年上の女

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「ああ、お疲れ。迷子にならなくて良かったな」 入り口に一番近い椅子に座っていた三澤が振り返って俺を見るなり、相変わらず淡々とした口調で、冗談なのか本気なのか分からない事を言った。 「…まあ、携帯の地図アプリという文明の利器を利用したから」 俺はそう言って、空いていた三澤の隣の席に座った。 「お、章人の同僚の人だよな?」 明るく話し掛けて来たのは、俺と三澤が座っている列の一番奥の席にいた男だ。 短髪で、人懐っこい犬みたいな顔をしている。 こいつが三澤の友達の佐伯君なんだろう。 「三澤と同じ会社で働いてる土屋です。遅れてすみません」 俺はクライアントと話す感覚で、作り物の笑顔を顔に貼り付けて佐伯君とやらに笑い掛けた。 「うんよろしくー! じゃあ全員揃った所で、改めて自己紹介でもしますかー。俺は佐伯(さえき)裕太(ゆうた)です!仕事は営業をしてます!趣味はサッカー観戦と……」 佐伯君が指揮を取り、自己紹介を始めて行く。 俺はその間に、俺ら男達の前に座っている3人の女達を適当に見回した。 奥から、パンツスーツが似合いそうなキャリアウーマンって感じのショートカットの女と、その隣は茶髪の長い髪を巻いたゆるふわ系の目が大きい女。 そしてパッと視線を向けた目の前の女は、長い黒髪を俺から見て左耳の後ろで一つに束ねていて、顔はまあ可愛いけど、何処か男慣れしていなさそうな素朴な雰囲気だった。 他の二人の女はともかく、こういう女ってセックス=恋人=結婚の方程式が当たり前の様に出来上がっていて、面倒くさそう。 まあ、適当に話して帰ればいい。 もう、どうせ今日で会う事も無いんだろうから。 そんな事を思いながら、小さく息を吐いた。
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