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「名前、土屋颯介さん……でしたっけ?」
彼女がトイレに席を立っている間、斜め横の席から話し掛けて来たのは、ゆるふわ系の「ユウナ」だった。
「あー、そうです。えっと、ユウナさん……でしたよね?」
「はい、北原 優奈です」
彼女はそう言って、大きな目を細めて笑顔を浮かべて見せた。色白の肌にピンク色のチークが映えて、白い歯が血色の良い唇の奥から見えている。大抵の男なら、この笑顔に見惚れるのかもしれない。
俺にとっては、隣の彼女の笑顔とのあまりの違いに覚えた違和感の方が大きいけど。
「紗夜……あ、ここに座ってる子とどんな話したんですか?」
「普通に仕事の話とかですよ。彼女……紗夜さんは受付の仕事をしてるって聞きました。話したのはそれくらいですね」
「そうなんだ……あ、そういえば土屋さんの好きな映画って……」
優奈さんが何かを躊躇いながらも、思い切り話題の転換をしようとした瞬間、彼女が席に戻って来た。
「あ……何の話してたの…?」
そう聞きながら俺と優奈さんを交互に見る彼女は、やっぱり不器用に微笑んだ。
優奈さんの笑顔を見た後だからなのか、その笑顔が余計に痛々しく見えてしまった。
まるで、その笑顔の下で泣いている様な……
「紗夜は受付嬢だって話してたの。あ、さっき私お酒頼んだけど、紗夜も何か飲む?」
優奈さんは彼女にメニューを手渡した。
「あ、ありがとう。じゃあ、モスコミュールにしようかなあ……
土屋さん…はどうしますか?」
メニューを手渡しながら俺にそう聞いた彼女の眼差しは、何処か別の方を見ている様に思えた。
「ああ、どうも……」
俺はなんとなく彼女から視線を外してメニューを受け取った。
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