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アラセルバ王国のティオフェル
○アラセルバ王国王室。
アナスターシャN「時は紀元前5000年、アラセルバ王国と言う莫大な資産と領地を持った王国が存在しました。アラセルバは100年ほど続いている都で、未だに創始の時代と変わらずに王子の頃から厳しく凛とした教育を受けた立派な聖君の元、平和な国が成続いています。よってこの国は創立以来、戦をしたことがありません」
赤子の産声
アナスターシャN「初代国王のギルデンバッハが死ぬと、その息子の2代目のメディオスが、2代目アラセルバ国王の地位に就きました。彼も又、父親譲りの聖君で民思いの心のいい王でした。メディオスはまだ王子だった18歳の時に、遠く離れたエジプトという王国よりクレオという王女を嫁取り、しばらくすると二人の王子と一人の王女にも恵まれました。先に生まれたのはツォリカという王女、そして次にイプスハイムという王子。二人共器量がとても良く、気立てもよく美しい子で、その上頭の良く勤勉でした。そのため国民からも多くの支持を受け、イプスハイムの方は将来の聖君を期待されていましたが…」
アナスターシャN「彼が14歳になった時、突然人が変わってしまったのです。酒には溺れ、賭博はする…今までの姿とは想像も出来ない程の放蕩者となってしまい、仕舞いには城の下女と関係を持ち、下女を妊娠させたとの噂が流れてしまい、イプスハイムも王位後継の座を捨て、国を追われてしまいました。さて、では後継はどうなるのでしょう?そんな話で国中が持ちきりになっていた頃、イプスハイムの下の弟・ティオフェルが5歳となり、王族学習室に入学する年齢となりました。やはりイプスハイムに似てとても美しく気立ての良い王子・ティオフェル…そして時は流れ、軈てティオフェルは12歳の少年になりました。成長した王子はより一層美しさを増し、大人に近づくあどけない色気も出てきました。しかしこの子は美しい顔にも似合わず、大変悪戯ざかりの男の子。それでも国民は、今度こそはとこのティオフェルに国の将来を期待していたのでした。しかし一つ…イプスハイムと違っていたのは…?」
寝所。ティオフェル、眠っている。メデア、土器鍋をタクトで叩く
メデア「王子様、朝にございますよ。お起きになってくださいませ」
ティオフェル「ん…んんっ」
女中「王子様」
ティオフェル「今起きるよ…」
布団の中を覗いて蒼冷める
ティオフェル「あ」
メデア「あらあら王子様、叉おねしょですか?」
ティオフェル「(泣きそう)メデア」
メデア「仕方のない王子様です事。大丈夫です、メデアめがきちんと洗って干して起きますわ。ほら王子様、早くお着替えをして朝のご準備を」
ティオフェル「ありがとう」
大広間。クレオとティオフェル。
クレオ「ティオフェル!」
ティオフェル「はい」
クレオ「そなたはもう12にもなる立派な王子なのだ!将来はお父上の後を継ぐ国王となる王子なのだぞ!それなのにまだおねしょとは何事だ!?」
ティオフェル「母上…お許しください」
アナスターシャN「そうかと思えば…」
学修堂。ペドロとティオフェル。ペドロ、講義をする。
ペドロ「よって聖君とは民の事を重んじ第一に…王子?王子様!」
ティオフェル「んんっ」
ペドロ「王子!学業中ですぞ!聞いておられるか!」
ティオフェル、ビックリして目覚める。
ペドロ「王子!」
ティオフェル「すまない…聞いていなかった」
ペドロ、ため息。
ペドロM「ティオフェル王子様にも困ったものだ」
アナスターシャN「ティオフェル王子は12になってもおねしょが治らない、しかも非常にマイペースで我が道な王子。そんな王子の将来を父も母も按じていました」
クレオ「王様、このままではあの子の将来が心配ですわ」
メディオス「うむ…如何にも。今のままのティオフェルに本当にアラセルバの後継を任せれるのか」
語り「しかし頭を悩ます両親や城の者共を他所に、ティオフェル王子は相変わらず気儘にやりたい放題。重臣達もこの子には大層手をやかせていました。そして国民達も城の者共も、この子がイプスハイムの荷の前を踏むんではないかとそんな心配も囁かれました。」
寝所。ティオフェルとメディオス
メディオス「なぁティオフェル」
ティオフェル「はい父上」
メディオス「お前には国王になると言う自覚はあるのか?国の父となる覚悟はあるか?」
ティオフェル「自覚や覚悟…あるもなにも私は国王になる気はありません!」
メディオス「ティオフェル!」
ティオフェル「私には兄上様がいらっしゃったのでしょう?本来ならば兄上様が王位を継ぐべきお方なのですから、私には関係ないはずではありませんか!」
メディオス「そうだ。しかしイプスハイムはこの国にはおらん。アラセルバを捨て、敵国である邪馬台国に行った。故にティオフェル、国の将来を支えていくのはお前しかいない。それ故、父はお前の将来が心配でならぬのだ。お前の自由さや気儘さ、その泣き虫で怖がりな性格はとても国王になるものの姿勢には見えぬ」
ティオフェル「故に私は!」
メディオス「そこでだティオフェル、今日はお前に大切なお話をしよう」
ティオフェル「大切なお話ですか?」
ティオフェル「え?」
メディオス「今申した通りだ。間もなくアラセルバでは戦が始まろう。それがその時の合図だ。それで万が一父に何かあったらティオフェル、アラセルバを守るのは本当にお前しかいなくなるんだ」
ティオフェル「そんな…そんな父上、変なご冗談を仰らないで下さい!」
メディオス「(笑う)大丈夫だ。言ってもそれほど早い事ではなかろう。しかし、何れはお前が生きている間に必ず来る。その為にもティオフェル、お前には確りとしてもらわねば困るのだ」
ティオフェル「分かりました父上。しかし私はどうすれば?私はまだ何も知らないのです」
メディオス「案ずるな。お前が一人前になるまで父が王としてお前の元にいる」
アナスターシャN「しかし」
戦場。大きな戦。
メディオス「ティオフェル、お前もいずれ戦を指揮する時が来る。この父の姿をしかと見ておけ!」
ティオフェル「父上!」
メディオス「アラセルバ出陣!」
メディオス「メデア、ブブ、王子を頼んだぞ」
メデアとブブ
メデア・ブブ「はっ」
メデア「王子様」
腰を抜かすティオフェル。
メデア「無理もございませんわ。アラセルバは長年平和だったゆえに王子様は戦をご覧になるのは初めてですもの」
ブブ「如何にも」
ティオフェル「父上は…父上はもうこのまま戻っては来られないのではあるまい?」
メデア「お気を確かに王子様、大丈夫です。王様は必ずや邪馬台国に勝利しお帰りになりますわ」
***
夢の中。クレオとメディオス、火刑台で燃やされている
ティオフェル「父上!母上!」
メディオス「ティオフェル!」
クレオ「そなたは強く生きるのだ!」
1年後。寝所。ティオフェル、飛び起きる。息を切らしている。
ブブ「王子様、如何なされたか?」
ティオフェル「ブブ…」
ブブ「酷く魘されておいででしたよ」
ティオフェル「恐ろしき夢を見た。数年前の戦で父上が邪馬台国に出撃し、母上が邪馬台国に捕らわれ夢だ。夢の中では父上も邪馬台国に捕らわれ、母上と共に火刑台にかけられ炎の中で」
ティオフェル、声を詰まらす
ブブ「王子様」
ティオフェル「ブブ、私はどうすればよい?何故に何百年にも渡って太平の世が保たれてきたこのアラセルバがこの様な事になる?何故に東方のアラセルバには関係もない南方の邪馬台国が攻めてくる?」
ブブ「今から5000年前…邪馬台国には卑弥呼と言う女王がいた事は王子様もご存じでしょう。その、女王卑弥呼が復活する年が軈て訪れるとアラセルバの歴史書に書かれていると、以前にメディオスから聞いた覚えがあります」
ティオフェル「女王卑弥呼の復活?」
ブブ「左様。王子様も5000年前のあのおぞましき出来事をお勉強なされたでしょう」
ティオフェル「??」
ブブ「ペドロに習っておられないのですか?王子様のお年の王族であれば誰しもが知っておいでなのに」
呆れたため息。
ブブ「もしや王子様、又もお居眠りを?」
ティオフェル、ドキッ
ブブ「よいでしょう。わたくしブブめがお話致します。5000年前の出来事です。創立されたばかりの国・邪馬台国のゴノスロー宮殿にアナスターシャと卑弥呼という王女がいたんです。二人ともとても仲睦まじく、腹違いの姉妹ではありましたが実の姉妹のように過ごしていました。卑弥呼はアナスターシャよりも5歳年下であったため彼女を姉のように慕っていました。しかし互いの母親は二人が仲良くすることを大変嫌っていたんです」
ティオフェル「何故だ?」
ブブ「アナスターシャは大王・クンドルの正室の子、卑弥呼は側室の子だったのですが、皮肉にも正室と側室の家柄は宗派が真逆で、敵同士だったからです。当時の邪馬台国には“革命派”と“国風派”というものが存在し、革命派は古い文化を捨て、新しい文化を取り入れていこう!国を明るくしよう!というもので、国風派は古き良き国の文化を守り抜こうと言うものでした。アナスターシャの家は革命派、卑弥呼は国風派だったんです」
ティオフェル「そんな…同じ国の者同士で争うだなんて…」
ブブ「そしてついに…恐れていたその時が訪れてしまった…」
ティオフェル、息を飲む。
ブブ「大王のアルソン・クンドルが病気で急死したのです。しかしクンドルには男の子がなく、後継に値する人はアナスターシャしかいない…そうなると過去初めての女帝誕生。しかしその事がきっかけで邪馬台国は内戦となってしまったのです」
ティオフェル「なぜ…」
ブブ「革命派の娘が国の母となるのです。そしたらどうなります?邪馬台国は革命派の権力によって変えられ、国風派は革命派によって滅ぼされてしまう。国風派はそれを恐れたのでしょう。元々宗派のせいで国が分裂していたのですから、敵が統治者になったところで纏まる筈がありません。国風派にとってアナスターシャが王位に就くなどあってはならぬこと、どの様な汚い手を使ってでもそれだけは防がなくてはならない…そこで国風派は刺客を派遣して革命派の者共を皆殺しにし、アナスターシャも邪馬台国に戻れぬように東方の国に連れ去りました。遠く離れた地で誰にも知られる事なくアナスターシャを殺す計画でいました」
ティオフェル「そんな…なんと卑劣な!」
ブブ「しかし幼き頃より仲が良かった卑弥呼はどうかアナスターシャの命は取るなと国風派に嘆願したため、彼女は殺されずにすみました。しかしアナスターシャのその後の暮らしはとても酷なもの…死んだ方がよかったと思ったことでしょう。アルプラート宮殿の後宮に送られ、側室や上位女中の側で雑用をさせられる毎日…王女として育った彼女にはとても辛かったでしょう。しかしそんなある日、アナスターシャに転機が訪れました。アルプラートの国王シラ・ルエデリがアナスターシャを養女として迎えられたのです。ルエデリは大層アナスターシャを可愛がり、なに不自由ない暮らしをさせ、彼女に女王としての資格までをお授けになったのです。間もなくして国王がこの世を去ると約束通りにアナスターシャが女王として即位をし、こうして嘗ての身分を取り戻しました。まだ若いながらに賢くて頭のいい女王はすぐに国の支持を集め、アルプラートを拡大して国を纏め上げ、勢力も強めていったのです。僅かまだ15歳にも満たない少女でした」
ティオフェル「私よりも若くして国の統治者か」
ブブ「左様です。そしてそんな話は遠く離れた邪馬台国・ゴノスロー宮殿にも届きました。こちらではあの卑弥呼が女王の座についていました。卑弥呼はそれを知り、アナスターシャに対して危機感を募らせ、生かしておいたことに後悔しました。もはや過去にアナスターシャを慕い、彼女を愛した事ももう忘れて。このままではアナスターシャが腹いせに邪馬台国まで攻め入り、国を奪うと思ったのでしょう。卑弥呼はそれを防ぐべく兵を挙げ、アルプラートへと進撃を始めました。宣戦布告を受けたアナスターシャも兵を挙げ、瞬く間にアルプラートと邪馬台国は戦となったのです」
ブブ「でも、その時が初めのその時となったのです王子様」
ティオフェル「初めのその時?」
ブブ「アルプラート宮殿に巨大な流星が落ちたあの出来事です」
ティオフェル「とは?」
ブブ「全く…しっかりなさってください王子様。これもご存じないのですか?」
ティオフェル「し…仕方なかろう!私とて父上と母上なき傷を負い学業も手につかぬのだ。続けてくれ」
ブブ「ちょうど戦の真っ最中でした。邪馬台国の者はその流星の落下により殆どの者が滅ぼされてしまったが卑弥呼だけは生き延びたのです。勿論、アルプラート王国も滅びてしまい国はぐちゃぐちゃ、もうどうにもならない状態で人も住めない」
ティオフェル「アナスターシャは?」
ブブ「恐らく巻き込まれて死んだのではと言われておりますが、実際彼女のご遺体は何処からも見つからなかったそうです。そこで後々、人々の間で広まった伝説は卑弥呼が邪術をかけたのではと言うもの。邪術によってアナスターシャはこの世でなくなったのではなく、お体ごと何処かに消されてしまい、そこで息絶えたとか。それからと言うもの500年~1000年に一度の割合で戦が起こり、その年には必ず流星が落ちて国を破滅させると言うことが起こっていました。しかしそれも時と共にいつしかなくなり、人々から伝説や噂も忘れられていったのです。一説では誰かが呪いを封印する儀式を行ったのではないかとも伝えられていますが…」
ティオフェル「封印する儀式?それはどういうものだ?」
ブブ「いえ王子様、それは単なる噂でございますよ」
ティオフェル「しかし…」
ブブ「さぁもう夜も更けました。王子様ももうお休みください」
ティオフェル「わかったよ…おやすみ」
ブブ「お休みなさいませ」
***
尖り石縄文公園の野原。現代。 柳平麻衣、小口千里、岩波健司
健司「よしっ、みんな集まったな」
麻衣「えぇ!」
千里「うん。でも僕らなんで集まったんだっけ?」
健司「あーのーなー!お前、人の話ちゃんと聞いてたか?」
麻衣「今日は流星群を見に来たんだらに」
千里「あ、そうか」
健司「確りしろよな」
千里「ごめん」
星が流れる
千里「あ、流れ星!」
麻衣「又だわ!」
健司「本当だ。しかし今日は昼間は金環日食だったし、夜は満月だし、何か変な日だよな」
麻衣「こんな年は千年とか二千年に一度あるだとかないだとかのとっても貴重で珍しい日なんですってよ。だから今日は終わるまで絶対眠らずに見ているわ」
健司「俺だってそのつもりさ」
千里「僕、終わる前に眠っちゃうかも」
健司「ダメよん。今夜は」
色っぽく
健司「ね、か、さ、な、い、わ、よ」
千里「やめろよ」
麻衣、笑う
麻衣「二人ともおふざけはしてないで。これだけ流れとるんだで早く願い事しなくっちゃ!」
健司「じゃね、俺はワルシャワに行きたい」
麻衣「ワルシャワに?」
健司「そう。ワルシャワにある音楽の名門行ってバイオリンを学びたいんだ。呪いも打ち砕くようなすざまじきジプシーバイオリンを弾きたいのだ」
千里「バイオリンか。僕はピアノかな。早く上手になってショパンのポロネーズやリストのエチュードを弾きたい。」
ため息
千里「でもな…その前に僕、勉強が出来るようにならなくっちゃ。だって僕は今までに一度だってテストの点数でママに誉められた事がないんだ。いつでも十点や十五点で、最悪な時には0点さ。一度でいいから五十点以上は採ってママに誉められたい。そして今よりももっと強い人間になりたいんだ。僕だって男だもん、男らしくて逞しくて、人を助けられる人になりたい!」
麻衣「テストにピアノにバイオリンか。んじゃ私はねぇ?」
ジェスチャー
麻衣「うん!私もこんな風に!こんな風に!護身や武術を磨いて父さんのような警察官か、人を助ける強い人になりたいわ」
健司「武術だぁ?お前がか?」
健司、大笑い
麻衣「何よ!失礼しちゃうわ!そんなに笑うんなら」
気の棒を持って立つ
麻衣「妾と一度勝負をして見るか?妾の剣を受けてみるがよいわ!」
千里・健司「恐れ入った…姫」
麻衣「うむ。分かれば良いのじゃ」
笑う
麻衣「それかそうね、考古学とかも面白そうかも」
千里「考古学?」
麻衣「そうよ。ほら、古代史って謎が多いら?ほいだもんで私、色々調べてみたいのよ。気になるのはやっぱり茅野市7000年の地よね」
健司「確かに俺もそれ、興味あるわ。ここには嘗てアラセルバとか言う名前のでっけー王国があったって話だろ?なのにそんな大きな王国だったにも関わらず、アラセルバについては良く分かっていない。調べてみたいじゃん!」
千里「7000年か。今まで色々な人がここに住んできたんだよね。当時の人達も今の僕らみたいに星を見たのかな?」
麻衣「どんな願いをかけたのかしら?」
健司「当時なんて願ったとすりゃ国の平和か無病息災じゃね?そんなでかい王国なら戦も耐えなかっただろうし」
麻衣「そうね…あら、空を見て。あの光何かしら?」
健司「飛行機かUFOか?」
麻衣「まさか!」
千里「こっちに近づいてくるよ!」
光の玉が落ちる
三人「うわぁっ!」
***
麻衣「今のなんだっただ?」
健司「さぁ?でも俺たちの町になんの被害もなかったみたいだでとりあえずは良かったんじゃね?」
千里「そうだね。でも…今のでもう流星は終わり?」
健司「らしいな」
千里、伸びをして欠伸
千里「僕もう眠くなっちゃった」
健司「俺も」
麻衣「私も」
悪戯っぽく
麻衣「なら、ぼちぼちやりましょうか?あれ」
千里・健司「あれとな?」
縦穴式住居内。 麻衣、健司、千里が入る。
健司「ここって尖り石の復元住居だろ?」
千里「こんなところで何するの?」
麻衣「んっ、見てて」
干し草の上に倒れ込む
麻衣「わぁー気持ちいいわ。二人もやってごらんなさいよ」
健司「お、おいっ、何やってんだよ?怒られるぞ。」
麻衣「大丈夫、大丈夫。夜なんてこんなとこ誰も来ないわよ。それに明日は尖り石祭りだら?ここなら始まり次第すぐに会場に参加できるじゃない」
健司「じゃあまさかお前…」
麻衣「そ。そのまさかだに。どう?」
健司「うっおー!めちゃサバイバル! 楽しそうじゃん!俺のった!」
麻衣「流石!話がお分かりになる」
千里「え、えぇー?」
麻衣「せんちゃんも勿論だら?」
千里「嫌だよ!帰ろうよ!」
健司「帰るだぁ?お前は本当に意気地のない男だな」
千里「だって…だって万が一日本狼とかナウマン像とかが出てきたらどうするの?第一縄文人の幽霊とかに襲われたらどうすんのさ?」
***
健司「縄文人の幽霊に?」
