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ハッと驚いて瞬を見ると、彼は珍しく気まずい顔をして言った。
「ごめん、友達として、だから…」
「友達として…?」
「だから、これも…__」
瞬の指が一稀の顎をそっと持ち、そのまま顔を近付けてくる。
あっ、と思った時には、瞬の柔らかな唇が自身の唇と重なっていた。
柔らかくて優しい、本当に触れるだけのキス。
それでも、一稀にとっては全身が震えるような大きな衝撃だった。
「ごめん」
チュッ、と軽く吸いながら唇を離した後、瞬は小さく謝った。
耳の鼓膜にまでドクドクと鼓動が響く。
内心酷く狼狽えていたが、精一杯強がってみせた。
「あ、謝るなよ。向こうでは、普通、なんだろ…?」
「……そうだと思う?」
「そ、そうじゃなきゃ、困る…」
「じゃあ、そう言うことにして。これは普通のことだから。友達として、慰めるためのものだから…」
瞬の綺麗な瞳にとらえられ、なにも考えられなくなる。
両手で頬を包まれ、もう一度口付けられた。
先程より強引で、奪うように何度も唇を吸われる。
息を、全てを吸い尽くされるようなキスに、一稀はただ、瞬の服にしがみついて必死に受け止めるしかなかった。
(無理だよ…、こんなの、友達としてじゃ、ない…。普通なわけ、ない…)
頭の芯が痺れる中、ふと茜の顔が頭に浮かぶ。
罪悪感が波のように押し寄せ、気付いた時には瞬の胸を突き飛ばしていた。
「ご、ごめん…!!」
「一稀…!」
引き止める瞬を振り切り、マンションから逃げるように飛び出る。
ドクドクと痛いほど暴れる心臓をギュッと握り締め、無我夢中で階段を駆け下りた。
(最低だ…!オレは最低だ…!)
自分がどうしようもなく情けなくて、涙が後から後から溢れてこぼれ落ちた。
己の気持ちに気付き、茜の存在を知っていながらキスを交わしてしまった自分は、もう今まで通り瞬のそばにはいられないだろう。
どんな形でもいいから彼のそばにいたいと願っていた自分が、とても愚かに思えた。
(間違ってた。初めからずっと、オレは間違ってたんだ…)
後悔と悲しみに、頭がどうにかなりそうだった。
それなのに、瞬に塞がれた唇がまだジンジンと甘く疼き、胸を強く締め付けるのだった。
◇ ◇ ◇
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