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「それでは、こちらのカードキーで右側のゲートを通ってから、突き当たりのエレベーターで22階まで上がって頂けますようお願い致します」
彼女の案内は終始丁寧で、それでいて物腰が柔らかかった。
俺達はカードキーを受け取ると、彼女の指示通りにエレベーターまで辿り着いて、上の階へ行くボタンを押した。
一応会釈くらいした方がいいかと思って、加瀬さん達と受付を離れる時、俺達を見送る彼女に視線を向けたけど、その笑顔はやっぱり、顔の下に言いようのない悲しさを隠している様に思えた。
なんで、あんな風に笑うんだろう……
「今の受付の女の人、最初土屋の事見て驚いてたみたいだけど、知り合いか?」
加瀬さんがエレベーターに乗り込むと同時に、そう言った。
「……え……?」
そう言われて俺は、思いの外戸惑った顔をしたらしく、加瀬さんは苦笑いをして俺の肩を軽く叩いた。
「そんなに困惑した顔見せるなよ。やっぱり緊張してるのか?」
「あ、いえ……そうなんですか?
全然知らない人ですよ。会った事も無いです」
俺はそんな嘘を吐いて、加瀬さん達の前で余裕のある笑みを浮かべて見せた。
彼女は、俺には何の関係もない。
だから俺が、彼女の笑顔の先にある何かを気にする必要も無い。
最初に彼女と目が合った瞬間に、鼓動が少しだけ騒がしくなった事はともかく……
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