麻衣「日本狼?」
健司と麻衣「それにナウマン像…」
二人、大笑い
麻衣「せんちゃんバカはよしてに!あーお腹いたい!いくら縄文時代の遺跡だからって、今時日本狼にナウマン像って!」
笑いながら
麻衣「あんた今までここに住んでてナウマン象に遭遇したことある?日本狼なんて見た事ある?縄文人の幽霊なんて見た事ある?」
千里「それは…ないけど」
麻衣「な!大丈夫よ。もし変なのが襲ってきたならこの柳平麻衣が警察官の父の名に懸けてお守りいたす!ってこんでお休みなして」
寝る
健司「千里も早く寝ろよな。お休みなして」
千里「お休み」
***
夜中。虫が鳴いている
健司「んんっ、おしっこおしっこ」
外に出る
健司「んーっ、まだ夜か。綺麗な満月だな」
用を足し出す
健司「ん?」
健司M「何だあの灯り?山の上に今まであんな灯り見えたっけ?」
十吠えや人の声。
麻衣「もう煩いなぁ…何?」
寝惚ける
麻衣「健司、こんな夜中に何騒いでんのよ?」
千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「せんちゃん、なに?」
千里「あれ…」
麻衣「あれ?」
千里、指差す。二人の目の前に日本狼。そこへ健司。
健司「おい…何だこれ?」
麻衣「とりあえず私には…」
千里「狼に見えるけど…」
三人、顔を見合わせる
三人「まさかね!」
笑う。狼、三人に迫り寄る
健司「こいつ、何かヤバくね?」
麻衣「今にも吠えそう…」
千里「と言うか、僕らを襲おうとしているみたい…」
狼、十吠え
三人「うわぁ!」
王宮・学修堂。ティオフェルとペドロ
ペドロ「よって聖君とは民の事を思い、民を第一に考え、民のために最善の…王子様!聞いていらっしゃるか!」
ティオフェル「ん?」
ペドロ「王子様はこの国の君主となられるお方ですぞ」
ティオフェル「だからって何でこんな夜中に勉強をしなくちゃならないんだ!もう眠いよ…」
ペドロ「王子様が昼間おサボりになられるから、こうやって補修をしなければならないのです。もうすぐ試験も近いのですよ。その様な事で合格できるとお思いですか?出来なければ叉初めから…」
ティオフェル「嫌だよ!私は試験なんて受けるつもりはない!」
ペドロ「王子様!そんな事でどうやってこの国を守っていけます!?」
ティオフェル「煩いなぁ…私だって国王になりたい訳じゃない。無責任な兄上が王位を放棄したから仕方なく私が後取りとして生きているだけ」
鼻を鳴らす
ティオフェル「王様になるための勉強なんて嫌だよ。だってなるつもりもないんだもん。だから私はもう寝る。続きはまだ今度やるよ」
走って退室。
ペドロ「(やれやれ)ティオフェル王子様にも本当に困ったものだ」
***
市街地の橋の上。女装をしたティオフェル、竪琴を弾いている。
ティオフェルM「日がな一日こうやって、昼間は揺ったりと何も考えずに好きな竪琴を弾いて過ごす。これこそ私の一番安らげる時だ。この何て静かで穏やかな日…なぁピぺ。お前はいいよな、羽があるからいつでも好きな時に自由に飛び回れるんだもの」
山の手。麻衣、健司、千里、狼に追いかけられている。
麻衣「これっていつまで逃げていればいいのよ?」
健司「知らねぇよそんなの、死んだふりでもしろ」
麻衣「そりゃ熊の時でしょうに!」
千里「ママぁ!」
鈍い鳴き声
麻衣「何、今の?」
千里「麻衣ちゃん、健司君…」
健司「狼だ…」
千里「死んでるね…」
麻衣「とにかくありがとうございます。助けてくれたのね」
千里「本当にありがとう」
健司「おじさんたち尖り石祭りのスタッフ?」
千里「何か言葉通じてないみたいだよ」
麻衣「見た感じ日本の方ではなさそうね」
健司「ってより何かこの状況…俺たちヤバくねぇか?」
千里「確かに…」
麻衣「どうする?」
ホースとポテト、剣を振るう。
三人「わぁぁぁぁぁぁ!」
麻衣「追ってくるわ!」
健司「全速力で走れ!」
麻衣「無理よ!大人から子供が逃げ切るなんて出来っこないわ!諦めましょうよ!」
健司「ばか野郎、諦めたら殺されるかも知れねぇーんだぞ!お前ら死にてぇのかよ?」
千里「僕もうやだ、ママぁ!」
橋の上。竪琴を弾くティオフェル。
ティオフェル「全く、今日は何なのだ?騒々しくて休むことも出来ない」
ティオフェル「あれ?おいピぺ!何処に行くんだ?待て、待てったら!」
追いかけて走る
ティオフェル「ピぺー!ピぺー!あ、ゲッ…」
ポテト「おぉこんなところでそなたに会えるとは!なんと言う光栄!」
ティオフェルM「オエッ」
ポテト、ティオフェルにベタベタ。
ポテト「私はそなたの敵ではない。そう私を避けるな」
ティオフェルM「お前が今ベタベタしてるのはバッチリお前の敵で、お前の憎むアラセルバの王子でしてよ」
ポテト「さぁ、今日こそご身分とお名前を私に教えなさい。見たところどうやら、あなたは普通の町娘ではないようだ」
ティオフェルM「私の事を本当におなごだと思ってらぁ。こりゃ面白いや、ならもう少しこいつの前では娘を演じよう。えーと、名は何と名乗ろう?」
ティオフェルM「そうだ!」
ティオフェル「あぁ…あなた様は邪馬台国のポテト様ね。では約束通り、私の身分をお話致します。私はこの国の王宮に使える下働きの女でロミルダと申しますの」
ポテト「ロミルダ、なんと美しゅうお名前。そなたが宮殿の女とは驚いた!しかしアラセルバは無王で乱れている。この国の王子だってまともじゃないとの噂だ」
ティオフェルM「誰がまともじゃないだって?」
ポテト「そんなアラセルバに住むなどそなたには危険過ぎる」
ティオフェル「何故?アラセルバはとても平和でいい国よ。時々邪馬台国のバカがうろついているみたいだけど…」
ポテト「今は確かに平和でいい国の様に見えるでしょう。しかし、そなただけに教えておきます。他のものにはまだ決して漏らしてはいけません」
ティオフェル「なんですの?」
ポテト「我が邪馬台国の女王・復活なされた卑弥呼様がアラセルバの王子の首をとり、無王のアラセルバを統一しようとなさっている」
ティオフェル「何とまぁ!」
泣く演技
ティオフェル「つまりそれは宣戦布告をしてくると言うことですか?ではアラセルバはどうなるのです?」
ポテト「故にロミルダ嬢」
ティオフェル「いいえポテト様、私はアラセルバが大好きなのです!何があろうと絶対にこの国を離れるわけにはいきません!私の大切な者共を裏切るような事は決して出来ません!」
ティオフェル「どうしても戦は避けられぬ事なのですか?和睦する事は出来ぬのですか?」
ポテト「女王卑弥呼様がご復活なされた今、それは難しいのです」
ティオフェル「何故です?私は戦など嫌いです!どうぞアラセルバを、この私のふるさとを滅ぼさないで下さいまし!」
ポテト「ロミルダ殿…私も下の人間ゆえ上の者にお従いしているだけです。故に私の力ではどうすることも…」
ティオフェル「どうかどうか、戦だけはお止めくださいまし!和睦をお考えください!」
ポテト「卑弥呼様にもお話ししてみましょう…」
***
ティオフェルM「邪馬台国と戦争!?こりゃ偉い事になったぞ!」
立ち止まる
ティオフェル「あ、ピぺの事を忘れていた!」
***
麻衣、健司、千里、息を切らして歩く
麻衣「誰も追って来ないわ」
健司「まだ油断はするな」
麻衣「分かっているわ」
千里、もじもじ。
千里「もう嫌だよ!帰りたいよ…」
健司「千里どうした?」
千里「トイレに行きたいんだよ!」
健司「こんな状況の中でそんな事言うんじゃねぇよ!我慢しろ!」
千里「うぅ…」
健司「ところで千里、お前…どいでそんなもん持ってるんだ?本物だろ?」
千里「あ、これ?勿論本物さ。僕の可愛いおかめのルルちゃん、いつでも何処でも一緒なんだ!だから今日も連れてきた」
健司「逃がすなよ」
千里「誰が逃がすものか!あれ?」
千里「セキセイインコが飛んでくるよ。誰のだろう?」
ティオフェルの声「ピぺー!ピぺー!」
千里「誰か来る」
ティオフェルがかけてくる
ティオフェル「ピぺー!」
ティオフェル「ピぺ、良かった。こんなところにいたのか」
千里「これは君のインコ?」
ティオフェル「あぁそうだ。しかし気安いぞ、私を誰と心得る?私はこの国の王子だぞ」
ティオフェル「さぁピぺ、帰ろう」
***
麻衣「王子様って言った?」
千里「うん。でもあの子、女の子だったよね」
健司「王女の間違いってか?」
笑う。
健司「あ…」
麻衣「さっきの野郎共よ」
千里「こっちに向かってくる…どうしよう」
三人、土器の中に引きずり込まれる
***
エステリア、警戒しながら三人に合図
エステリア「もう出てきていただいて大丈夫です」
健司「痛ってぇ!姉さんいきなり何すんだよ?痛ぇじゃねぇか!」
エステリア「申し訳ございません。今、この辺りには邪馬台国の兵士がうろうろしています。やつらは大変残酷で卑劣な人種です。あなたたちも見つかってしまったら八つ裂きにされてしまうかも知れません!」
麻衣「では私たちを助けてくれたの?」
エステリア「王子様がいつも、例え敵国の者や他国の者であろうと、罪のない者や弱き者はお救いするもの、それが人だとおっしゃっていますので」
千里「ありがとう」
エステリア「礼には及びません。とにかく私に着いてきてください。あなた方を安全な場所へお連れいたします」
アラセルバ宮殿。地下階段を降りる
健司「姉さん、ここは一体何処なんだ?」
千里「これって本物のお城なんだよね?」
麻衣「古代みたい」
エステリア「あなた方は違う国から来られた方なのですね。ここはアラセルバと言う王国です」
三人「アラセルバぁ!?」
地下部屋。
エステリア「王子様いらっしゃいますか?」
ティオフェルの声「いま取り込み中で忙しいんだ。後にしてくれ」
エステリア「王子様!お取り次ぎを!」
ティオフェル「(イライラ)一体何なんだ!?あ…」
健司「あ…あんたって」
麻衣「さっきの?」
ティオフェル「如何にも」
結った髪を解く
ティオフェル「私が先程少女に化けていた王子、ティオフェルだ」
健司M「同じ男なのに可愛いぜ」
千里M「とても男の子には見えないよ」
麻衣「でも何で又女装なんかしてんのよ?ひょっとしてあんた…そういう趣味のある変態王子なの?それともおかま?」
ティオフェル「な、何だと無礼者!口を慎め!誰に向かってその様な口を聞いているのかそなたは分かっているのか!?今一度言う。私は王子だぞ!」
麻衣「ふんっ!だったら何よ?私を罰する気?罰するなら罰すればいいんだわ」
ティオフェルM「この女…火炙りの刑に処す」
エステリア「お二方ともお止めになってください!」
***
麻衣「ところでエステリア、さっきいっていた邪馬台国って何?」
エステリア「えぇ…」
ティオフェル「まさにその事で私は悩んでいる。エステリア、邪馬台国に関して新しい情報を掴んだ」
深刻に蒼白な顔
ティオフェル「はぁ…」
エステリア「如何なされましたか?」
ティオフェル「邪馬台国が我が国を滅ぼそうといずれ宣戦布告をしてくるらしい。そして私の首をとり、無王であるこの国を邪馬台国と統一させると言ってた」
全員「え?」
ティオフェル「先程邪馬台国の親衛兵・ポテトに聞いたので間違いはない。ポテトはロミルダとなった私にお熱で何でも話してくれる。私が男だとも知らずに。だからこのままやつを騙し、利用して口を割らせるのは容易いことだ…しかし邪馬台国の情報をいち早く聞いたとて何になる?どうすればよい?私に何ができるというのだ?」
エステリア「王子様…」
ティオフェル「ついに王子の私が一人で判断し動かなければならない時がやって来てしまったのだ。私は一体どうすればいい?何をすればいい?」
千里「ん?僕、確か…」
麻衣「せんちゃん?」
千里「確かリュックの中にしまったままの筈なんだけど…あった!あった!これだ!」
健司「何だ?」
麻衣「本じゃないの」
千里「茅野市の図書館で借りたままの本を入れっぱなしにしておいたんだ。まさかこんな風に役立つとは…」
ティオフェル「何だそれは?」
千里「考古史の歴史書ですよ。きっとこれを見ればアラセルバの歴史が書かれている筈。そうすればこの先どうなるかもちゃんと書かれているはずでしょ?先の運命を予め知っておけば何をすればいいかも冷静に考えられると思うんだ」
健司「千里…お前今日は凄いな」
麻衣「冴えてる!」
千里「ん?あれ?」
健司「ん?」
千里「これを見て…この本読めないよ…みんな何処かの外国語で書かれてる。おかしいな、日本語のやつを借りたはずなのに」
麻衣「ギリシャ語みたいね」
ティオフェル「どれ?」
読む
ティオフェル「こ、これは!」
エステリア「王子様?」
ティオフェル「お前が…ど、ど、ど、どうしてこれを?」
千里「だ、だから茅野市の図書館で借りてきたんだよ…」
麻衣「一体どうしたって言うのよ?」
ティオフェル「これは昔に父上がお話になっていた予言の歴史書だ」
千里・麻衣・健司「予言の歴史書!?」
ティオフェル「そう。それは今から遡ること5000年前の事。邪馬台国の創始の大王・クンドルが持っていたと言われる物で邪馬台国に最古から伝わる伝説の書物…邪馬台国の大王しか持つことが許されない物なんだ。何故にお前がそれを?」
剣を向ける
ティオフェル「さては邪馬台国の者か?卑弥呼の手下なんだな?」
健司「違うよ!何処をどう見りゃ俺たちが邪馬台国の奴に見えるんだよ!」
麻衣「(笑う)」
健司「お前は何で呑気に笑ってんだよ?」
麻衣「面白くなってきたわと思ってさ」
健司「は?」
ティオフェル「とにかくもう、お前たちを信用することは出来ない。アミンタ!メルセイヤ!」
アミンタ、メルセイヤ
二人「は、王子様」
ティオフェル「直ちにこの子らを捕らえよ。逃げられぬ様に牢にぶちこめ!」
二人「は」
健司「くそ王子!」
麻衣「この能無しのへたれバカ王子!」
ティオフェル「なんだと?無礼者!お前など股割きの刑に処するわ!」
麻衣、あかんべ
千里M「どうしよう…僕、トイレに行きたかった事すっかり忘れてたよ…でもこの状況、明らかにトイレに行かせてくださいなんて言える状況じゃないし…」
ティオフェル「はよ連れていけ!」
千里M「あぁ…お願い!嫌だ…」
お漏らし
健司「千里…」
麻衣「あぁ…やっちゃった」
ティオフェル「お前…何故に私の部屋で…」
舌打ち
ティオフェル「しかし、もうやってしまえば仕方があるまい。ブブ」
ブブ「なんでしょう、王子様」
ティオフェル「私の着替えと下着を持ってこい」
ブブ「は。は?お着替えとお下着でございますか?」
ブブ、ティオフェルの全身を見る
ティオフェル「無礼者!私じゃない!」
***
ブブ「王子様、お持ち致しました」
ティオフェル「ご苦労。ではお前は下がれ。メデア!」
メデア「はいはい王子様」
ティオフェル「この者の着替えを頼む。終わったら残りの子供二人が閉じ込められている牢にこの者も入れろ」
***
メデア、千里を着替えさせている
メデア「まぁまぁ、それにしても何と可愛らしいお姫様だ事!」
ティオフェル「私も女に王子の服は着せたくはないが…致し方あるまい。姉上の衣装はこの子には少し大きすぎる」
メデア「王子様はお優しいのですもの、こう言った困った方を放ってはおけないのですね」
ティオフェル「メデア!」
メデア「そうお怒りになられませぬよう。王子様は可愛らしい姫様には気むずかしそうにお接しになられつつも、本当はお優しいお方ですものね」
ティオフェル「いくら乳母やとはいえ王子に向かって無礼ではないか!?」
咳払い
ティオフェル「しかしながらけしからん者だ!王子たるこの私の部屋で粗相を抜かすだとは。いくらおなごとはいえ許しがたい事だ!私は男だが生まれてからこれまで一度としてその様な失態をしたことがないぞ」
メデア「まぁ、それは誠にございますか王子様?」
クスクス
メデア「今でしで毎晩の様におねしょをされているではありませぬか。それに、数年前のあの出来事をもうお忘れですか?」
ティオフェル「ぶ、無礼者!メデア、こ…今度その様なことを申してでも見よ!例え乳母殿であろうと容赦せぬ!」
千里、ククっと笑う
ティオフェル「お前っ」
剣を向ける
ティオフェル「…あ?」
千里を見る
ティオフェル「お前って…まさか」
メデア「まぁ!」
千里「そ、そうですよ。僕はおなごではありません。正真正銘のおのこですよ!」
ティオフェル「おや…」
***
メデア「さぁ出来ましたよ。王子様、こんなに可愛らしいお坊っちゃんを誠に牢にお入れするなどとお考えですか?」
ティオフェル「仕方がない。この者には全てアラセルバや邪馬台国の事について話してしまったからね。こいつがやつらの手下ならうっかり仲間らにアラセルバの情報を漏らされても困る」
千里「だから僕らは邪馬台国の人じゃないんだってば!あの歴史書が何よりの証拠じゃない!」
ティオフェル「あの本だと?バカを申せ!あの本こそお前が邪馬台国の使者であるという紛れもない証拠だろ!」
メデア「まぁ…」
千里「だから話を聞いてくださいよ!あの本にはこれから先の事が全て書かれている…あなたとアラセルバの将来何が起こるかが書かれているんです」
ティオフェル「だったら?」
千里「それを見ればこれからどうすれば良いかが事前に分かるでしょ?だから僕も王子様とアラセルバを救うために協力します!あなたや国のために…そしてあなたに信用してもらうために」
ティオフェル「ふーんなるほどね」
笑い出す。
ティオフェル「それは面白い。ではもしお前の手柄あってアラセルバの平和を守る事が出来ればお前たちを信用し、残りの二人も釈放しよう。しかしアラセルバを窮地に落とす様な事あらば…その時はあの仲間共々、お前の首も跳ねる」
千里「ひぃぃぃぃ!」
ティオフェル「分かったな!」
千里「はいぃ…」
***
ティオフェル「尖りの森?」
千里「はい。そこに尖り石という名の大きな石があるんだ。その石は遠い昔に空から降ってきて…その時に何かが石の下敷きにされたって学校で習いました。それから流星による神隠しがあるだとかないだとか」
ティオフェル「神隠しとは?」
千里「人が消えちゃうんです。その流星の年に人が現れたとか消えちゃったとかするんだとか」
ティオフェル「もうよい…」
千里「どちらへ?」
ティオフェル「尖りの森へ行く」
千里「えぇっ!?今からですか?」
ティオフェル、髪を解く
千里「王子様?」
自分の髪紐で千里の髪を結う
千里「王子様?」
ティオフェル、衣装と下着を脱いで女の格好をし出す
千里「あ、あの…一体何を」
