それから

3/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
少し経ってテレビやらなんやらで気がついた。 雅は「不登校」てやつなんだ。テレビの偉そうな人間が言ってた。「いじめ」等が社会問題になってると。 「いじめ」とはどうやら強いものが弱いものを集団で攻撃する事を言うらしい。 俺たちスライムもその理論からいえば人間に「いじめられた」んだろうな。 人間はどうやら人間同士でも虐め合うらしい。なんて馬鹿な生き物なのだろう。 俺達スライム……いや魔物はそんな事しないのに。 それに雅も弱い生き物にまず手を差し伸べるほど優しいのに……。 日が進む事にたまに揃った両親が難しい顔をして話しているのを見かける。 「学校……今後が……」 「そんなこと……あなたも……!」 扉から漏れ聞こえる声はいつも厳しい。 ぽつり……生暖かい水が降ってきた。見上げると雅が大粒の涙を流しながら立っていた。唇を噛み締め両手をきつく握りしめている雅の姿は俺の目から見てもかなり痛々しかった。 思わず雅に体を擦り寄せると雅は俺を抱き上げ自分の部屋へと駆け込んだ。そして俺をそのままきつく抱きしめてぶつぶつと喋りだした。 「私だって学校行きたいよ……お友達と遊びたいよ……でも皆……無視するんだもん……悲しいよ……」 もし俺が言語を話せたのなら、もし俺が獣人の様に手足が人間の様になっていたのならきっと俺は雅を抱き締めて頭を撫で気の利いた慰めの台詞でも吐くのだろうか……? だが俺は元はスライム。今はただの猫。彼女の涙を拭ってやることは出来ても彼女の心を助けてやる事は恐らくできない。 どうして俺は猫に生まれ変わったのだろう……。 何故前世のような知能を持って生まれ変わってしまったのだろう。 「にゃあ……」 やっぱり出るのは獣の声だった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!