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ある大都会の影
ネオンが街を切り裂き、高層ビルが立ち並び、ものすごい勢いで車が広い道を走りぬけ、夜になっても騒ぎ声と笑い声と怒鳴り声の絶えない、とある大都会があった。
コンピュータが徹底的に普及し、歩きスマホもめずらしくなく、発達したカーナビは運転手を丁寧に導いている。
夜、暗闇を恐れ、温かい家に帰るためにせかせかうつむきがちに歩く人は、いない。
夜、満天の星空をうっとりとながめる人は消え、夜にはたいていドライブか仕事、子供はスマホをいじるというのが普通だった。
満月をながめたり、十五夜に月見団子をそなえる風習も、いつのまにか「都会」「機械」という言葉の中に消え去っていった。
他の田舎の村はともかく、この街ではそんなことをする人なんていなかった。
いたとしても、
「こんなネオンで明るい夜の、どこが怖いんだ?」
「スマホ一つ触らず星なんか見てるなんて、気がくるってんじゃないのか。」
「満月ってだけで団子なんかそなえてんのか?マジ、バカじゃね?」
とからかわれるだけだった。
そんなこの都会に、一つの影がやってきた。
その影は、街の人々が暗い夜の恐さを思い出すきっかけだった。
それと同時に、その影は不死身で不可能はないのだとうわさされた。
その影は、がまんできなかったのだ。
夜になっても暗闇をバカにして平気で街をうろつきまわり、美しい星空を商売の道具と言うだけのビルでおおいかくし、満月に目もむけない人がたくさんいることが。
それだけでなく、星を見上げたり夜に恐怖を感じたりする「本当の感性をもったもの」を、周りは見下しバカにしている。
そんな時をみはからい、影は大都会にその姿を現した。
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