ティオフェル「町に出掛ける時は王子と知られないようにおなごに化けるんだ。いつ何処で邪馬台国のやつらに出会うか分からないからね」
ティオフェル「出来た。お前は髪をこうして私の衣装を着ると私に良く似ているんだね」
笑う
ティオフェル「これなら完璧だ。後は頼んだよ」
千里「え?え?頼んだって何を?」
ティオフェル「私は暫しお前を信じてかけてみることにしよう。だから私は数日間出掛けてくる。その間この城の番を頼むよ」
千里「番ってまさか…」
ティオフェル「お前に私の代わりに王子を演じてもらうという事だ」
千里「ひぃぃっ」
ティオフェル「只し、あの者らを釈放したり勝手な事をしてもらっては困る。そんなことをした日には…」
千里「分かりました」
ティオフェル「ではメデア、ブブ、エステリア、この者の事と私の事は私たち以外秘密だぞ。誰にも口外してはならぬ。それから少年」
千里「僕は千里です!」
ティオフェル「千里、お前も私が帰るまでは私との約束は必ず守れ。私もお前との約束は守る」
千里「はい…」
ティオフェル「では私は行きます」
慎重に走っていく。
千里「あぁ…」
エステリア「王子様…」
千里「王子様って呼ばないで下さいよ…僕もうどうにかなりそうだ」
市街地。ティオフェル、竪琴を抱えて色目を使いながら歩いている
ティオフェルM「と言っても、尖りの森って一体何処にあるんだろう?今まで聞いたこともない場所だ。あ!あのおばあさんなら人が良さそうだ。よし!」
可愛らしく
ティオフェル「ねぇおばあさま、ちょっとお訪ねして宜しいかしら?」
老婆「まぁまぁ娘さん、どうしたんだい?」
ティオフェル「尖りの森って場所に行きたいの。おばあさまご存じ?」
老婆「尖りの森?お前さんあんなところまで行くのかい?一人で?」
ティオフェル「ご存じなのね!道を教えて!」
老婆「あんなところ可愛い女の子が一人で行く様な所じゃないよ。とても危険すぎる」
ティオフェル「大丈夫よ!だからお願い、教えてちょうだい!」
老婆「分かったよ。あのねぇ…」
***
ティオフェル「分かったわ。どうもありがとう!」
老婆「本当に気を付けるんだよ。道のりは大変だ、これを持ってお行き。」
ティオフェル「これは?」
老婆「団栗のお餅だよ。今ここらじゃとても人気でねぇ、すぐ売れちまうんだけど…今日はまだ残っててよかった。あんたにゃ特別だ。お代はいらないからね」
ティオフェル「ありがとう、ご親切なおばあさま。ではごきげんよう」
走り出す
ティオフェル「あぁ、恥ずかしかった。でも私の変装は完璧。誰も私が男でしかもアラセルバの王子だなんて気が付かなくってよ!オホホ…」
餅を食べる
ティオフェル「あら、このお餅美味しいわね」
歩き出す
***
息を切らしたティオフェル
ティオフェル「あれから一体どれくらい経つ?やっと山の手までは来たみたいだけど…もうダメだ、足が縺れて一歩も歩けない…一休みをしよう」
ピぺが飛んでくる
ティオフェル「ピペッ!来てくれたのか!何故ここが分かったんだい?よしよし」
餅をちぎって小さく丸める
ティオフェル「お腹が空いたろ。お前も食べるかい?」
宮殿内の牢。麻衣と健司。健司、格子を揺らす
健司「くっそぉ、あれからどれくらい経つんだ?」
麻衣「さぁね」
健司「大体千里はどうしたんだよ?」
麻衣「知らないわよ!もしかして先に…」
健司「お、おい縁起でもないこん想像してるんじゃないだろうな?」
麻衣「せんちゃん、お漏らししちゃって王子はイライラしていたみたいだから…ただでは済まされないんじゃない?」
健司「お前なぁ…そういう恐ろしい事さらっというなよ…」
***
麻衣「なぁ健司…」
健司「な、なんだよ…そんな目で俺を見つめるなよ」
麻衣「お腹空いたわね」
健司「そうだな…全然俺たち食ってないもんな」
麻衣、鼻を鳴らす
麻衣「歴史書なんて所詮嘘っぱちよ。みんな実際の歴史を知らないからあんな推測をするんだわ!だから私、絶対に考古作家の仕事について書いてやるんだから!」
健司「何て?」
麻衣「所詮はバカ王子だったって事よ!」
健司「バカ王子って…ひょっとしてあいつの事?」
麻衣「他に誰がいるっていうのよ?」
健司「お前…相手は王子だぞ。よくもまぁそこまででかい態度でいられるな」
麻衣「当たり前よ!王子が何?ただ王族に生まれたってだけで所詮ただのガキじゃないの!」
鼻で笑う
麻衣「あんなのが王位になんてついたら一年も経たない内に国は滅びるわ」
健司「麻衣…そこまで言うか」
お腹が鳴る
二人「腹へったぁ…」
麻衣「あーあ、本来なら今頃は縄文祭りなのよね。キィィィッ悔しい!この日のために折角貯めたのに…」
健司「何を?」
麻衣「クイズつき縄文スタンプラリーの応募券よ」
健司「なんだ…そんなもんかよ」
麻衣「そんなもんかよとは何よ!そんなものかよとは!!」
健司「だってそうだろ!こんな時に良くそんなもんの心配してられるな!」
麻衣「だって折角当たってたのよ?今日が引き換えだったのよ?縄文ツアーと縄文食が抽選で一名なのよ?幻の縄文食なのよ?」
健司「なんだって!?そりゃ聞き捨てならねぇ話だな」
麻衣「ほら話に食いついてきた」
***
千里とエステリア
千里「あぁぁっ!」
エステリア「王子様!?どうなされました?」
千里「ないっ!」
エステリア「え?」
千里「何処かに落としちゃったんだ。どうしよう…健司君と麻衣ちゃんに怒られちゃうよ」
エステリア「何かお大事なものでも?」
千里「うん。確かにこのパーカーのポケットに入れていたのに。着替えたときに落ちちゃったのかな?」
エステリア「それはどの様な物ですか?」
千里「紙と書くものあるかい?」
千里「ありがとう。えぇとねぇ…」
千里「出来た!こんなやつなんだ」
エステリア「これ」
千里「どうかしたの?」
エステリア「これ…昔に何処かで見た覚えがある気がするんです」
千里「えぇ!?」
笑う。
千里「エステリア、昔ってあり得ないよ。だってこれは僕らのいた時代に初めて作られたものなんだから!」
エステリア「え?あなたのいた時代ですか?」
千里「あ、あぁ…いやぁ」
***
エステリア「え、7000年後の時代から?」
千里「信じてもらえないかもしれないけどそうなんだ。僕らは7000年後のこの地に住んでた。ここに来る前、みんなで流星を見てたんだ。そしたらその時に急に大きな星が降って来て…気が付いたらこの時代に来ちゃったって訳」
エステリア「そうだったんですか…」
微笑む
エステリア「エステリアめはそのお話信じます!」
千里「え?」
エステリア「だって王子様の瞳は嘘をついている瞳ではございませんもの」
千里「エステリア…」
笑う
千里「ありがとう。高貴なお人は流石に言うことも違うな」
尖りの森。
ティオフェル「やっと着いた…ここが尖りの森だね。さて…」
急な山道
ティオフェル「ここを登るのか…尖り石は一体何処にあるのだろう?あんまり上じゃなきゃいいんだけど…ピぺ、登ってみよう」
登り始める
ティオフェル「数千年前はここにアルプラートの都が広がっていただなんて…」
周りは全て森や木々
ティオフェル「面影一つない…」
***
夜。
ティオフェル「日が落ちた。一応頂上には着いたみたいだけど…流石にもう探すのは困難だ…」
縦穴式住居
ティオフェル「民の家だ!おや…誰もいない。ここの集落の者はみな邪馬台国にやられてしまったのか?」
ティオフェル「仕方がない。他に休めるところもないのだ。今晩はここに寝泊まらさせてもらおう」
住居の中。ティオフェル、藁の上に倒れ混む
ティオフェルM「あいつ上手くやってくれているだろうか?今頃城中は大騒ぎになっていないだろうか?ん?」
ティオフェル「お尻の下に何かある」
ティオフェル「美しいバレッタだ…きっと民の残したものなのだろう…」
ティオフェル「あのおなごの黒髪に似合うだろうな…」
我に変える
ティオフェル「ってちょっと待て!どうしてあんな生意気で無礼なおなごが出てくるのだ!」
鼻を鳴らす
ティオフェル「痛っ!まだなんかある…何じゃこりゃ?茶色い陶器の破片に…泥まみれのゴミ…きったないなぁ…これも民の残した何かなのか?」
ピぺ、大きく羽ばたく
ティオフェル「ピペ、そんなに興奮するな。私はこれを捨ててくる…」
住居を出て崖下へ投げ込む
ティオフェル「ナイッショット!」
再び倒れ混む。
ティオフェル「ピぺ、お前も私の隣においで。眠ろ…お休み」
朝。ティオフェル、熟睡。ピぺ、ティオフェルの頬をつつく
ティオフェル「んんっ、ピぺ痛いよ…どうした?」
ピぺ、飛び立つ
ティオフェル「おいピペッ、何処に行くんだ?」
追いかける
***
大きな石の前
ティオフェル「こ…これは?」
本と見比べる
ティオフェル「ここに書かれた不思議な絵とまさしく同じ。遂に見つけたぞ!尖り石だ!」
ティオフェル「ではこの下に何かがあると言われているのだね…」
困る
ティオフェル「しかしどうやって確かめる?」
ピぺ、ハミング
ティオフェル「ピぺ?」
歌を続ける
ティオフェル「私に歌えと言っているのか?」
ティオフェル「この竪琴と共にと言っているのかい?」
ティオフェル、竪琴を弾きながら歌い出す。石、少しずつずれる
***
ティオフェル「わぁ…石が動いた!…ん?何かある…本だ!」
取り出して土を払う
ティオフェル「ピぺ、お前ってやつは何て賢いインコなんだ。どれどれ?」
***
石の上に腰かけて読み出す
ティオフェル「何々?…え?え?そんな馬鹿な…」
本を閉じて立ち上がる
ティオフェル「ピぺ、急いで王宮に戻る!山を下ろう!」
牢。窶れて瀕死の健司と麻衣。
健司「なぁ麻衣、あれから何回夜が来た?」
麻衣「知らないわよ」
健司「俺もうダメだ…こんなところで遺書も残すことが出来ず死ぬなんて無念だぜ」
麻衣「私ももうダメ…でももしかしたら死ねば平成に戻れるのかしら…」
健司「かもな。全ては泡沫の夢だった。俺達多分、流星みながら寝ちまったんだよ」
麻衣「せんちゃんもへーそっちにいるのかしら?待ってて…私たちももう行くわ。さようならアラセルバ」
二人、力尽きる
王宮の庭。 千里、エステリアと弓矢無げをしている
千里「っ…」
エステリア「如何なさいましたか?王子様?」
千里「麻衣ちゃん!健司君!」
エステリア「え?」
千里「凄く嫌な予感がするんだ。考えたくはないけど二人の身に何かあったんじゃないかって…」
泣き出しそう
エステリア「王子様…」
千里「エステリア、僕はもうどうなったって構わない!牢への行き方を教えて!」
エステリア「分かりましたわ。私に着いてきてください」
千里「ありがとう」
二人、走る
尖りの森。
ティオフェル「っ…私は、私は何と言うことをしてしまったのだ!何も知らなかったとはいえ勝手に邪馬台国の罪人と決めつけてしまうなんて…正気じゃなかった。頼む!死なないで、生きていてくれ!」
牢。
エステリア「ガーボル!フィス!」
ガーボル「は、エステリア様。」
エステリア「王子様のご命令です。子供二人を釈放なさい!」
千里「しゃ…釈放しろ!…してください。」
フィス「子供二人ですって?」
ガーボル「二人の子供なら先ほど罪人墓地へ連れていきましたぜ?」
千里「ざ…ざざざざ、罪人墓地って?」
フィス「あぁ、二人とも今しがた死んだ様です。恐らく飢えだろう。ここにはそんな囚人が今までに何人もいるではありませんか?今更何故にそんなに驚きなする?」
エステリア「お前たちは知らぬのか?王子様はいつも罪人が亡くなっただけでも…それがどんなに憎き重罪人であろうと、一人涙されるお方なのだ」
千里、へなへな
エステリア「王子様!」
千里「これから二人はどうなるの?」
エステリア「王宮から離れた罪人墓地に葬られるのでしょう」
千里、静かに泣き出す
エステリア「王子様…」
千里「僕は、僕はこの世界へあの二人と共に来たんだ。なのに二人がいないんじゃあ僕、一人どうやってここで生きていけばいいんだ!」
部屋。
エステリア「王子様、まだ希望をお棄てになってはなりません。私たちもこれから罪人墓地に行ってみましょう」
千里「二人とももう死んじゃったんだろ?何の望みがあるっていうんだ!罪人墓地に行って死んじゃった二人を僕に見ろって言うの?余計に辛くさせたいの?」
エステリア「違います!そんなわけありません!とにかく急いで!早くしなければ本当に取り返しのつかぬことになります!さぁ早く!」
千里「うん…」
市街地。千里、エステリア、市場街を走る。人々、口々に「王子様だ」と囁く
***
ティオフェル、市街地に出る。
ティオフェル「やっと里に下りた」
遠くに音楽行列
ティオフェル「叉、囚人が死んだのか…あぁもし間に合わなかったら?取り返しのつかないことになっていたならばどうしよう?そしたら私の責任だ…」
***
千里とエステリア
エステリア「王子様、大丈夫ですか?」
千里「うん…」
よろよろ
千里「僕は大丈夫。エステリアこそ大丈夫?」
エステリア「私も大丈夫ですわ」
千里「辛くなったら君は戻って。一人で何とか行ってみるから…」
エステリア「ありがとうございます。王子様ってお強いしお優しいお方なのですね」
千里、でれでれと笑う
エステリア「しかしご心配には及びません。先を急ぎましょう」
千里「うんっ」
***
***
宮殿の大門前。
ティオフェルM「あぁ…あれから更に三日も経ってしまった。王宮までもう少し…頼む…生きててくれ。私が行くまで死なないで」
ティオフェルM「足が思うように前に進まない…目の前がボヤける…」
王宮・牢や。
ガーボル「お、王子様!?そのお体は如何なされたか?」
ティオフェル「何も聞くな。それよりも二人の子供はどうした?早く釈放しろ!」
フィス「二人の子供?あの妙な着物の二人か?」
ティオフェル「そうだ。早く!」
ガーボル「その二人でしたら数日前に死にましたではないですか。先日、王子様とエステリア様にも死者行列が遺体を連れて宮殿を出たとお伝えしましたよ」
ティオフェル「な、ななななな…何だってぇ?」
フィス「あらら…数日前と同じ展開」
ティオフェル「そんな…そんな事って…嘘だ」
泣きながら短剣を首に当てる
ガーボル「お、王子様…何をしているのですか!?お気を確かに」
ティオフェル「私は取り返しのつかぬことをした。王子としてその罪を死をもって償う!」
フィス「王子様、お止めください!誰か、誰かおらぬか!王子様をお止めせよ!」
ティオフェル「いざ!さらば!」
剣を振って倒れる
フィス「お、王子様!?」
ガーボル「医官を呼べ!王子様がお倒れになられた!」
罪人墓地。
使者1「これでいいな。この天気が続けば数日後には乾いているだろう」
使者2「では数日の後に叉来よう。王子様にもその様にお話しせねば」
使者3「しかしまだ幼いに、臓物を抜くとはちと残酷じゃのう」
使者4「構わぬ、子供とは言え王室を脅かす罪人なのだ」
帰っていく。入れ違いにエステリアと千里
エステリア「ここですわ。きゃっ!」
千里「麻衣ちゃん?健司君?」
遺体に触る
千里「冷たい…何で?どうして僕を置いて先に逝っちゃうの?これから僕は、君たち無しでどうやってアラセルバで生きていけばいいの!?千里はここで生きているんだよ!」
エステリアに泣きつく
エステリア「王子様…」
千里「エステリアお願いだ。僕からの最初で最後の命令です…僕を殺してください」
エステリア「そんな王子様!その様な事は私に出来ません」
千里「だったら君が出来ないって言うんなら自決します…」
エステリアの短剣を抜く
エステリア「王子様…お手が…」
千里「いや…大丈夫」
唾を飲む
千里「いざっ…さらば」
エステリア「王子様なりませぬ!王子様だけでもお生きになるのです!」
千里、首に短剣を当てたまま震える
尖り石縄文公園。
健司「ん、んーっ…あれ?」
麻衣「流星を見たまま眠っちゃっていたみたいね」
健司「俺、変な夢見てたわ」
麻衣「私も」
暫くぼんわり
***
健司「帰るか?俺達が帰るべき場所へ」
麻衣「そうね。せんちゃんもへー私たちを待ってると思うし」
千里の声「僕はまだ死んでないよ!」
麻衣・健司「え?」
千里の声「二人とも戻ってきてよ!アラセルバの地へ!」
麻衣・健司「アラセルバ?」
千里「僕はここで生きているんだよ!」
ティオフェルの夢の中。
ティオフェルM「おいっ!お前たち死ぬな!死なないでくれ!嫌だ!」
ブブの声「王子様、この者共にもう用はありませぬな」
ティオフェル「お前は誰だ?」
ブブの声「では…処刑を始めますぞ」
不気味に笑う。炎が燃える。 目を覚ます麻衣と健司、苦しみながらもがいているが死んでいく
ティオフェルの声「あぁ…」
寝室。 ティオフェル、息を切らして飛び起きる
メデア「王子様っ!王子様がお目覚めになられました」
ブブが入室
ブブ「王子様!お加減は如何ですか?」
ティオフェル「ブブ、メデア…」
メデア「驚きましたよ王子様、自らお命を絶とうとなさったと聞きました。。一体何をお考えなのです?あなた様はこのお国のお世継ぎなのですよ」
ブブ「王子様、あなた様がお亡くなりになればますます国は混乱してしまうのですよ」
ティオフェル「ブブ、メデア…」
メデアに泣きつく
ティオフェル「私はどうしたらいいのだ乳母や!私は間違った判断をし、取り返しのつかぬことをしてしまいました。私は罪なき民を見殺しにし、この国までを滅ぼそうとしているのです!国も民の命も守れず、何が王子といえますか!」
メデア、優しく慰める
メデア「王子様は王子様なりに十分ご立派にやっておられます。自信をお持ちください。王子様のご判断は決して間違ってはないとメデアは信じております」
ティオフェル「メデア…」
メデア「さぁさぁ王子様、その様なお顔をされていたらなりません。民が心配なさります」
ブブ「本日はゆっくりお休みください。王子様はすごいお熱を出されてお倒れになったのですから」
ティオフェル「え?」
メデア「ほらほら、まだこんなにお熱がありますわ。大人しくブブ様の言う事をお聞きになって今日はお休みください」
ティオフェル「わかったよ…ありがとう」
ブブ「ではメデア、私は持ち場に戻る。王子様を頼んだぞ」
メデア「お任せください」
***
邪馬台国。
ブブ「マリシュカ女王陛下様、マルキ王女様、卑弥呼様、そろそろ事を起こしても」
卑弥呼「お前、王子に手を下すつもりか!」
ブブ「手を下す以外に方法が?」
卑弥呼「王子はなかなか利口で用心深い。例え病床で動けぬ身であろうとあの王子のことだ。こちらの手の内すぐに見破り、失敗に終るが落ちじゃわい。これはやはり…」
にやり
