吾輩の猫である

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 その写真の猫は茶色のキジトラという種類だろう。おでこにあるアルファベットのMのような模様が特徴的で、写真では見えないが体はきっと虎のような模様が入っている。目はパッチリと大きく、黒目が大きくなっているためとても愛らしい顔をしている。まるで、吸い込まれそうな大きな黒い瞳に、僕は目を奪われていた。 「そんなにじっと見るニャ」 ハッとして僕は男を見る。しかし声の主は男ではなさそうだ。男はコーヒーを啜りながら店内を見渡していた。 「こっち、こっちだニャ」今度ははっきりと背後から聞こえた。 僕はすぐさま振り返る。すると、世界は一瞬にして塗り替えられ、そこにいる写真の猫と僕だけの世界になった。あたりは意識が飛んだ時のように真っ白で、少し離れたところにその猫は座っていた。前足をちょこんと揃え、大アクビをしている。  僕は目を合わせないように、視界の隅っこでその猫を捉える。すると不思議なことにその猫がまるで喋っているかのように声がまた聞こえるのだ。 「お前、わかってるニャ」声は少し嬉しそうだ。 「わかってるって、何を?」僕は不思議に思いながらも聞き返した。また、声が返ってくる。 「そんニャことより、こっちに来るのニャ」猫は前足をあげ、手招きしながらそう言った。 僕はゆっくりと、驚かせないように近づき、手を伸ばせばすぐに届く位置まで来た。 「ほれ」猫が目を瞑り少しだけ顔を前に出す。 「ほ、ほれって」 「撫でさせてやるニャ」猫は自慢げにそう言った。 僕は思いがけない言葉に意図せず声を出す。 「え!本当に?」僕はハッとして両手で口を塞ぐ。 「人間は誰しも猫の魅力には逆らえんのニャ」猫は歌うように高らかに言うと、「気にするニャ。ほれ、早く撫でるんだニャ」と続けた。 僕は恐る恐る、はやる気持ちを抑えながら手を頭に伸ばす。指先が猫の柔らかい毛に触れる。ほんのちょっと触れただけなのに、とても暖かい。心が解きほぐされるような、そんな暖かさがじんわりと伝わってきて涙が出そうになる。手のひらが猫の頭の輪郭に重なると、毛の流れに導かれるように手を動かしてしまう。猫がゴロゴロと喉を鳴らすと、まるで自分が撫でられているように心地よくなる。猫も気持ちよさそうに前足を握ったり離したりしている。幸せな時間だった。
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