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窓から差し込む月の光が、皺の寄ったベッドのシーツも、それに寝そべる俺も、青白く照らしていた。
「……聞いていい?」
ベッドの上で自分の腕を枕にしながら横たわり、まるで独り言を喋る様なトーンでそう聞いた。
「何?」
遥香は、ベッドの脇にある一人掛け用のソファーに座り、自分の膝に置いたノートパソコンに向かって指を動かしながら答えた。
体を重ねた後、遥香は大抵こうして仕事をしている。
それがどんなに激しいセックスだったとしても、余韻に浸って、凛の様に甘い言葉を求めて来る事はない。
だから遥香とのセックスの後、俺達は同じ部屋にいるとはいえ、まるで他人の様に振る舞って、それぞれの時間を過ごす。俺は大抵寝てしまうけど。
「……本当は顔の下で泣いてるのを隠してる笑顔って、見た事ある?」
「何それ、詩でも作るの?」
遥香は指を動かしたまま答えた。
「別にそうじゃないけど」
「誰だって、どんなに悲しくたって無理して笑顔作るくらいはするでしょ」
「会う度いつも、そうする人だったら?」
遥香はパチパチとキーを叩く手を止めて、視線を俺の方に向けた。
「……それ、自分の事言ってるの?」
「……俺?」
その瞬間、心臓が居心地の悪い音を立てた。
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