卑弥呼「戦を仕掛けて王子を引きずり下ろし、首をとるしかあるまい。話を聞けばブブ、王子は戦をしたことがなく恐れているようだな。ではこれしかあるまいに。戦にて王子を子典範に負かすのじゃ。」
ブブ「戦…遂に宣戦布告をなされるのですね。」
卑弥呼「流石の王子でも人数と戦力に長けた邪馬台国が戦を仕掛ければ何も歯が立たぬまい。ホ、ホ、ホ」
ブブ「なるほど。」
リオーナ「となりますと、エステリアはどうなります!?」
ブブ「あの者はもはやアラセルバの民…」
マルキ「と言うことはもしやっ!」
ブブ「王子と共に滅ぼすのだ」
マルキ「そ、そんなやめろブブ!それはあまりにも薄情と言うものだろう!エステリアは我が妹!邪馬台国の者ではありませぬか!!」
リオーナ「お前こそ黙れマルキ、あれは邪馬台国を捨て敵国の民となった女、血の繋がった家族であろうと今や憎き敵同然」
マルキ「しかし母上、数年前まではアラセルバとも友好を築いていたではありませんか!なのに今更何故…」
リオーナ「今は今、昔は昔。今と昔ではなり生きも状況も違う。変わったのじゃ。あんな者もう勘当だ!一族でもなんでもないわ!!」
マルキ「一体アラセルバが我が邪馬台国に何をしたと言うのです!?」
リオーナ、退室
リオーナ「マルキっ、もう二度とそのような口を利くのではない!!」
マルキ「母上っ、お待ちください!母上!」
○アラセルバ王室
数日後。ティオフェルが目覚める
メデア「王子様、お目覚めになられましたか」
ティオフェル「メデア」
メデア「あれから毎晩魘されておいででしたのでとても按じておりました」
ティオフェル「ありがとう。ずっとここにいてくれたのか?」
メデア「勿論ですわ。お加減は如何ですか?」
ティオフェル「お陰で大分いいよ」
メデア、額に手を当てる
メデア「お熱ももうお下がりになられましたね。(微笑む)ではお召し換えを致しましょう王子様」
ティオフェル、布団の中を見て頭を抱える
メデア「仕方がありません。今回はお体が優れなかったせいに致しましょう。誰にもお話致しませんからご安心を」
ティオフェル「…」
メデア「お召し換えをなさったら王子様のお部屋にお行きくださいまし。エステリア様が先ほどお帰りになられ、王子様をお待ちです」
ティオフェル「エステリアが帰った?一体何処に行っていたと言うのだ?では千里も一緒に出掛けていたと言うのか?」
メデア「えぇ」
ティオフェル「(不思議そうに首をかしげる)」
***
別部屋。エステリア、千里、麻衣、健司。そこへティオフェル
エステリア「王子様。心配していたのですよ、お加減の方はもうよろしいのですか?」
ティオフェル「案ずるな。私はもう大丈夫だよ、心配かけたね(咳をする)」
エステリア「王子様、まだお咳が!」
ティオフェル「構わぬ、私は大丈夫だ」
エステリア、ティオフェルの背を擦る
ティオフェル「ありがとう、すまぬなエステリア」
エステリア「いえ。それで王子様…」
ティオフェル、悲しそうに暗い顔
ティオフェル「何も言うな、分かっている。全ては私の責任なのだ」
エステリア「え?」
ティオフェル「お前だってそう思っているのだろ?私が殺したんだと!人殺し王子なんだと!(しゃがみ込む)元から私に後継に値する国王の器なんてないんだ。私は一体どう生きたら良い?聖君にもなれずに国を滅ぼし乱す王として国民に蔑まれながら惨めに屈辱的な人生を送っていくのか?」
エステリア「王子様、何故その様に思われるのですか?」
ティオフェル「私は謝った判断を下してしまった。民を見殺しにしてしまった。例え他国の民、敵国の民であろうと罪なき民を救うのが人であろう!?それなのに私は人として取り返しのつかぬことをした…私は何て最低な人間なんだ!これの何処が王子と言えるのだ!」
麻衣「何いってんのこの子?」
千里「僕たちはここにいるのにね」
健司「俺たちに全く気がついてないみたいだぜ」
三人「うんうん」
エステリア「王子様、ご心配いりませんわ。あの者たちはきちんと生きておられます。」
ティオフェル「バカを申せエステリア!お前は聞いていないのか?(声を詰まらす)あの者たちは…あの者たちは…」
麻衣「私達がどうしたって?」
健司「事は全てエステリアと千里から聞かせてもらったぜ」
千里「おかえりなさい、王子様」
3人「秘密は約束通り誰にも話しとらんに」
ティオフェル「お前たち…何故?」
麻衣「理由は、ね」
健司「俺たち本当にもうダメかと思ったよ。一回朽ちたのは事実」
麻衣「もう一歩遅かったら本当に死んでたわ」
千里「うん、僕も2人が死んじゃったって聞かされたときは自決を考えた。でもエステリアに止められたの。死んじゃあなくて良かった。二人とも微かにまだ息があったからあわてて医療所に連れていったんだ。そしたら…」
ティオフェル「そうだったのか…。エステリア、それに千里もありがとう。本当にありがとう。(涙を堪える)みんなよく生きて帰ってくれたね。生きててくれてありがとう。私を許してくれ、私はお前たちに何て酷いことを…」
健司「もういいってこんよ」
麻衣「やっと私達が怪しくないってわかってくれたのね。大体気づくのが遅すぎるんだわ」
千里「これで僕らも安心だね」
ティオフェル「あぁ」
エステリア「(微笑む)王子様が泣いていらっしゃる」
ティオフェル「う、う、う、うるさい!黙れエステリア!」
赤くなるティオフェル、笑う他4人。
千里「それで王子様」
ティオフェル「場所は見つかった。(本を取り出す)石の下にはこれがあったんだ」
エステリア「本ですか?」
ティオフェル「私もまだ初めの方しか読んではいないが、どうも国を守る方法の書かれた秘書らしい」
千里M「本当にあったんだ、歴史書は嘘つかないね」
麻衣「で、そこには何て?」
ティオフェル「うん、封印をするには何か儀式が必要らしいんだ。しかも女王・アナスターシャ付き添いの元って書いてある」
麻衣「女王アナスターシャ?」
千里「それって…」
ティオフェル「そう。今から5000年も昔のアルプラト女王」
健司「そいつ付き添いって…まさか今でもアナスターシャが生きてるって言うのかよ!?そんな馬鹿な話ってあるわけないだろ?(笑う)もし生きてりゃ軽く5000歳は越えてるぜ」
ティオフェル「如何にも。(悩む)うーん」
ピぺ、部屋を旋回している
ティオフェル「ピぺ、少しは落ち着け」
***
寝室。ティオフェル、布団に入って本を読み返している
ブブ「王子様、そろそろお休みになられませんと」
ティオフェル「いやブブ、今夜はもう少し起きている」
ブブ「しかし王子様は病み上がりのお体ゆえ、夜更かしはよくございません」
ティオフェル「大丈夫だブブ、暫く出てくれ。一人になりたい」
ブブ「承知致しました」
***
ティオフェルM「封印の儀式に必要なものは女王を象った小さな像。そして黄金に輝くピン…か。これは一体何処にあるんだろう」
葛藤
ティオフェルM「しかしあの者たちがアラセルバを守る者になるとは一体どうやって…」
○学修堂
ペドロ、一人。そこへティオフェル
ティオフェル「ペドロ」
ペドロ「ティオフェル王子?この様なお時間に一体どうなすった?」
ティオフェル「ペドロ、聞きたいことがある。暫しいいか?」
ペドロ「こりゃこりゃお珍しい。王子様より進んでお勉強をなさりたいとは」
ティオフェル「なぁペドロ、女王を象った小さな像と黄金に輝くピンとは一体何の事だ?」
ペドロ「(噎せ混む)お、王子様何ゆえその様なことを」
ティオフェル「知っているみたいだね。さぁ、どうか私に教えてくれ!!」
ペドロ「分かりました。お教えしましょう。その代わり」
ティオフェル「その代わり?」
ペドロ「秘密厳守にしてくださるとお約束いただけますね?」
ティオフェル「あぁ分かった」
ペドロ「ではお話いたします。女王を象った小さな像とは、かつての女王アナスターシャの姿。これはアナスターシャが天変地異によって亡くなり、その遺体が姿を消した時にアナスターシャの侍女であったエレンによって作られたものとされている」
ペドロ「しかしそれをアナスターシャとして彼女の遺体の代わりに棺に入れようとした時に像を落としてしまい、右腕の部分が欠けてしまったと言われる。それを今でもアナスターシャとエレンの霊が探し回っていると言う噂なんです」
ティオフェル「では、像はアナスターシャの棺の中に?」
ペドロ「恐らく。しかし彼女の棺が何処にあるのかさえ誰も知らぬ」
ティオフェル「王族墓地ではないのか?」
ペドロ「今まで歴代の王がそこに埋められ、調査もされたが彼女とされるものは何処にもなかった。ひょっとしたらエレンと同じ場所にあるのかもしれないがそのエレンすらも見つかっていないのですよ」
ティオフェル「では、黄金のピンとは?」
ペドロ「恐らくかつての国王であるシラ・ルエデリが持っていた王の勲章でしょう。それは代々アルプラト家に伝わったとされ、ルエデリの死後アナスターシャの手に渡ったと言われている。表面にはアナスターシャを象った彫刻が掘られていると」
○邪馬台国(夕)
小野ポテト、蘇我ホース、蘇我ドルフィン
ポテト「そう。んでな、アラセルバにはかっわいいおなごがおるのじゃ」
ホース「かわいいおなごなど山とおるじゃろうに」
ポテト「いやいや、ただ可愛いだけじゃねぇ。気品があってそりゃもう美しい!アラセルバ宮殿の下働きと言うとった。ロミルダちゃんて言うんで」
ドルフィン「しかしポテト、お前はもう40も近い親父じゃろうに。そのロミルダはいくつなんだ」
ポテト「さぁな、詳しく歳は知らねぇが…ほれ、レディーに歳聞くわけにはいかんだろう。しかし見た目14、5ってとこかねぇ」
ホース「ロリコンじゃ…」
ドルフィン「そりゃ相手にすりゃあ気持ち悪いの何者でもないぞポテト」
***
ティオフェル「くしゅんっ!!」
***
そこへブブ
ブブ「何を下らん話をしておる!」
ホース、ポテト、ドルフィン「ブブ様!」
ブブ「耳を貸せ。いい話だ」
ホース「何じゃ?そりゃまことか?」
ポテト「ではアナスターシャの像と勲章を手に入れれば天下は我々の物になると言うわけだ」
4人、怪しく笑う
ポテト「そうとわかりゃ早速、アラセルバに…」
ホース「ポテト、お前はまさかロミルダに会うのが目的ではあるまい?」
ポテト「ち、違いますぜ!ちゃんと仕事ですだ。(もじもじ)しかし会えれば会いたいのぉ、我が愛しのロミルダちゃん」
***
ティオフェル、身震いする
ティオフェルM「嫌だなぁ…叉熱が上がってきたのかなぁ?くしゅんっ!」
***
ポテト、ホース、ドルフィン、ブブ、急いで城を出る
ブブ「では私は王子に怪しまれぬよう、アラセルバ宮殿に戻る」
4人、馬を走らす。
宮殿・学修堂。ペドロ、ティオフェル
ペドロ「王子様、お顔の色が優れません。本日のところはお休みを」
ティオフェル「構うな!私にはまだやらなければならぬ仕事があるのだ!」
ペドロ「王子様!今はお体をご自愛くださいませ」
ペドロ「(大声)誰かおらぬか?王子様のお顔の色が優れん。直ちにご寝所にお連れしろ!」
寝所。ティオフェル、メデア
メデア「王子様、あなた様はまだお病み上がりなのですからご無理はなさらないでください」
ティオフェル「構うなメデア、私は大丈夫だ」
メデア「何が大丈夫です!?あらあら、またお熱がお上がりになってきてしまって。王子様、今度ご無茶をなさったらこの乳母めが許しませんよ!」
ティオフェル「分かった、分かったから!お休み」
メデア「お休みなさいまし王子様」
ブブ、メデア
メデア「ブブ様」
ブブ「王子様のご容態は?」
メデア「先ほど叉ご無茶をなされてお熱を」
ブブ「お前乳母だろう、一体何をしておる!」
メデア「申し訳ございません」
ブブ「それで王子様は?」
メデア「今しがたご就寝になられましたわ」
ブブ「そうか」
ティオフェルの夢の中。
ティオフェルM「ここは何処?尖りの森?」
ピぺ、飛んでくる
ティオフェルM「ピぺだ。ん?あれはあの破片じゃないか?」
捨てたことを思い出す
ティオフェルM「でも
どうしてピぺが加えているのだ?もしかして」
アナスターシャの声「そうです王子」
ティオフェルM「何処?誰?」
アナスターシャの声「私は女王アナスターシャ、この破片こそが私の一部。それとあなたが棄てたあのピン、あれは私たち一族の勲章なのです」
ティオフェル「何だって!?」
アナスターシャの声「今一度探しだし私の言葉に従ってください」
ティオフェル「分かった」
アナスターシャの声「急いでください王子、邪馬台国もそれを狙っているのです。邪馬台国にとられたらおしまいです。さぁ早く!」
寝所。ティオフェル、飛び起きる
ティオフェル「夢…じゃないかも!だとしたらまたしても私はとんでもないことをしてしまった!急がねば!」
メデアが飛んでくる
メデア「王子様、何をなさっております!お召し換えは私がやりますわ。お体を」
ティオフェル「構わぬ。あっちへいってくれ」
剣を持つ
ティオフェル「メデア、私は用事があるゆえ暫し出掛けてくる。故に千里に王子の衣装を着せよ。では」
メデア「王子様っ!」
いじいじ
メデア「王子様ったら!王子様はお世継ぎであられるお方ですのに…御身に何かおありになればどうなさるおつもりなのですか?それに怒られるのはこのメデアめなのですよ!」
***
麻衣、千里、健司、エステリア。
メデア「千里様、王子様のご命令です。お召し換えをなさってください」
千里「え?」
メデア「さぁこちらへ」
千里「え、叉王子様はお出掛けになられたのですか?」
メデア「そうなのです、故あなた様に代わりをと」
千里「そんなぁ…」
メデア「今は特に邪馬台国との関係は悪化しておりますのでご用心を」
千里「あぁ…」
麻衣、健司、笑う
健司「ま、いいんじゃね?お前も慣れたみたいだしさ」
千里「バカ言うなよ!」
麻衣「こんな経験二度と出来ないかもしれないんだで」
千里「もう二度としたくないよ!」
麻衣「少なくともあのバカ王子よりはあんたの方が何倍も素敵でかっこいいわ」
千里「勘弁してくれよ麻衣ちゃん…」
アラセルバ市街地。ティオフェル、ロミルダになって歩いている
ティオフェルM「夢の通りであれば尖りの森へ行けばいいんだ」
老婆「おや、この間のお嬢さんだね」
ティオフェル「(声色)あらおばあさま、私を覚えていてくださったのね。嬉しいわ」
老婆「今日は何処へ行くんだい?」
ティオフェル「(声色)尖りの森よ」
老婆「おや、叉あの場所へ行くのかい?お前さんが無事で安心したけどさ、一体今度は何をしにいくと言うんだい?」
ティオフェル「(うそ泣きで涙ぐむ)」
老婆「おやおや可哀想に、どうしたって言うんだい?よしよし、泣くのはおよし」
ティオフェル「(声色)両親のお墓参りに行くのよ。私の両親はあの場所で邪馬台国に殺されたんだわ」
老婆「そんなことが!まだこんなに幼いに気の毒なことだよ。邪馬台国ってとこはなんつー国なんだろうねぇ、わたしゃ大嫌いなんだよ。ほらお嬢さん、もう泣いちゃいかんよ。ドングリ餅をお食べ」
ティオフェル「(声色)ありがとう、優しいおばあさま。私、もう行きます」
老婆「本当に気を付けるんだよ」
ティオフェル、歩きながら涙をぬぐう
ティオフェルM「あんな話をしていたらまことに父上と母上が思い出されて…うぅ」
涙をこらえて勇む
ティオフェルM「父上、母上、私は心決めました。私は必ずや聖君となり父上と母上の無念を晴らします。そして必ずや憎き邪馬台国を倒して見せましょう。私はいつまでも寝小便の泣き虫王子なんかじゃない!」
走り出す。
***
ティオフェル「っっっ…」
ポテトがにやにや歩いてくる。
ポテト「おぉ我が愛しのロミルダ嬢よ!叉もこの様なところでお会いできるとは!」
ティオフェル「(声色)え、えぇごきげんよう…」
ティオフェルM「叉変なのと出会してしまった…どうしよう」
ポテト「今回は私とお茶でもせんかね?何が好きかね?ドングリビスケット?それとも山葡萄ジュース?何でも好きなもん奢るよ」
ティオフェルM「どれも私は好きじゃない!ううーん…この際恥ずかしいが仕方がない」
ポテト「どうじゃ?」
ティオフェル「(声色)ごめんなさい、悪いけど私今とっても急いでいるの」
ポテト「何処へ行くんだい?私も途中までお供しよう」
ティオフェル「(声色)いいえ、それだけはやめてちょうだい」
ポテト「どうしたんだい?恥ずかしがらないでもいいんだよ」
ティオフェル「(声色)ご用を足したいのよ!!あなた、女の子のご用足しを見たいのですか!?」
ポテト「こ、これは失礼!」
ティオフェル「(声色)あぁもう漏れちゃいそう!失礼するわおじさま」
走ってポテトをすり抜ける
ティオフェル「はぁ、上手くいった。しかしあの様な恥ずかしい言葉を口にするだなんて顔から火が出そうだ…」
空を見る
ティオフェル「もう夕方か。尖りの森を登ればもう夜だよな」
餅を食べる
ティオフェル「よしっ!さすがにもう王子に戻っても大丈夫だろう…ドレスって意外に脱ぎにくいものね…髪も自分じゃ結ったことなんてないわ。こんな感じでいいかしら?」
近くに青年
ティオフェル「ねぇお兄さん、僕って何処の子だと思う?」
青年「変な事聞く坊主だなぁ?都の商人の息子か何かかい?」
ティオフェル「そう見える?よかった…」
青年「変な野郎もいたもんだ」
ティオフェル「どうも王子や王族には見えていないみたいだ。よかった…ピぺ、登ろう」
ゆっくりと登り出す。
別の登り口。ポテト、ホース、ドルフィン。
ホース「何があったポテト?にやついてるぞ」
ドルフィン「まさか会ったのか?」
ポテト「偶然にも町中で会っちまったんでぇ!しかし話す間もなくかなり急いで走って行っちまった」
ホース「そりゃそうだろうよ、お主が気持ち悪いからじゃ」
ポテト「いや、何か用を足したいみたいじゃった。流石に厠までついていくことなんて出来まい」
ドルフィン「当たり前だろう」
尖りの森・頂上。ティオフェル、その場に座り込む
ティオフェル「やっと着いた。喉が乾いたよ…何処かに水は…」
湧き水がある
ティオフェル「助かった、水だ!」
手で掬って飲む
ティオフェル「あぁ美味しい…さてと」
立ち上がる
ティオフェル「まずは探さなくちゃな。何処にいってしまったんだろう?」
地面に這いつくばって進み出す
ピぺM「全く、ティオフェル王子にも困ったものですわ。せめて私がきちんと口を利けたらいいのに」
ホース「着きましたぜ、ポテトにドルフィン」
ポテト「あぁ、しかし本当にこんなところにあるんじゃろうか?物も知らないものを一体どうやって探すのだ?」
ホース「気長にそれらしきものを見つけていくしかなかろうに」
