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屋上に来た私は、強い風に思わず目を瞑った。
びゅんびゅんと音を立てる風は、柵の向こうへと私を誘う。
頑張れば、よじ登って向こう側へと行ける柵。
私はその柵に手をかけた。
心臓がどくどくと脈打った。
怖い
でも
教室での怖さに比べたら
私は柵を掴む手に力を込めて。
身体を浮かせた。
「いきなりごめんね! 今から飛び降りるなら僕も一緒に飛び降りていいかな!」
「ふぇ!?」
吃驚しすぎて変な声が出た。
振り向くと、すっごい笑顔の男の子がいた。
見たことあるような、ないような、記憶に薄い男の子だった。
一度見ても、何度か会話をしないと覚えられなさそうな、そんな、普通の男の子。
でも、今の私には衝撃過ぎて、今この光景を一生忘れられなさそうだな、と思った。
「えっと……」
とりあえず、声をかけられた衝撃で反応が遅れたが。
ものすごい提案をされた気がする。
「あのね、今日凄く風が強いじゃん! でもそれで飛び降りようと思ったら怖いじゃん! だから一緒に飛び降りよう!」
普通の男の子はニコニコしながら言った。
その言い方が馬鹿そうで、何か色々可笑しくて。
気の抜けた私がようやく言えたのは「なんで?」だった。
そこで男の子はハッとしたような顔になり「あ、そうか!」と衝撃を受けた表情をした。
「そうだよね! 一緒に飛び降りるなら僕の自殺したい理由を言わなきゃだよね! 実はね、僕ね、イケイケな男子にトイレの水かけちゃってそれで怒られてからずっと殴られたりけられたりしててさ」
そうだよね、理由言わなきゃ駄目だよね、と言わんばかりに目を輝かせながら、輝かすべきではないいじめの内容を彼はウキウキと告白した。
それに対して私は「うん……うん……そうだね、それは心折れるね、うん……そうだね、それは嫌だね……」とひたすら長い話に共感したり相槌を打っていた。
そして、思った。
今日は、自殺日和じゃないな。
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