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不思議そうに俺を見る彼女の表情を前に、俺は自分の言葉をすぐに取り消した。
「あ、そんな質問されても困りますよね」
そう言った俺に向かって、彼女は慌てた様に手を横に振った。
「いえ、こちらこそすみませんっ!気を遣わせたみたいで……」
そうしてまた、不器用に笑う。
「あの……こういう飲み会の場に来るのが殆ど初めてで………31にもなって恥ずかしいんですけど……」
「そうなんですね。初々しくていいんじゃないですか。それに、何歳だからなんて関係ないですよ」
そう言いながら、俺も自分のグラスのビールを一口飲んだ。
それは、上辺だけの言葉を並べた、本当にただの社交辞令だった。
きっと、彼女にはもう会う事も無い。
それなら出来るだけ機嫌を損ねない様に、良くも悪くもない印象を残して、何事も無かった様に立ち去って行く方がいいと思った。
「……ありがとう、ございます」
だけど彼女は適当に言った俺のそんな言葉にさえも、不器用に笑って小さくそう言った。
そしてその黒々とした瞳は、まるで突然降り出した雨に打たれたかの様に濡れていた。
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