ポテト「しかし…おや?」
指差す
ポテト「あれって?」
ホース「アラセルバの王子ではないか。一体何をしておる?」
ポテト「何をしておるとは、決まっているではないか!王子も探しに来たのですぞ」
ホース「なんじゃと!?王子にとられればまずい!こちらがなんとしても先に見つけなくては!」
ドルフィン「そう焦るなホース、よく考えても見よ。もし仮に王子に取られたとする。しかし今のアラセルバでは王子が元服するまでの間、ブブ様が政権を握っているであろう」
ホース「故、ブブ様の手に渡ればこちらのものって訳ですな」
ポテト「しかしもし、王子がそのまま持っていれば?」
ホース「そりゃまずい!とにかく探せ!」
3人「はっ!」
ティオフェル「ないっ、ない!どうしよう、何処に行った…ん?あ、良かった!あった!これだ!」
崖の斜面
ティオフェル「んっ、んーん…届かない…あともう少しなのに」
はっと振り向く
ティオフェル「誰だっ!!」
振り返る
ティオフェル「お前らは…邪馬台国のドルフィンとホースとポテト!」
ホース「さぁ王子、その王位継承の勲章を渡すのだ!」
ティオフェル「何故にそれを?」
ホース「ははは、さぁ何故だろうね。とにかくアラセルバはもうすぐ我が邪馬台国の支配下となるのだ。故に大人しく渡さぬか!」
ティオフェル「無礼者!誰に向かって口を聞いている!?私はアラセルバの王子ティオフェルだぞ!!アラセルバは決してお前たちに渡しはしない!」
ホース「ふんっ、お主のような元服前のガキに一体何が出来ると言うのだ!」
ティオフェル「黙れ!手を放せ!無礼者!」
ホース「いいのですかな?」
ティオフェル「え?」
ホース「私がこの手を放せば王子様、あなたはこの崖下の川にまっ逆さまですぜ」
ティオフェル「くそっ…」
少しずつ手を伸ばす
ティオフェルM「もう少し、もう少し…あ!とった!」
ホース「王子が勲章を握ったぞ!はよ王子を引き上げろ!」
ポテト・ドルフィン「は!」
ティオフェル「やめろ!嫌だ!嫌だ!放せ無礼者!放せったら!」
ホース「何をしておる!王子をはよ引き上げろ!」
ポテト「頑張ってますや。しかしこいつ、ちびのくせしやがってなかなか重くて」
ティオフェルM「谷底…下は濁流か。ここへ飛び込めば確実に命はないよな…しかし今ここでこいつらに捕まれば宝のみとられて結局私は殺される。だったら…あいつらの手に渡るよりかはずっとましだ。これを守るには…」
ティオフェル「さらばっ!」
ティオフェル、数十メートル下の川に飛び込む
ホース「王子があの激流に飛び込みましたぜ!」
ポテト「ホース、お主がいって王子の持つ勲章を探せ!」
ホース「わしは泳げん。ポテト、お前はどうじゃ?」
ポテト「私も高所恐怖症なのだ」
ホース「馬鹿者っ!」
ポテト「しかしあの濁流じゃ王子は生きてはおられぬまい」
ホース「そうか。王子が死ねば話は早い。後継のものがいなくなるのだからな…アラセルバが邪馬台国のものとなる日は近いのじゃ」
ポテト「では山を下るぞ」
ホース「お前が命令するな!私に続け!」
***
流れの岸。ティオフェル、打ち上げられて気を失っている。ピぺ、ティオフェルの頬を優しくつつく
ティオフェル「ん、うー…ピぺ?私は生きているのか?え…ない!ない!あぁそんな…折角見つけたのに」
ピぺ、破片とピンを加えてティオフェルに渡す
ティオフェル「ピぺ、お前…」
ピぺ、喋る様に鳴く
ティオフェル「ありがとうピぺ…」
ピぺ、飛び立つ
ティオフェル「ピぺ?今度は何処に行くと言うのだ!?ピぺ!」
***
深い洞窟。
ティオフェル「ここは?」
ティオフェル「この翡翠のペンダントをこの鍵穴に翳せと言っているのかい?」
ピぺ、頷く。ティオフェル、ペンダントを鍵穴に翳す
ティオフェル「わぁ…鍵穴が開いた!これは…」
破片と見比べる
ティオフェル「女性を象った小さな彫刻…右腕が欠けてる…まさかこの彫刻って…」
ピぺ、指示。
ティオフェル「分かったよ、この破片を右腕に嵌め込むんだね」
輝く
ティオフェル「わぁっ眩しい!」
ピぺ「王子、王子」
ティオフェル「誰?」
ピぺ「目を開けてごらんなさい」
ティオフェル「え?」
ピぺ「私です、あなたのインコのピぺですよ」
ティオフェル「ピぺ!?何故…」
ピぺ「助けてくれてありがとう。実は私が5000年前のアルプラト女王・アナスターシャなのです」
ティオフェル「ア、アナスターシャ!?お前がか!?」
ピぺ「そうです。私は5000年前、卑弥呼によって呪いをかけられ、そのせいでインコの姿にさせられてしまいました。それからと言うもの死ぬことさえ出来ず、誰にも見つけてもらえないまま王宮でひっそり暮らして参りました。そんな中あなたがお生まれになりました。幼いあなたは私を見つけるととても喜び、私を可愛がり、愛して育ててくれました。私はそんな心優しい王子の元で暮らしながらいつの日かあなたが私を助けてくださり、元の姿に戻してくださる日が来ると信じておりました」
ティオフェル「そうだったのか…」
ピぺ「王子、まさに近年がその時です。時は参りました。今こそあなたが王子として立ち上がるときです」
ティオフェル「え?ということは近いうちに父上と母上がお亡くなりになった日のような大戦争が起きるのか?」
ピぺ「その日は近いでしょう」
ティオフェル「私はどうすればよい?私は今まで国王になるための勉強もろくに受けていなければ戦術すら学んでいない。こんな私が邪馬台国に勝つなど出来るか?」
ピぺ「自信を持ちなさい王子、あなたならきっと大丈夫です」
ティオフェル「アナスターシャ…」
ピぺ「私は全てが終わるその時までは今までのようにあなたの忠実なインコとして振る舞っております。暫くは喋ることもないでしょう。しかしいつでも王子の側であなたをお守りします」
ティオフェル「アナスターシャ、一つだけ教えてくれ。全てが終わるその時っていつなのだ?」
ピぺ「何千年に一度、流星群と金環日食が重なる日があります。その年に大きな戦が起こります。全てが終わるのはその時です。王子、金環日食のあるその日にここで儀式を行いなさい」
ティオフェル「え?」
ピぺ「あの石の下より掘り起こした本をこの寝台の上にて燃やすのです。卑弥呼の呪いを封じ込めるための儀式なのです」
ティオフェル「分かった。そうすれば呪いは一生封印されるんだね」
ピぺ「いいえ、それだけではなりません。それにはもう一つ、犠牲が必要なのです」
ティオフェル「なんだ?」
ピぺ「選ばれし人間の生け贄です」
ティオフェル「生け贄だと?選ばれし人間とは…まさか私か?」
ピぺ「いえ、あなたではありません。あなたがお亡くなりになれば一体この国の将来は誰が継ぐと言うのです?」
ティオフェル「では誰なのだ?」
ピぺ「麻衣様です」
ティオフェル「麻衣とは?」
ピぺ「王子様のお側にいらっしゃるお嬢様です」
ティオフェル「あの?あの小生意気で可愛くない男勝りの女か?」
ピぺ「麻衣様はまさに、この儀式のためにやって来たお嬢様なのです。この国の平和を末代まで封印するには彼女を女王卑弥呼の生け贄にしなければなりません」
ティオフェル「あぁ…」
王室。
麻衣「(小声で)最近あのバカ王子、変じゃない?」
健司「(小声で)確かに。なんか機嫌悪いってか?」
千里「(小声で)何かあったのかなぁ?」
ティオフェル「何だ?」
麻衣・千里・健司「い、いや何も」
麻衣「(小声)ねぇエステリア、最近王子様どうしたの?」
エステリア「(小声で)私にも分かりません。お帰りになられて以来メデア様やブブにもあのような感じらしくて」
ティオフェル「ん?この絵は何だ?」
千里「あぁ、スタンプラリーの引換券だよ。っていっても分からないよね」
ティオフェル「わからん」
千里「アラセルバ王国には何の役にも立たない関係のないものだけどね、僕らにとってはとっても大切なものだったんだ。でもどこかに落としちゃったみたいで無くしちゃったんだ」
健司「無くしちゃったって、てっめぇ!どいで早くに言わねぇんだよ!」
千里「ごめんなさい、許してっ!」
麻衣「ちょっとやめなさいよ健司!」
健司「ふんっ!俺は隠し事をされるのが一番嫌いなんだ!」
ティオフェル「うむ…ついこの間何処かで見たような…」
千里「何処で!?」
ティオフェル「うーん、何処だったかなぁ?」
千里「早く思い出してよ!ひょっとして僕らこれがあれば帰れるかもしれないんだから」
健司「帰れるって千里、適当な事言ってんじゃねぇよ!」
千里「だってひょっとしたらこれを落としちゃったせいで僕らタイムスリップしっちゃったのかも知れないだろう?」
健司「なるほど!」
麻衣「でもそれならアラセルバには落ちていないんじゃない?」
健司「でもこいつが見たっていってんだからこの国にあるんじゃね?」
麻衣「なにかと見間違えているんじゃないの?」
ティオフェル「あぁっ!思い出した!」
麻衣・千里・健司「何処だ!?」
ティオフェル「尖りの森だよ」
麻衣「尖りの森?」
健司「何処だそれ?」
千里「尖りの森は僕らが流星を見ていたところだよ」
麻衣「尖り石の縄文公園の事?」
千里「そう。そこがこの時代には尖りの森って呼ばれてるらしいんだ」
ティオフェル「流星を見ていたところ?」
麻衣「えぇそうよ。私たち、ここへ来る前は尖りの森で流星をみていたのよ」
千里・健司「うん」
ティオフェル「では、お前たちはそこに住んでいると言うのか?」
麻衣「まぁ…そんなところよね」
ティオフェル「そんな…信じられない」
麻衣「そうと分かれば行きましょう!」
健司「おぉ!」
千里「僕らの里へ!」
ティオフェル「いけないっ!あの場所は今とても危険なんだ!お前たちもそこに住んでいたんなら知っているだろう」
麻衣「大丈夫よ。私たち、ここへ来る時も相当危険な目に合ってるんだから」
千里「うん!おトイレの心配さえなければ心配ないさ」
健司「お前はいつもそこだな」
千里「だってぇ…外見ろよ。もう冬になるんだし、寒かったら余計におトイレ行きたくなっちゃうじゃないか?そんな時何処にもトイレとかなかったらどうするのさ?」
ティオフェル「いや、城下町ならその心配はないから大丈夫だよ。でも…確かに大分寒くなった。雪が降ってもおかしくないかもね。おぉ寒い…私も寒さは苦手だ。こんな冬山を行くなど考えられない。だからせめて春になったらに…」
健司「だったらあんたは来なきゃいいだろ?俺等だけで行くさ」
千里「じゃあひょっとしてこれが最後になるのか」
麻衣「あの場所に行ったら、私たちはきっともう元の世界に戻るんだもの」
3人、頷き合って駆け出す
ティオフェル「お、おいっ!ったく仕方のないやつらめ」
アラセルバ市街地。
ティオフェル「(声色)おーい!」
麻衣・千里・健司「王子様!」
ティオフェル「(声色)シッ、今は王子と呼ぶな」
健司「何でだよ」
ティオフェル「(声色)色々と事情があるんだ」
麻衣「だったらなんて呼べばいいのよ?」
ティオフェル「(声色)お前は何故にいつもそう攻撃的なのだ!」
麻衣「あんたがいつも偉そうにしてるからよ!」
ティオフェル「(声色)無礼者!!王子に向かって何だ!私は王子だぞ!」
麻衣「あら?今は王子ではないんじゃなくって?」
ティオフェル「っ…」
千里「ちょっと二人ともやめてよ」
ティオフェル、咳払い
ティオフェル「(声色)宮殿に戻るまで…私の事はロミルダと呼んでくれ」
麻衣「ロミルダ?」
健司「ロミルダか、へー名前まで可愛いじゃん。俺、マジであんたに惚れそうだぜ」
ティオフェル「(声色)よせ、気色悪い」
千里「じゃあロミルダちゃん、道案内宜しくね」
ティオフェル「(声色)任せておいて!」
麻衣「オエッ」
***
尖りの森。
ティオフェル「ここが尖りの森の入り口だよ」
千里「ここを登るんだね」
健司「ここって多分…メルヘン街道かビーナスラインじゃね?」
麻衣「確かに…」
ティオフェル「ビーナスライン?何だそれは?」
麻衣「私たちのいた時代の日本にはそういう道があるのよ」
ティオフェル「日本?お前たちは確か尖り森に住んでいると言っていたではないか。なのに今度は日本だと!?一体お前たちは何者か?」
麻衣「は?」
ティオフェル「何だ?」
麻衣「あんたバカ?」
ティオフェル「わ、わ、わ、わ、わ、私が何だって!?私に向かってバカだと?」
麻衣「だってそうじゃないの」
ティオフェル「無礼者!!王子に向かってバカと申すとは何事だ!?」
麻衣「お望みなら何度だっていってやるわ。このバカ王子!」
ティオフェル「お、お、お、お、お、お前は!」
麻衣「確かに…私たちは尖り石付近から来たって行ったわ。日本から来たとも行ったわ。それの何がおかしって言うのよ?日本国長野県茅野市豊平地区の尖り石縄文公園でしょうに!何にもおかしい点なんてないわ」
ティオフェル「バカいえ!お前は頭がおかしくなったか?ここは日本などと言う国ではない、アラセルバだろうに」
麻衣「あんたこそ頭おかしいんじゃないの?アラセルバは日本なのよ!日本の中のアラセルバ、レイミーテンデ?」
健司「だーでー!二人ともどいでそうなるんだよ、喧嘩はやめろって!」
麻衣・ティオフェル「ふんっ!」
千里「ここでこうしていたって仕方ないだろう。早く登ろうよ」
***
数時間後、頂上。
千里「ふぁー疲れた!僕もう、一歩も歩けない」
健司「俺も…」
麻衣「何よ!男共って口ばっかでかくて案外だらしないのね」
健司「そういうお前はどうなんだよ?」
麻衣「見ての通りよ。見りゃわかるでしょうに?」
健司「お前こそ女のくせに図太い体力してやがる」
麻衣「柳平の娘をなめちゃいかんに!」
勝ち誇って鼻を鳴らす
健司「でも…確かにここだよな。俺たちの時代も今も全然変わってないんじゃん」
千里「ただ近代的な建物がないだけ」
麻衣「あそこに、本来ならば考古館があるんよね」
ティオフェル「で?お前たちはここになにしに来たんだっけ?」
千里「あ!」
ティオフェル「あの絵のものだろ?確かここにあったはず…あーあったあった。これか?」
千里「あーそれだ!よかったぁ、ロミルダありがとう。二人とも見つかったよ!」
ティオフェル「じゃあ、ここはお前たちの民家だったのか?」
麻衣「バカ言わないでよ!私たちがこんなボロ臭い家に住んでるわけないでしょ?」
健司「麻衣、いい加減喧嘩腰になるのはやめろよ」
麻衣「ふんっ!」
健司「では…」
麻衣「私たちが星を見た時間に決行ね」
千里「了解。その時間に…」
***
時間の経過。麻衣、千里、健司、草の上に寝転んでいる
麻衣「あの日のようにこうやって草に寝転んで星空を眺めていると…」
健司「流星群が見え出して…」
ティオフェル「流星?」
健司「世話んなったなロミルダ」
千里「僕たちは流星の日に星と共にここに来たんだ」
麻衣「だから帰りもきっと星と共に帰るのよ」
ティオフェル「星…」
麻衣「この場所にその内…」
***
月が頂上に来ている
麻衣「流れないわね」
ティオフェル「なぁ、その流星と共にって話、私に詳しく聞かせてくれないか?」
麻衣・千里・健司「え?」
***
ティオフェル「なるほど。では、お前たちは今から本当に7000年も後の時代から来たのか?」
千里「そうだよ。その時代にはここは尖り石縄文公園って呼ばれているんだ。そこに考古館も建っているんだよ」
ティオフェル「考古館?」
麻衣「そう。あんたたちの時代に作られたものや文化、文明は私たちの時代にはとても貴重なものとなって残されているの。それが展示されたところよ。勿論、一応あんただって王族なんですから?あんたの名前も残されている筈だわ。何も出来ないおねしょたれのお漏らしバカ王子ってね」
ティオフェル「そなたは一体何様のつもりなのだ!」
麻衣「ただあんたが気にくわないだけよ。あんたの顔見ているだけで虫酸が走るわ!」
ティオフェル「私とて、そなたみたいなおなごは嫌いだよ!虫酸が走る!」
麻衣「真似しないでよ!そ、れ、と、私の名前はそなたでもお前なんていう名前でもないわ。麻衣よ、麻衣!きちんと覚えておきなさい!」
ティオフェル「っ…」
健司「だーでーやめろってんだろうに!!二人とも何がそんねに気に入らねぇーんだよ?」
麻衣・ティオフェル「ふんっ!」
封印の寝台。ティオフェル一人
ピぺ「王子?」
ティオフェル「ピぺ…なぁ、麻衣とは見ての通りのあんな関係だが誠に出来るのかな?あの者は私が何か言えば必ず反抗してくるし、それを見ていると私もついつい言い返してしまうし…」
ピぺ「大丈夫です王子、自信をお持ちなさい。麻衣様とは必ず上手くいきます」
ティオフェル「だといいけど…」
ティオフェル、あくび
ティオフェル「はぁ」
ピぺ「お疲れのようですね」
ティオフェル「とっても疲れたよ。おやすみピぺ…アナスターシャ…」
アラセルバ市街地。麻衣、健司、千里、ティオフェル、ドングリ餅を食べながら歩いている。
麻衣「結局、流星もなければ帰ることも出来なかったわね」
健司「そうだなぁ、一体俺らどうすりゃ帰れるんだ?」
千里「ひょっとして一生帰れなかったりして?」
健司「変な冗談止せよ千里!」
麻衣「そうよ、きっといつか私たち帰れるわ」
ティオフェル「なぁ、お前たちの来たその日って満月じゃなかったか?」
健司「そういえば…」
ティオフェル「昼間は日蝕じゃなかったか?」
麻衣「確かに…」
千里「どうして?」
ティオフェル「いや…ただ何となくな」
王宮・廊下。
ティオフェル「麻衣っ!」
麻衣「何よ、名前なんて呼んじゃって」
ティオフェル「ちょっと私の部屋に来てくれるか?」
麻衣「あんたの部屋に?何の用よ?」
ティオフェル「黙ってついてきてくれ」
麻衣「な、何よ急に真剣な顔なんかしちゃってさ」
寝所。
麻衣「ここがあんたの部屋?」
ティオフェル「そうだよ」
麻衣「こんなところで私に何の用?」
ティオフェル「みながいる前ではそなたも素直に話が出来ないだろうと思ってここに呼び出したんだ」
麻衣「は?」
ティオフェル「お前に断られることを覚悟で折り入って重大な頼み事をしたいんだ。聞いてくれるか?」
麻衣「私に?」
ティオフェル「お前しか頼めない事なんだ!」
***
麻衣「え?何?」
ティオフェル「今言った通りだよ…お前がここに来た理由。それはお前が卑弥呼の生け贄となる事」
麻衣「そんな…」
ティオフェル「しかしこの私が…黙ってお前を生け贄に差し出すと思うか?私にそんな事が出来ると思うか?」
麻衣「出来るんじゃないの?だってあんたは私が嫌いなんじゃないの?」
ティオフェル「無礼者!私には人間の情もないと言うか?」
麻衣「え?」
