年上の女

13/14
2984人が本棚に入れています
本棚に追加
/462ページ
時刻は21時半を回っていた。 社交辞令的に、その場にいる全員とメッセージアプリで連絡先を交換した後、椅子に掛けていたスーツの上着を着ていると、紗夜さんが遠慮がちに俺に話掛けて来た。 「あの……」 「ああ、はい?」 前に視線を向けると、彼女は目を泳がせていたけど、やがて何かを思い切った様に口を開いた。 「さっき……あの、映画の事………」 「映画?」 確かそれって、優奈さんも何か言い掛けてたような…… 「土屋さんの好きな映画の……」 「よし、ここ21時半までだからさ、みんなそろそろ店出よっかー!」 佐伯君が呼び掛けをしたのと同時に、彼女はそこでハッとした様に口を(つぐ)んだ。 「ごめんなさい、何でもないです……」 そして彼女は何処か陰りのある笑みを浮かべながらも、ゆっくりと席から立ち上がった。 「はい…」 何だろうと思いつつも、俺はそのまま何も言わなかった。 なんとなく、そこには触れたらいけない気がしたし、仮に何かがあったとしても、今日会ったばかりの女の事情なんて特に知る必要も無かった。 「じゃあ、二次会行く人は俺について来てー」 屈託の無い明るい佐伯君の声の後に、それぞれが席を立って足早に店を出始めた。
/462ページ

最初のコメントを投稿しよう!