最低だ…!オレは最低だ…!) 自分がどうしようもなく情けなくて、涙が後から後から溢れてこぼれ落ちた。 己の気持ちに気付き、茜の存在を知っていながらキスを交わしてしまった自分は、もう今まで通り瞬のそばにはいられないだろう。 どんな形でもいいから彼のそばにいたいと願っていた自分が、とても愚かに思えた。 (間違ってた。初めからずっと、オレは間違ってたんだ…) 後悔と悲しみに、頭がどうにかなりそうだった。 それなのに、瞬に塞がれた唇がまだジンジンと甘く疼き、胸を強く締め付けるのだった。 ◇ ◇ ◇
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