ティオフェル「よく聞け…そこで私は考えた。当日は入れ替わろう」
麻衣「は?」
ティオフェル「つまり私がお前となってお前の代わりに卑弥呼の生け贄となる」
麻衣「そんな!」
ティオフェル「王位の後継が心配か?後継などブブや兄上、私よりもずっとふさわしきものがいるだろ」
麻衣「あんたの目…本気みたいね」
***
麻衣「いいわ、分かった」
ティオフェル「あぁ…」
麻衣「しかし、やるのはあんたじゃないわ。この私よ!」
ティオフェル「それはいけない!」
麻衣「ってことで…私先に戻っているから」
ティオフェル「麻衣!まだ話は終わってない、ちゃんと聞け!」
地団駄踏む
ティオフェル「何処まで憎い女なんだ、あのくそ女」
***
数日後。雪が降っている
ティオフェル「くしゅん!」
メデア「王子様、お目覚めでございますか?」
ティオフェル「メデアおはよう。寒いよ…ガウンをくれ」
メデア「どうぞ」
ティオフェル「ありがとう」
メデア「王子様は本当にお寒い時期が苦手ですものね」
ティオフェル「私は冷え性なのだ!くしゅん!うぅ…」
メデア「王子様、今朝早く書状が届きました」
ティオフェル「私宛に?」
メデア「邪馬台国からですわ」
ティオフェル「なぬ?遂に来たか…」
メデア「どうなさったのですか?」
ティオフェル「宣戦布告だよ」
メデア「まぁ…」
ティオフェル「何れ来よう事は分かってはいたが故にこんな時期に来るのだ?くそ、まだまだ雪も積もるって言うに…」
ブブ「だからでしょう王子様」
ティオフェル「ブブ」
ブブ「王子様がお寒い時期が苦手と知り、敵はこの時期を選んだのではと」
ティオフェル「なぜにこの事を知っていると言う?」
ブブ「さぁ、それは分かりませんが、この時期でしたらアラセルバは不利だと考えたのではないでしょうか」
ティオフェル「なんと卑劣な手を使うやつらだ!戦うなら両国とも同等の立場で戦うべきだろ?」
メデア「邪馬台国はずる賢い国ですわ!」
ブブ「では王子様…」
ティオフェル「断る!宣戦布告ならば雪が溶けたらにしろと伝えろ」
ブブ「宜しいのでございますか王子様?敵国の戦の申し入れにお断りすれば戦の敗けを認めることとなり、邪馬台国に従服することとなりますよ?」
ティオフェル「そんなぁ…少し考えさせてくれ」
部屋の中。麻衣、千里、健司、エステリア、ティオフェル
麻衣「あんたどうしたの、顔色悪いわね。ちょっとおでこを失礼」
ティオフェル、ドキッ
麻衣「熱はないようね」
ティオフェル「大丈夫、私は至って健康だ」
麻衣「じゃあ悩み事でもあるの?」
ティオフェル「あぁ…悩み事か」
***
エステリア「なんと!遂に来たのね!」
麻衣「どうしたの?」
エステリア「邪馬台国からの宣戦布告があったそうです。一ヶ月の後にこちらに出陣をしてくるとの事」
麻衣「という事は…その日は」
ティオフェル「例のあの日になるのだろう」
ティオフェルと麻衣、目配せ。
健司・千里「あの日?」
エステリアM「王子様…麻衣様…」
健司「まぁいいや…暗くなってたって来るもんは来るんだから避けられなくちゃ仕方ねぇだろ?そんな事よりもさ、王子、どいでそんなに着込んでんだよ?」
エステリア「王子様は幼い頃から冷え性にございまして、お体をお冷やしになると…」
ティオフェル「エステリア!」
エステリア「申し訳ございません!」
ティオフェル、咳払い
ティオフェル「そう。エステリアの言う通り、私は幼い頃からの冷え性でね、故に冬に弱いんだ。だからこの寒い時期に何時間も外で戦うなんて…私は気乗りしない。しかも私は戦の経験もない。邪馬台国も寒さの中の私なんて骨抜きで勝ち目がないと思っているのだろう…私の体の秘密をどう知り得たか知らぬが、長時間寒さの中でアラセルバと戦わせ、私を弱らせる。そして私が野垂れ死に、隙に首をとるのがやつらの考えってとこだろう。卑怯な野郎共が考えそうな事だ」
麻衣「何弱気になっているのよ?あんたらしくないわよ。いつもの威厳は何処にいっちゃったの?いつもはあんなに憎らしいほどに威張っているくせに!」
ティオフェル「無礼者!そなたは…くしゅんっ!」
震えるティオフェル
麻衣「仕方がないの…ほれ、ショールでもかけてな。そして…ぺとっ!」
ティオフェル「これっ無礼者!!そなたは誰の体に触っているのか分かっているのか!?私は王子なのだぞ、王子の体に触るなど…」
真っ赤になりながら
ティオフェル「無礼者…」
麻衣「黙らっしゃい!せっかくあんたの体を労ってあったかカイロとショールをかけてあげたのに…そんな事言うんなら外すわよ!」
ティオフェル「いや…ありがとう。嬉しいよ」
健司「麻衣、お前いつの間にそんなもん持ってたんだ?ほいだって俺たちの来たのって?」
千里「晩秋だよ」
健司「そうか」
麻衣「夏だって同じだったと思うわ。ハンガリーの冬は寒いのよ」
健司「っつーかハンガリーじゃねぇだろ?」
ティオフェル「(笑う)ありがとう。しかしさすがの私も夏は暑いさ」
寝所。ティオフェルとブブ。ティオフェル、書き物をしている。
ティオフェル「よし、出来た。ブブ、これを邪馬台国へ届けよ」
ブブ「承知致しました。お心の準備がお出来になられたのですね」
ティオフェル「あぁブブ、私は逃げない。王子の私が逃げ腰でどうやってアラセルバを守れというか?」
ブブ「では、ペドロにそれなりのお稽古もみっちりとしていただかなければなりませんよ?」
ティオフェル「分かっている。最近は勉強も剣術もサボってはいないから安心しろ」
横になる
ティオフェル「今日も疲れた。おやすみブブ…」
ブブ「お休みなさいませ、王子様」
ブブ、明かりを吹き消す
一ヶ月後。兵の近付く音
ティオフェル「聞こえる…」
麻衣「え?」
ティオフェル、窓から見下ろす
ティオフェル「やはり…遂にこの時が来たか」
雪が降っている。ティオフェル、何枚も厚着とマスク、カイロを体中に貼っている。
健司「王子、いくら何でもそりゃやりすぎだろ。そんなの体重くて戦えんじゃん!」
麻衣「こいつはこの国の君主となる男よ。風邪引いてまた寝込まれるよりいいじゃないの」
健司「お前、最近こいつに優しくないか?」
千里「喧嘩しているよりかいいじゃない。」
ティオフェル、剣、厚い本を持つ
ティオフェル「では私は行く。健司と千里とエステリアは安全なところへ逃げろ」
千里「王子様…」
ティオフェル「大丈夫だ。安心しな」
エステリア「ではみなさん、私がご案内致します。着いてきて!」
健司「あぁ!麻衣も早く!」
麻衣「先に行ってて。私、こいつに話があるから」
健司「ふーん、よく見るあれか?戦場に行く男に愛を囁くって言うやつだな?」
麻衣「バカなこん言っとらんで早く行きなさい!」
千里「麻衣ちゃん、必ず来いよ」
麻衣「心配せんで、必ず行くわ」
健司、エステリア、千里、退室
麻衣M「さようなら…健司にせんちゃん」
ティオフェル「麻衣!」
麻衣「覚悟は決まっているわ、行きましょう」
ティオフェル「あぁ!」
封印の寝台。ティオフェルと麻衣。
麻衣「で、どうすればいいの?」
ティオフェル「麻衣、そなた正気か?そなたがやるつもりでいるというのか?」
麻衣「勿論、女に二言はないわ」
ティオフェル「ダメといっておろう!」
ティオフェル、王子の衣装と下着を脱ぐ
麻衣「きゃーエッチ!何あんた裸になっているのよ?」
ティオフェル「儀式の際のおなごの衣装を着るんだよ」
麻衣「ちょっとあんた、何言ってんのよ?あんたこそ正気?あんたは世継ぎの王子なのよ?」
ティオフェル、翡翠のペンダントをアナスターシャの像にかけ、ピンを側に置く。
麻衣「それは…あんたの大切なペンダント」
ティオフェル「そうだ。これは王位後継の者しかつけられないアラセルバの勲章だ。儀式にはまず、生け贄となるものの大切な宝を卑弥呼に捧げると書いてある」
麻衣「まさか」
ティオフェル「だから私の宝…この父上から頂いた王位後継の勲章を卑弥呼にくれてやる。これでアラセルバにまとわり付く卑弥呼の怒りを沈める事が出来るのなら安いもんさ」
寝台の上に本を置く
ティオフェル「そしてこれを燃やすんだ」
ピぺ「まもなく日蝕ですわ」
麻衣「え、え、誰?」
ピぺ「私です。王子のインコ、ピぺです」
麻衣「ピぺ?」
ピぺ「ご覧なさい」
麻衣「不思議…洞窟の天井が開けていくわ」
ティオフェル「青い空…太陽…」
ピぺ「その内、あの太陽が暗くなり、金環日食が始まります。その時に僅かに溢れ出る太陽の光によってここに火がつきます」
麻衣「わかったわ」
ティオフェル、汗だくで震えている
麻衣「あんた、怖いのね」
ティオフェル「あぁ、とっても怖い」
麻衣「安心しな、私はあんたを決して死なせはしないから」
ティオフェル「人間いつかは死ぬもの、それが少し早まったと言うだけだ。これが私の宿命だと…覚悟は出来ている」
麻衣「何よ!卑弥呼の怒りを沈めるのが本だけなら確かに安いもんだわ!でもあんたの命は何よ!それを捧げてもまだ安いもんだと言えるわけ?あんたは国王となる王子なのよ、あんたが死んだらどれだけ高く付くと思っているのよ?そんなのみんな敵の思う壺じゃない!」
ティオフェル「麻衣…」
麻衣「何?」
ティオフェル「そなたにティオフェルと…私の名で呼んで欲しい」
麻衣「え?」
ティオフェル「私を名で呼んでくださったのは父上と母上のみだった。しかしお二人とももういらっしゃらない…だからこの世に一人として私の名をそのまま呼んでくれるものは誰もいない。だから私の生きている間にもう一度だけ、誰かに私の名を呼んで欲しかった」
麻衣「生きている間って…正気なの?縁起でもないこと言わないでよ!」
ティオフェル「だったら?誰がやるという?私が死なない限りアラセルバに平和が戻る事はないんだ!私は王子だ!だからせめて死ぬ時くらいは、王子らしく名誉ある死に方をしたい。国と民を守るのが王子として私がやらなければならぬ事なのだ!」
麻衣「だったら勝手にしろよ!」
ティオフェル「麻衣?」
麻衣「あんたがそこまで言うんなら私にだって考えと言うものがあるのよ」
ティオフェル「え?」
麻衣「私だって覚悟は遠の前から出来ているの!」
ティオフェル「まさか…」
麻衣「そう、そのまさかよ。あんたはこの国で生まれてこの時代で生まれた男の子でしかもお世継ぎという身分だけど、私はこの時代で生まれたわけでもなければこの国の民でもましてや王族に関わるものでも何でもない。だから多分、私はここで死んでも自分の世界に戻るだけ…あんたが死ぬよりずっとお安いもんよ。だから…」
きっぱり
麻衣「もしどうしてもあんたが生け贄になりたいというんならあんたは勝手にしたらいいわ。その代わり、今言った通り、私も勝手にするから」
麻衣、衣装と下着を脱ぐ。
ティオフェル「麻衣っ…」
目のやり場に困っておどおど
麻衣「何、子供の裸見て赤くなってんのよ!貰うわよ」
ロングドレスの裾を契って胸と腰に巻く
麻衣「よしっ!これで出来たわ!これで私も儀式に参加できるって訳ね」
ティオフェル「(泣きそう)麻衣!そなたは生け贄という儀式が何を意味するのか分かっているのか?」
麻衣「分かっているからこうやって覚悟を決めてやっているんでしょうに!まだ11歳の女だからって甘く見ないで!私はこう見えたってロマ族の女なのよ。ロマの女は強いの!」
ティオフェル「本気で死ぬ気か?」
麻衣「だって…」
真剣
麻衣「もしもあんたがこの世からいなくなっちゃうんなら残された私はこれから一体どうやってこの地で生きていけばいいの?出会ってから今まで、色々会ったけど、結局は私はずっとあんたに支えられて生きてきたの。あんたに出会ってなかったら、きっとこの地で死んでたかもしれない…」
ティオフェル「麻衣…」
麻衣「でも、あんたはこんな見ず知らずの私達を宮殿に置いてくれた。そんなあんたなしのこの世でこれからどうやって私たちだけで生きていけばいいのよ!?この人でなし!」
封印の寝台に横になる。
ピペ「(ティオフェルに耳打ち)麻衣様はきっと王子に恩返しをしたいのです。最後くらいは王子の力になりたいとお思いなのでしょう…こんなにお優しくて心優しいお方を見殺しにするなんてとても出来ないと麻衣様はお思いです…」
ティオフェル「そうなのか…」
ティオフェル、麻衣の隣に横になる
麻衣「あんた…」
ティオフェル「麻衣…そなたはよく見るとこんなに美しいんだね」
麻衣「え?」
ティオフェル「そなたの顔をこんなに間近でよく見たのは初めてだ」
麻衣「何言ってるのよ…いきなり…」
ティオフェル「この先も生きれるのなら…私はそなたを后に迎えたかった…そなたを愛してる」
麻衣「やだ…」
ティオフェル「そなたが私を嫌いでも、私はそなたが…」
苦しみ出す
麻衣「ねぇ、どうしたの?」
ティオフェル「体が…寝台が…燃える様に熱くなってきた…」
ピぺ「日蝕ですわ!」
ティオフェル「麻衣!そなたは早く降りて洞窟を出ろ!」
麻衣「ティオフェル!ダメよ!」
ティオフェル「このままじゃあ…そなたまで死んでしまう…」
麻衣「ティオフェル!」
ティオフェル「さようなら…」
ティオフェル、麻衣に口づけ。火が強く燃え上がる。ティオフェル、麻衣を寝台から落とす。
ピペ「王子!」
麻衣「ティオフェル!ティオフェル!」
卑弥呼の亡霊が出てくる
ピペ「そなたは…」
卑弥呼「アナスターシャ、やっと見つけたぞ。そなた、死んでいなかったのか」
ピペ「そなたの狙いはアラセルバの王子でもこのおなごでもなかろう!私であろう!だったら私を殺せ、私がそなたの生け贄となる。故に王子を」
卑弥呼「それは無理というもんだアナスターシャ」
ピペ「何故だ?」
卑弥呼「今や私が狙うは5000年前に成就できなかった邪馬台国統一。今度こそ私がアルプラートに代わりアラセルバを邪馬台国と統一する!そしてアラセルバの王妃・クレオの体を支配し、私が帝国の支配者となるのだ!」
ピペ「なんだと?」
卑弥呼「その為にもティオフェル王子を殺すのだ!」
ピペ「そなたまさか初めからそれを…」
卑弥呼「左様、全て知っていてあの書を書いたのだ。そう、書を書いたのは全て私だ!」
ティオフェル、気を失う
麻衣「ティオフェルっ!」
麻衣、火の中に飛び込む。洞窟、火に包まれる。ピぺ、洞窟を出て空を見る
ピぺ「王子っ!麻衣様!」
ピペ「おかしいわ。日蝕はとっくに終わっているのに火が消えないだなんて。それどころかどんどん強くなってる」
卑弥呼「ちっ…何としぶとい王子なのだ、この炎の中でまだ死んでいないだとは」
戦場。邪馬台国の陣地。クレオ、ドルフィン。
クレオM「ティオフェル!?」
正気に戻る
クレオ「私は一体今まで何を…ここは?」
そこにドルフィン
ドルフィン「女王様!」
クレオ「そなたは邪馬台国のドルフィン!」
ドルフィン「そなたは…」
クレオをまじまじ
クレオ「何だ?」
ドルフィン「王妃か?アラセルバのクレオ王妃か?」
クレオ「そうだ。ここは一体何処なのだ?私をこの様なところに連れてくるとはなんの真似だ?」
ドルフィン「王妃、良かった。私をご覧」
仮面をとる
クレオ「あなた様は…まさか…」
ドルフィン「左様、私はアラセルバのメディオスだ」
クレオ「何故あなた様がその様なお姿に?ここは?」
ドルフィン「今まで1年間邪馬台国の手下の振りをしながらそなたとアラセルバにおるティオフェル王子を見守っていたのだ。邪馬台国の敵らに気づかれぬようにな」
クレオ「1年!?時はそんなに経っているのか?では私は今まで何をしていたのだ?」
ドルフィン「そなたは邪馬台国に連れてこられてから邪術をかけられ、この1年卑弥呼の亡霊がそなたに乗り移っていたのだ。恐らくそなたの体を卑弥呼が乗っとり、このままアラセルバと邪馬台国を乗っとり、征服するつもりだったのだろう」
クレオ「あぁ…では王子は?ティオフェルはどうしておる?」
ドルフィン「按ずるな。王子は無事だ、相変わらずだがな」
クレオ「では、この戦を指示したのも私か?」
ドルフィン「そなたのせいではない。みな卑弥呼がそなたの体を乗っ取ってしたことだ」
クレオ「あぁ何て事だ…ティオフェルは戦の経験もないというに、あろう事か息子のいる国に戦を仕掛けてしまうとは」
ドルフィン「王妃…」
クレオ「あの子は戦術すら知らないのです、どうしましょう王様…」
ドルフィン「王妃…ティオフェルは心配ない。王子とてもう14歳だ、一人でも何とかやっておろう」
ドルフィン「しかし何故、突然にも卑弥呼の霊が抜けたのだ?このような戦の真っ最中だというに…」
ドルフィン「まさか…王子のやつ…」
クレオ「どうなさったのですか?」
隠れ家。エステリア、千里、健司
千里「そういえば麻衣ちゃんは?まだ来ていないよね?」
健司「何やってんだよあいつ!」
千里「まさか王子様と一緒に戦に出たとか?」
健司「あぁ…あのバカならやりかねねぇ」
エステリア「いえ…麻衣様は戦には行っておられません」
健司「エステリア、何か知っているのか?」
エステリア「え、えぇ…」
健司「はっきりしろよ!」
エステリア「実は…麻衣さんは封印の寝台に行かれました。王子様もご一緒に行ってらっしゃいます」
健司「封印の寝台?」
エステリア「はい…卑弥呼の呪いを封じ込め、末代まで平和をもたらすという封印の儀式を行っておいでです」
話し出す
エステリア「早く行かなければ取り返しのつかぬことになってしまうかもしれません!」
健司「うっそだろ!?あのばか野郎!」
千里「麻衣ちゃんと王子様を助けに行こうよ!」
健司「あぁ!エステリア、案内頼む!」
エステリア「お任せください」
3人、隠れ家を出る
***
外。クレオがいる
エステリア「何者だっ!?」
ベールを被ったクレオを見る
エステリア「お前はまさか…」
健司「誰だこいつ?」
エステリア「邪馬台国の卑弥呼です!」
健司・千里「邪馬台国の卑弥呼!?」
エステリア「何故ここに来た?アラセルバの罪なきものの首を取りにか?」
剣を向ける
エステリア「話は王子様から聞いている。このアラセルバを乗っとり、邪馬台国に刃向かうものは皆殺しにし、5000年の眠りから復活したお前がアラセルバを新生邪馬台国とし、支配するつもりなのだろ?」
千里M「エステリアってこんなキャラだっけ?」
健司M「なんか今のエステリアって…あの狂暴麻衣を見ているみたいだぜ」
エステリア、短剣を向ける
エステリア「私が相手だ。私とて武家出身の女、さぁ何処からでもかかってくるがよい!」
クレオ「エステリア、私の話を聞け!」
エステリア「なんの話を聞くことがあるか?」
クレオ「私はアラセルバの敵ではない!」
エステリア「嘘を申せ!その様なことをいって私たちを安心させておいてから一気に攻め混むつもりだろう」
クレオ「違うっ!私の話を聞いてくれ!」
エステリア「無駄だ!さぁ、私とて覚悟は出来ている!わぁぁっ!」
クレオに剣を向けて突進
千里、手で顔を覆う。健司、千里を庇いながら目を伏せる
封印の寝台。火森全体を包んでいく
ピぺ「困ったわ…」
戦場。人々、戦いをやめる
兵士「何か匂わないか?」
兵士「火事か?」
ブブ「あれを見よ、火がこちらへ迫ってくるぞ!」
メルセイヤ「逃げるのだ!今は敵味方言ってる場合ではない!みな避難しないと焼け死んでしまう!」
アミンタ「邪馬台国の兵士もアラセルバの兵士も皆こっちへ来い!」
全員、逃げる
隠れ家。
健司「一体何があったんだ?」
千里「わからないよ…」
クレオ、考えている
千里「卑弥呼さん!」
エステリア「そんな者に構っている必要はない!私たちは早く逃げるのです!」
クレオ、蒼白になる
クレオ「まさかっ」
健司と千里を見る
クレオ「お待ちなさい。今、封印の寝台と言うところに行っている者はいるか?」
健司「おばさん、封印の寝台を知ってるの?」
千里「この国の王子様がいらっしゃっているよ、僕の…友達と共に…」
泣き出す
健司「千里、泣くな」
クレオ「やはり…封印の儀式を遂に行っておる者がいるのか。しかし何故にここまで燃えるのだ?あれは日蝕が終わると共に火が付き、卑弥呼が生け贄となったおなごの魂を一瞬にして抜き取ったらすぐに炎は消えるもの…」
息を飲む
クレオ「まさか…ティオフェル!」
健司「おばさん!?」
クレオ「私は封印の寝台に行く!」
千里「なら僕も連れていってよ!」
クレオ「いけない!お前たちまで死んでしまうかもしれぬ!」
千里「それでも構わないよ!だって大切な友達があそこにいるんだ!なのに見捨てて僕だけ生き残るなんて出来ないよ!もし麻衣ちゃんが死んじゃうんなら、王子様が死んじゃうんなら…」
健司「俺らずっと一緒の友達だもんな、俺も行くよ」
エステリア「でしたら私も行きますわ!王子様と麻衣様の元へ」
エステリア「しかし…」
クレオを見る
エステリア「何故に?」
クレオ「詳しくは後で話す。とにかく今は…」
エステリア「えぇっ!」
封印の寝台。千里、健司、エステリア、クレオの到着。火が消えていく
エステリア「火が消えて行くわ」
クレオ「ティオフェル!ティオフェル!」
洞窟の中のみ火の海
クレオ「何とおろかな真似を…世継ぎのお前まで犠牲になる気か!」
ティオフェル、朦朧
ティオフェルM「母上の声だ。母上…」
クレオ、ティオフェルの名を呼び続けている
ティオフェルM「母上が私をお呼びになられている…やっとお会いになれるのですね。この様に若くして来たとお叱りになられるでしょう。どうか私をお叱り下さい母上…」
クレオ「ティオフェルっ!おぉ、何と言うむごい姿になってしまったのだ。母が助けます、ティオフェル死ぬのではありませんよ」
抱きかかえて外に出る
千里「卑弥呼様!」
アッディーリャ「ティオフェル、そなたがおなごに化けて身代わりになるとは…そなたは最低の親不孝ものです!」
揺する
クレオ「ティオフェル、ティオフェル、聞こえますか?母ですよ!」
千里・健司「お母様!?」
エステリア「どう言うこと?王子様のお母上だと?」
クレオ「そうだ、エステリア私を見ろ!」
ベールと冠をはずす
クレオ「私は…間違いなくティオフェル王子の母・アラセルバのクレオだ」
エステリア「クレオ王妃様?何故に…」
クレオ「私は1年もの間、邪馬台国のゴノスロー宮殿にいたらしい。卑弥呼の亡霊が私の体を乗っとり、アラセルバを滅亡させようと操っていたらしいのだ」
エステリア「卑弥呼の亡霊…」
クレオ「よって、王子をこの様な目に遭わせたのも、アラセルバに戦を仕掛けたのも全て私なのだ…しかしどれも全く身に覚えがない。私を許してくれ」
エステリア「そうでしたか…」
クレオ「私がこうして元に戻れたのは儀式のお陰なのだ。儀式によって卑弥呼の亡霊をここに呼び出したため、私は亡霊から解放され、元に戻ることが出来た。その代わり…私は大切な息子を犠牲にしてしまった」
健司「待って」
ティオフェルの脈を計る
健司「脈はまだあるし、息もある…まだ微かに生きているぞ!」
心臓マッサージをする
クレオ「無礼者!王子に何をするのだ!」
健司「このまま死なせたくねぇーんだろ?だったら黙って見ていてください!」
人工呼吸をする
健司「いくら女装とは言え相手は男だ…気持ち悪いがこの際仕方ねぇ」
アッディーリャ「何というふしだらな!」
***
ティオフェル、息を吹き返す
健司「良かった、生き返った!」
ティオフェル「ここは?」
健司を見る
ティオフェル「うわぁ!無礼者!今私に何をした!?」
健司「何をしたはねぇだろうに?俺はあんたを助けた命の恩人だぜ?」
ティオフェル「助けた?私を?」
キョロキョロ
ティオフェル「では…私は戻ってきてしまったのか?」
千里「そうだよ、もう少し遅ければ本当に死んじゃってたかもしれないんだよ?」
ティオフェル、寂しげ
ティオフェル「母上のお声を聞いたのだ。だから私は母上のお国へ行こうとしたのだ…この世に生き返ったとて何がある?私に惨めで屈辱的な余生を送れと言うか?聖君になれぬのならば、民を守れぬのならば、いっそのこと名誉ある死に方を選んで死ぬ事の方が王族として…」
アッディーリャ「何をいっているのです!母上はここにいるではありませんか!どれだけ親を心配させたかあなたは分かっているのですか!?」
ティオフェル「え?」
アッディーリャ「あなたの目の前にいるのがお見えになりませんか?」
ティオフェル「母上?」
泣きつく
ティオフェル「母上!」
健司「王子のやつ、泣かせるぜ」
千里「良かったね…王子様、嬉しそう」
ティオフェル「(泣きながら)母上、まだ火の中におなごがいるのです。私の大切なおなごがいるのです!」
クレオ「ティオフェル!何を考えているのです!?愚かな真似はお止めなさい!」
ティオフェル「いいえ母上、お止めにならないでください。私は、麻衣を助けに行って参ります」
クレオ「ティオフェル!」
ティオフェル「麻衣は死んではならぬのです!例え私が死んだとて麻衣は生きなくちゃいけない人間なんです!だから…私は救いに行きます!」
クレオ「ティオフェル、バカはよせ!あの洞窟の中はまだ火の海なのだ!」
ティオフェル「炎が燃えていると言う事は、麻衣の魂はまだ抜き取られていないと言う事でしょう?」
火の中に入っていく
ティオフェル「麻衣ー!麻衣ー!何処にいるんだ?麻衣ー!」
寝台の下に転がって動かない麻衣
ティオフェル「麻衣!しっかりしろ麻衣!くそっ…」
ティオフェル、ドレスを脱いで麻衣を覆う
ティオフェル「待ってな、まずはここを出よう」
***
クレオ「王子っ!」
ティオフェル「私は平気です。しかし麻衣が…」
泣きそう
ティオフェル「私のせいだ。私のせいで麻衣はこんな惨い姿に…」
健司「泣いてたって仕方がねぇだろ…とりあえずは麻衣を連れて王宮に戻ろう」
ティオフェル「あぁ」
健司「しかし王子…まずはその格好、どうにかしろよ。流石に真っ裸じゃ城下は歩けないぜ?」
ティオフェル「え?」
クレオ「愚か者目が、これでも着てお行きなさい」
ティオフェル「これは…」
クレオ「そなたの事はエステリアから聞いておる。しかし、せめて男の扮装をしてお歩きなさい。女装など母は恥ずかしくて見てられぬわ!」
ティオフェル「母上…」
ティオフェル、衣を着る。
千里「今日は、僕が髪を結んであげるよ」
ティオフェル「いいよ、それくらい私とて自分で出来る」
千里「いいの」
千里、ティオフェルの髪を結う
ティオフェル「変わった髪紐だな」
千里「これ、麻衣ちゃんから貰ったんだ」
ティオフェル「麻衣から?」
千里「そう…麻衣ちゃんは織物とお裁縫の達人だから糸から自分で紡いで作ったんだって。麻衣ちゃん、この国へ来る前からいつも言ってたよ、“アラセルバの王子様はどんな方かしら?お会いできるのならしてみたいわ。きっとお美しくて素敵な方なのでしょうね”って」
ティオフェル「麻衣…」
千里「はい、出来ましたよ」
ティオフェル「ありがとう…な、何だ?この女のような髪型は!?」
千里「この方が王子様に似合うと思って。」
ティオフェル「そなたっ」
千里「いいでしょ、たまには変わった髪型も」
ティオフェル「まぁ…よいだろう」
健司、麻衣をおぶる。よろよろしたティオフェルの両肩をクレオと千里が支える
ティオフェル「ありがとう」
健司「あんたはいい王子だよ、初めの頃はごめんな」
ティオフェル「いや、私こそそなたらに大変酷いことをした。申し訳ない」
健司「あんたならきっと、聖君になれるさ。でも責任重大だぜ」
千里「僕たち身分は違うけどさ、もう友達だよね」
ティオフェル「友達か…それもいいな」
戦場。三日後、戦が再開している。
ティオフェル「メデア」
メデア「はい、王子様」
ティオフェル「私の軍服を用意せよ」
エステリア「王子様、戦に出向くおつもりですか!?今はまだお止めください!そのようなお体でまだ無理でございます!」
クレオ「ティオフェル、無茶は行けません」
ティオフェル「ご心配なく、私はもう大丈夫です」
千里「だったら今度は僕も戦に出るよ」
ティオフェル「千里っ!バカいうな!戦は遊びではない!人と人との殺し合いなんだ!一歩間違えば命を落とす場所なんだぞ!ダメだ、来るな!」
千里「そんなの分かってるよ!でも、僕も王子様のお役に立ちたいんだ!初めは王子様の身代わりでお城の留守番するだけで怖かったよ。今までまで本当に僕は弱虫だったんだ。でも僕はここに来てから王子様のお陰で強くなれた!王子様のお陰で、今の僕はここにいられるんだ!」
勇ましくきっぱり
千里「だから死んでも生きても、この戦で恩返しをしたい。僕なんかダメダメで戦力になんて少しもならないけど、僕は王子様のお力になりたい!アラセルをお守りしたいんです!」
千里「敵か味方か分からないけど兵士さん、このサーベル借りるよ」
兵士「お、おいちょっと!」
兵士「あやつこそ、敵か?味方か?」
千里「やぁぁぁぁ!」
千里、戦場へかけていく
健司「俺も行くぜ王子、弱虫千里なんかに負けてらんねぇし。なんつってもここは俺たちのふるさとでもあるからさ。」
バイオリンと弓を持つ
健司「持ってきて良かったぜ。俺はこいつで勝負だ」
ティオフェル「お、おい!」
健司お駆けて行く
健司「おじさん、度々わりぃな。俺はこの、剣と短剣を借りてくぜ」
兵士「一体今日はどうなっていると言うのだ?」
ティオフェル「あいつら…」
クレオ「ティオフェル、そなたも幸せ者ですね」
ティオフェル「全く、仕方のないやつらです。どうなったって私はもう知らないよ」
サーベルを構える
ティオフェル「ではエステリア、メデア、母上、私は行って参ります」
エステリア「王子様…お手が震えておいでです」
ティオフェル「大丈夫だ。ではメデア、麻衣を頼んだよ」
メデア「承知致しました。王子様の大切なお嬢様はこのメデアめが命に代えてお守り致します」
ティオフェル、戦場に駆けていく
クレオ「しかし私は、戦の経験がない息子の事が心配だ。メデア、私も行ってくる。あとは頼む」
メデア「王妃様!」
エステリア「私も参りますわ!」
クレオ「エステリア!」
エステリア「私とて武家の女にございます。武術の経験ならございますわ」
メデア「エステリア様まで!」
クレオ、エステリア、戦場に駆けていく
***
戦場。
ホース「ふんっ、ちびの王子め!口ほどでもないわ!」
ティオフェル「やー!やー!うわぁ!」
健司「王子、逃げるな!」
ティオフェル「たぁーっ!」
剣の柄でノックアウト
ティオフェル「(ガッツポーズ)」
そこへクレオとエステリア
クレオ「ティオフェル!何を呑気なことをしているのですか!?」
ティオフェル「は、母上!?何故…」
エステリア「王子様、これは試合ではないのです!留目を!」
ティオフェル「エステリアまで…」
ホース、ノックアウトされている
ティオフェル「しかし…殺すなど私にはできません!」
クレオ「その様な事でどうやって戦ができます!?国王となれます!?何のための戦です!?」
ティオフェル「ですて…」
クレオ「もう良いわ、意地らしい!エステリア!」
エステリア「はい!」
クレオ・エステリア「やぁぁぁー!」
ホース、息絶える
ティオフェル「あぁ…」
へなへな
健司「王子!後ろ!」
ティオフェル「え?」
ポテトが襲ってくる
ティオフェル「ポテトっ!」
ポテト「えへへ王子様、お久しぶりで」
短剣をティオフェルの首に突きつける
ティオフェル「うっ…」
ポテト「大人しくしな王子、さもないとこのままあなた様の体は真っ二つですぜ」
ティオフェル「構わない…だが、私を殺す前に一つだけ教えろ」
ポテト「何ですかい?」
ティオフェル「お前、うちの城のロミルダ嬢に大層お熱のようだが?それはまことか?」
ポテト「早耳じゃのう、流石は王子だ。しかしそれがどうした?」
ティオフェル「ロミルダに約束したそうではないか。何ゆえに約束を破る?」
ポテト「それはいかなる事かな?」
ティオフェル「アラセルバと戦になったとしても彼女だけは守る、殺さないと言ったのであろう?」
ポテト「あぁ、言った。勿論きちんと覚えているとも。王子様はその様な事までご存じだったか」
ティオフェル「あぁ、みーんな知ってるよ」
ティオフェル「彼女は戦を大変嫌い、恐れていた。彼女は邪馬台国とアラセルバとの和睦を望んでいたんだろ?」
ポテト「あぁそうだった。しかし戦を命じ、宣戦布告を実行したのは私ではない。邪馬台国の大女王・卑弥呼様であられる」
ティオフェル「しかし、その卑弥呼は今やもういない…邪馬台国はアラセルバ同様無王となった」
ポテト「何だと?何故そんな事を言う?」
ティオフェル「さぁ何ででしょうね」
ポテト「なぁ王子様、死ぬ前にもう一つだけ教えてくださいよ。今、彼女は何処にいるのかね?無事なのかね?」
ティオフェル「そんな事を聞いてどうするつもりだ?」
ポテト「この戦中は安全な場所で身を隠していて欲しいのだ」
ティオフェルM「こいつよく言うよ…」
ポテト「そして邪馬台国の勝利の暁には、私はロミルダ嬢を貰い、安全な邪馬台国で共に暮らすのだ。彼女もそれを望んでいる筈だ」
ティオフェルM「おえぇ…そんな事ある筈がないだろうがバカ…何処までナルシストなんだ」
ポテト「さぁ、教えるまではあんたの首は切らん」
ティオフェル「今、彼女が何処にいるかって?いいよ、教えてやろう」
得意気に
ティオフェル「ロミルダなら殺されそうになっているよ。他でもないお前にな!」
ポテト「??」
ティオフェル「ん、おじ様ったら分からないの?」
ティオフェル「(声色)ロミルダ嬢はあなた様の目の前におりますしてよ」
ポテト「まさか…」
ティオフェル「(声色)そう、そのまさか。ごめんねポテト、騙してて。あなたが私を愛してくれるのは嬉しいけど、でも私は生憎男に興味ないの」
ポテト「そ、そそそそそんなの私だってそうだわい!おえぇ気持ち悪りぃ…こんなやつと私は今まで共に過ごしたなんて…」
ティオフェル「おえぇって…そりゃ私の台詞だよ!このロリコンエロ親父!」
そこへドルフィン
ドルフィン「ティオフェル王子やっちまえ!」
ポテト「貴様はどっちの味方じゃ!」
ティオフェル「いざ覚悟!やぁぁっ…」
震えながら剣を降り下ろす
ポテト「ぎゃあああああっ」
ティオフェル「あぁ…」
腰を抜かしてしゃがみこむ
クレオ「王子っ!」
そこへ武装したペドロ
クレオ「おぉ!」
ペドロ「王妃様!ご無事だったのですか!」
クレオ「そなたこそ、この戦に参戦していたとは!元気そうで何よりですわ」
ペドロ「それよりも王妃様、この戦は…」
クレオ「存じておりますわ」
ペドロ「は?」
クレオ「しかし王子の心を傷つけてしまうのではと恐ろしくて…」
エステリア「一体なんなのですか?先程の事でしたら私たちはもう…」
クレオ「いやエステリア、もう一つ、そなたも信じがたい事実ではあるのだ…」
***
ティオフェル、そこへブブ。
ブブ「ドルフィン!」
ティオフェル「ブブ!」
ドルフィン「ブブ!」
ティオフェル「え?」
ブブ「後は私が始末する」
ティオフェル「ブブ…」
ブブ、ティオフェルにサーベルを向ける
ティオフェル「ブブ、何故?何故に剣を私に向けるのだ?」
ブブ「ご無礼を、王子様」
ティオフェル「そんな」
***
エステリア「ブブ様が!?ですて、あのお方は王子様の幼き日よりもっとも信頼のおける重臣だったではないですか!王様と王妃様とお離れになり泣いていらした時だって王子様のお涙を拭ってくださったお方ではないですか!そんなお方が何故…?」
***
ブブ「確かに、王様がご不在になり、まだ幼かった王子様の代わりに摂政として政治の責務についた時の私は純粋に王子様のお側にお仕えする重臣の私だった。しかし私とて、もとは王族の生まれ…」
ティオフェル「何が言いたい?」
ブブ「嘗て、私は王子様の家庭教師・ペドロの次男として生まれた。ペドロが先王・ギルデンバッハの兄君という事は王子様もご存じでしょう」
ティオフェル「そ、そうだったのか?」
ブブ「ご存じなかったのですか!?」
ティオフェル「ご存じなかった…」
ブブ「私はペドロの子として8歳まで育ったが、当時ギルデンバッハには正室にも側室にも子が出来なかったため、私は王室の計らいでギルデンバッハの正室であるロクサーヌの養子としてとられ、世継ぎとしての座を貰った。しかしその翌年に、あっさりとその座はとられてしまったのだよ…ロクサーヌに男の子が生まれたのだ。その男の子こそ王子様、あなた様のお父上であられるメディオス様だ。ギルデンバッハは大変喜び、メディオスに王位後継の座を与え、用無しになった私は後宮から捨てられた。軈て、ギルデンバッハが死に、メディオスが国王になったが、私は諦めなかった。これでもし、メディオスに男の子が生まれなければ王位は私にまわってくる…そう思っていたのだがメディオスに男の子が生まれた。それが王子様の兄上であられるイプスハイム様です。私が20歳の時でした。当時の私はとても悔しく自暴自棄になっていた。しかしそんな時私に、メディオスは何と言ったと思う?イプスハイム王子様の世話役を頼むとおっしゃった。こうして私は重臣の身分となり、伯爵の称号を授かり、イプスハイム様のお側に仕え出したのです」
ティオフェル「ブブは兄上の父親がわりでもあったのか」
ブブ「左様。イプスハイム様は勤勉で、頭がとてもよく、剣術にも優れていた。私など到底及ぶ実力ではなかったが、そんなイプスハイム様も私がお仕えしていた幼少時代は王子様と同じ様にとても泣き虫で甘えん坊なところがあり、何度もイプスハイム様のお涙を脱ぐって差し上げ、お慰めしてきました。そんな風に接している中で、私の気持ちは徐々に落ち着き、王位後継の事は諦めるようになりました。このままこの子の父親がわりとして側にいれれば幸せでした。しかし、イプスハイム様が15歳になって弟君であられるあなた様がお生まれになった頃に事は起こりました。イプスハイム様が放蕩となり、城下でジプシーの娘をお作りになり、城へお連れになりました。メディオスは大層ご立腹になり、イプスハイム様とその娘との婚礼は認めないと追い返しになりましたが、イプスハイム様も王位を継ぐ気はないとお言いになり、あっさりとその娘と共に国を出て行ってしまいました。故に、まだ生まれたばかりのティオフェル王子様に王位後継が受け継がれ、用無しになったと思った私もまた、王子様のお側に仕える伯爵として任命されたのです。あなたの父親がわりを任され、いつでも王子様のお側で王子様のお世話をする。我が息子の様に愛しく可愛かった…。しかし、昨年メディオスと王妃様を巻き込む大戦がありましたが決着がつかぬまま終結しましたね。そしてメディオスは帰らぬまま…。本来ならば、王子様がここで王位につくが妥当。しかし王子様にはまだ国王になるだけのものが備わっていない。故に、私が王子様の代わりに摂政として、王室の権利を守り、政治を行って参りました。しかし…それが叉、あの時の私を蘇らせたのです。私は、徐々に“このままこの国の王となりたい”と思い始め、将来王位に着く王子様が邪魔になってきました。そして、息子の様に愛して可愛がったあなたの首を取り、私がこの国を統一したいと…」
ティオフェル「そんな」
ブブ「よって、この戦を仕掛け、宣戦布告をしたのもこの私だ。王子様のお母上に卑弥呼亡霊を呼び込み、そのお体を乗っ取らせ、操らせていたのも全てこの私だ!」
ティオフェル「ブブ…そんな事をしなくても私は…」
ブブ「では、覚悟はいいですかな?」
金星が出ている
ブブ「さらば王子、やぁぁっ!」
ティオフェル「ブブ!」
ティオフェル、身を伏せる
クレオ「おのれブブ、私の一人息子に…許せん!」
エステリア「お止めください王妃様!」
クレオ「構うな!大事な息子に手出しをされて黙ってみておる母などいないわ!」
剣を抜いて進んでいく
エステリア「王妃様!」
ティオフェルのペンダントが輝き出す。
ティオフェル「これは?なんだ?」
エステリア「あれは?」
クレオ「ペンダントの力だ」
エステリア「ペンダントの力?」
クレオ「数千年に一度起きる幻だと言われている。まさか本当に起ころうとは…」
ペンダントの光、金星に混ざると大きな光となってブブを攻撃
ブブ「うわぁぁっ!」
ブブ、倒れる。健司、千里、びくびく近寄る
健司「死んだのか?」
ティオフェル「いや、ただ気を失っているだけだと思う」
ブブの上体を起こす
千里「殺すの?」
ブブ、気を失っている
ティオフェル「いや…殺しはしない」
ティオフェル「ブブ…私から王位を奪うためにこのような謀反を起こさなくても…堂々と私に言ってくれれば良かったんだ。私だって、その方がずっと良かったよ…私なんかよりもそなたの方が国王としての器はあるし、継ぐ気もない私なんかよりもずっと良かっただろう…」
クレオ「ティオフェル!」
ティオフェル「しかし…起こってしまったからにはもう仕方がない。私もこの様な事はしたくはないが…」
エステリア「まさか王子様…」
ティオフェル「(大声)この謀叛者ブブを太宰府に流す!数年の後、反省が見られればブブをアラセルバの王室伯爵として復位させる!」
クレオ「王子…」
ティオフェル「ブブ、私はお前を父のように慕っている。叉、必ず私の重臣として、父として戻ってきてくれ。父亡き私にはお前が必要だ」
クレオ「ティオフェル」
ティオフェル「母上…」
クレオ「そなたの父上はきちんとそなたの側で生きておられます」
ティオフェル「え?」
ドルフィン「ティオフェル」
ティオフェル「ドルフィン!何だ、私の首を取りに来たか?さぁ、とれ!潔く私はここで死のう」
ドルフィン「ティオフェル!」
ティオフェル「え?」
ドルフィン「こっちを見なさい、ティオフェル」
鎧をとる
ティオフェル「父上?」
ドルフィン、頷く。
ティオフェル「父上…何故」
クレオ「王様は邪馬台国でずっと生きておられました。そして邪馬台国で兵士の不利をしながらアラセルバに忍んでは、そなたの事をいつでも気にかけ、成長を見られていたのですよ」
ティオフェル「何故?何故にお生きになられていたのなら私の元へ帰られなかったのです?私は…私はずっとお会いしたかったのです…」
ドルフィン「すまなかったティオフェル…しかし父はこれを気に、お前一人でもやっていかれるのか?お前に国王になるだけの器があるのかを見たかった…」
ティオフェル「それで…私を一人に?」
ドルフィン「(笑う)しかし、そんなに弱虫なのなら…やはりまだお前に国王は勤まらぬ様だな」
ティオフェル、涙を堪えている
ドルフィン「仕方のない王子だ…父の元に来なさい」
ティオフェル「え…」
ドルフィン「父の胸に来い、今日だけだぞ」
ティオフェル「父上…お会いしたかった、私は父上も母上もお亡くなりになってしまったとずっと思って心痛めておりました。今まで辛かったのです…寂しかったのです…」
クレオ「ティオフェル…良かったですね。しかし涙は今日までですよ」
ドルフィン、ティオフェルを抱き寄せる。流星が始まる
クレオ「多くのものが亡くなってしまったが、やっとこれで全てが終わったのですね」
ティオフェル「はい、母上」
ピぺの声「いえ、まだ終わりではありません」
ピぺ、王女の姿になる
ティオフェル「アナスターシャ!」
ピぺ「王子、本当にありがとう。一人でよく頑張りましたね。あなたは立派な王子です。あなたは必ずや聖君となれるでしょう。これからはあなたがアラセルバを統一して太平の世を築いて行く番です」
ティオフェル「約束します…」
ピぺ「王子、今まで本当にありがとう」
ティオフェル「アナスターシャ…いや、ピぺ…本当にお前はいってしまうのか?」
ピぺ「私は5000年も前に生きた女王です。人間に戻った今、もうこの世で生きているわけにはいきません。最後にアラセルバの平和と戦の終結に立ち会えて本当に良かった。さようなら王子、お別れです」
ティオフェル「ピぺーっ!」
ピぺ、光と共に消えていく
ピぺの声「王子、涙を拭いてください。泣いてはなりません…あなたの勇敢な心に、私から花の冠を授けましょう」
ティオフェル「遂にピぺもいってしまった…」
ティオフェル、者繰り上げる。涙を拭って堪える。
王室の庭。千里、健司、ティオフェル、エステリア。中央には麻衣、ミルテとエーデルワイスの花畑で眠っている
ティオフェル「麻衣!麻衣!」
麻衣「…」
ティオフェル「頼む麻衣、目を開けて。戦は終わったんだ。平和が戻ったんだよ」
千里「麻衣ちゃん…」
健司「おいっ麻衣!」
ティオフェル。泣き出しそう。麻衣の手を握る
ティオフェル「私が死ぬべきだったのに、どうしてそなたがこの様なことになるんだ…」
エステリア「王子様…」
ティオフェル「私の事が嫌いだからか?私が憎いからなのか?だから戻ってきてくれぬのか?何故に何も応えてくれない?」
健司「流星の奇跡でも起きてくれないかな」
千里「うん…」
泣き出す
千里「麻衣ちゃん何で?僕ら友達なんだよ?いつでも一緒だって約束したじゃん!なのに黙って一人で行っちゃうなんて酷いよ…」
健司「泣くのはよせよ。」
千里「だって…」
ティオフェル「私が悪いんだ。麻衣をあんな目に遭わせてしまったからこんな事になってしまったんだ。火事になった時だって、真っ先に救ってあげていれば麻衣はこんな事にならずにすんだのに…」
涙を流す
ティオフェル「麻衣…」
体を触る
ティオフェル「そなたの体は冷たいね。こんなに冷たかったの?」
エステリア「麻衣様…王子様…」
ティオフェル「だったら麻衣、私はそなたに聞いて欲しい歌があるんだ。もしこれで目を覚ましてくれぬというのであればもう…私はそなたの事を諦めよう…」
竪琴を弾き出す。全員、涙を流す。
瞑想の中。
麻衣M「あの音は?美しく、何処か懐かしいあの曲は何?」
麻衣M「そうだわ!確かあれはティオフェルの奏でる竪琴よ!ティオフェル!ティオフェル!」
ティオフェルの声「麻衣!麻衣!」
麻衣M「ティオフェルなの?」
ティオフェルの声「麻衣、何故目を覚ましてくれない?目を開けて」
ティオフェル、現れて涙を流す
麻衣M「ティオフェル…泣いているの?」
ティオフェル「麻衣、私が嫌いか?」
麻衣M「え!?」
ティオフェル「私が憎いか?」
麻衣「いいえティオフェル、私はあんたを憎んでない!嫌いでもないわ!何故そんな風に思うの?」
ティオフェル「だったら…早く私の元へ戻って来て…」
麻衣「ティオフェル、私のために泣いているの?ダメよ!あんたらしくないじゃない!あんたが悲しい涙を流すなんてあってはいけないわ!」
ティオフェル、少しずつ消えていく
麻衣「ティオフェル、ティオフェル待ってよ!何処に行くの!?」
(戻って)庭。
ティオフェル、竪琴をやめる
ティオフェル「そうか…分かったよ麻衣…」
ティオフェル「こんなきれいな星空をこんな気持ちで見る事となるとは…そなたとこんな形で別れる事となるとは思わなかった。お前は最後の最後まで薄情で軽薄な女なんだね」
麻衣にエリカとミルテの髪飾りをつける
ティオフェル「そなたの黒髪によく似合っている…」
麻衣の髪に寄り添う、髪飾りに涙が流れる
ティオフェル「おやすみ麻衣…」
麻衣に口づけ
エステリアM「王子様が…」
千里M「麻衣ちゃんに…」
健司M「キッス…」
ティオフェル、麻衣を抱き上げる。麻衣、ゆっくり目を開ける
麻衣「ここは?何処?」
ティオフェル「麻衣っ?麻衣なのか?」
千里、健司、エステリア、驚く
ティオフェル「麻衣っ!」
麻衣「ティオフェル…?」
暴れる
麻衣「いやーん!何で私があんたに抱かれているのよ!このド変態、早く下ろしなさいよね!」
ティオフェル「麻衣!よかった!戻ってきてくれたんだね!」
麻衣「バカバカバカバカバカ!」
健司「なんだ?なんだ?一体どうなっているんだ?」
千里「麻衣ちゃん…良かった」
広間、数週間後。大舞踏会が行われている
ティオフェル「(少々酔っている)さぁさ、みなのもの!今日は宴だ!存分に飲め、存分に食べろ!そして存分に踊れ!」
立ってチャールダーシュを踊り出す
メディオス「ティオフェル、ご機嫌なのはいいが少々飲みすぎだぞ!そなたはまだ元服前なのだ」
ティオフェル「父上が飲み無さすぎるんですよ!ほらほら父上も!」
ぶどう酒を注ぐ
ティオフェル「私は元服前とはいえ、もう14なのです。来年の夏にはもうなのですから変わりないではありませんか!!」
得意気に
ティオフェル「私だって例え14でも腹と体は一人前の男なんです。」
得意気に飲み食いをしながら踊っている
クレオ「王子っ!はしたない真似はよしなさい!そなたはそれでも王族の息子か!」
健司「俺らはまだこんなの飲めねぇよな」
麻衣「何いってんのよ!あんたは酒蔵会社のぼんぼんでしょうに?」
健司「それ関係ねぇだろう!」
千里「いいじゃん。今は平成じゃないんだしさ。飲もうよ!」
健司「千里、お前アラセルバに来てからえらく調子づくようになったな」
千里「え?(赤くなる)」
健司「一時でも王子を任されて自信がついたんだろ?」
千里「…」
ティオフェル「千里も強くなった事だし、これからも王子の代理を頼むよ」
千里「もう勘弁してくださいよ、王子様!」
ティオフェル、笑う
メディオス「ティオフェル、もう千里を王子の代理にする必要はない」
ティオフェル「え、何故ですか?」
メディオス「お前はもう、王子ではなくなるからだ」
全員、一斉にドルフィンを見る
メディオス「お前はまだまだ泣き虫で甘ったれだが、王子として父が不在の間、アラセルバと民を守るために一人で適切な判断をし、動いていた事を父は知っている。これだけ大変な時期に一人でここまでこなせたのだ、もう国王になっても心配はない」
ティオフェル「父上、何をおっしゃりたいのですか?」
メディオス「父の言いたい事が分からぬか?故に父はお前に王位を譲ろうと言っておるのだ」
ティオフェル「父上…本気でおっしゃっているのですか?」
メディオス「左様…」
ティオフェル「お考え直しください父上!私は王位など…」
メディオス「お前は来年には元服を迎えるのだぞ、立派な大人の男となるのだぞ?それなのに、まだ父と母にすがって生きるというか?」
ティオフェル「父上…」
メディオス「お前はもう…立派な一人前になった。父もこれで安心じゃ」
ティオフェル、泣きそうになってメディオスを見る
ティオフェル「(口を覆う)うぅっ…」
麻衣「王子様、一体どうしたの!?」
ティオフェル「気持ちが悪い…飲みすぎたみたいだ」
麻衣「えぇっ!?」
ティオフェル、走って退室。麻衣も追いかける。
千里「王子様、大丈夫かなぁ?」
健司「さっきから飲んでたもんなぁ…そりゃあれだけ飲みゃ悪酔いもするさ」
クレオ「そうではありませんよ」
千里・健司「え?」
ドルフィン「ハハハ、大丈夫だ。クレオの言う通り心配要らない」
千里「でも…」
クレオ「昔から変わっていませんわ。あの強がりなところ…」
健司「え?」
エステリア「誠に…そうですわね」
千里・健司「?」
***
バルコニー。ティオフェル、ぼんわり。そこに麻衣。
麻衣「王子様」
ティオフェル「麻衣、お前も来たのか」
麻衣「やはりここに来ていたのね」
ティオフェル「(笑う)ティオフェルと呼んでくれと言った筈だよ」
麻衣「あら、それは封印の儀式の時だけではなかったの?」
ティオフェル「勿論さ」
麻衣「じゃあ…ティオフェル」
二人、笑い会う
麻衣「でも、本当は気分が悪いだなんて言って出てきたのは嘘なんでしょ?」
ティオフェル、動揺
麻衣「やっぱり…あなたは泣きたくなるといつもここに来ていたのを私、初めて会ったあの日から知っていたのよ」
ティオフェル「麻衣…」
麻衣「泣き虫な王子様ね、ほら瞳がまだ濡れているわ」
ティオフェル「やめろ麻衣」
赤くなる
ティオフェル「しかしそなたの言う通りだ、父上にあの様な事を言われたら急に訳もなく涙が…」
星空を見上げて涙を拭う
ティオフェル「しかし、ここへ来たお陰でこうしてそなたと二人きりになれて嬉しい」
麻衣「え?」
ティオフェル「今夜は…星が綺麗な夜だね」
麻衣「えぇ…そう言えば」
ティオフェル「何だ?」
麻衣「私、この間の戦の時に…瞑想の中で…」
ティオフェル「え?」
麻衣「あんたの声を聞いたの。あんたの姿を見たの。でもあんたは泣いてたわ」
ぼんわり
麻衣「だから私は、私のために悲しい涙を流してはダメよとあんたに言ったの…どうせ聞こえていなかったでしょうけどね」
ティオフェル「麻衣…」
麻衣「何よ、叉泣きそうになってる…私、あんたを泣かせるような話してるかしら?」
ティオフェル、強く麻衣を抱き締める
ティオフェル「そうだよ麻衣…私はあの日、どれ程そなたのために涙を流したか…どれ程そなたのために心を痛めたか…」
麻衣「初めて見たあんたの涙、とても美しかったわ…私、あの涙は一生忘れない…」
ティオフェル、麻衣に顔を寄り添って泣いてる。
麻衣「ちょっと、誰かに見られたらどうするの?もう王様におなりになるのでしょ?」
フッと笑う
麻衣「その時にね、あんたは私に“私が嫌いか?憎いか”と聞いたの。だから…今頃になっちゃったけど、その答えを言うわ」
ティオフェル「麻衣…」
麻衣「答えはNem…ノーよ。私はあんたを憎んではいないし嫌いでもないわ。ただ言える事は、あんたは私みたいな女の側にいてはいけない人だって事…」
ティオフェル「え?」
麻衣「あんたは私とは身分も違うし、私みたいな女の手が到底届かぬ人…いえ、本当なら私が近付いてはいけない高貴な方…なのに私たちは出会ってしまった」
寂しげ
麻衣「だから、あんたと会うのはこれで最後にする…明日になったら宮殿を出るわ」
ティオフェル「宮殿を出てどうすると言うのだ?」
麻衣「帰れる日が来るまで…何処か城下で住める場所でも見つけるわ」
ティオフェル「麻衣、何故その様に言う?今までもここにずっといた様に、ここに」
麻衣「もう無理よ…辛すぎるわ」
ティオフェル「え?」
麻衣「そういう事だから…無礼を承知で理由だけあんたに伝えておくわ。ティオフェル、私はあなたが好きみたい…心からお慕いしているの…だからよ」
ティオフェル「麻衣…」
泣く
ティオフェル「無礼者!おなごが男にその様な言葉を口にしてはならぬ!」
泣きながら赤面
ティオフェル「男の私が…そなたに先に言わねばならぬのに…」
麻衣「え?」
ティオフェル「つまり…その…あの…」
麻衣「男ならはっきりしなさいよ…意地らしいわ」
ティオフェル「私もそなたの事が好きだ…あの日、封印の寝台でそなたに告げた言葉は偽りなんかではない。今までに出会った女の中でそなたほど美しいものはいなかった。心の綺麗で優しい者はいなかった。麻衣、愛してる…」
麻衣「ティオフェル…」
ティオフェル、麻衣に口づけ
ティオフェル「そなたの言葉にも偽りはないか?」
麻衣「えぇ勿論…」
ティオフェル「そうか…」
星空に目を戻す
ティオフェル「しかし運命も残酷だ…そなたはいつの日か私の元を去り、国へ戻ってしまう…」
麻衣、寂しげに目を伏せる
ティオフェル「私を忘れる日も来る…」
麻衣「ティオフェル、そんな事は!」
ティオフェル、言葉を遮る
ティオフェル「私にはそれがいつ来るのか、その時はいつなのかは分からない。だから一日でも長く、一瞬でも多くお前たち三人と一緒に過ごしていたいんだ。今のこの愛しい時間を大切にしたい」
麻衣「何が言いたいの?」
ティオフェル「だから麻衣、
宮殿を出るなんて言うな!私の元を去るだなんて言わないでくれ!」
麻衣「ティオフェル…でも私は…」
ティオフェル「では、どうしてもそなたが出ていくと言い張るのならば、私にだって考えがある」
麻衣「考えって…何よ?」
***
三ヶ月後。王室。麻衣、絹のドレスに着替えさせられ、髪を結われている
麻衣「ねぇ、これは一体なんなの?叉、私に何かの儀式をしろと?」
メデア「そうでございますよ麻衣様、王子様のご命令です」
麻衣「まぁ…今度は何かしら?でも私、ティオフェルのためだったら今度も命を懸けてでも役目を果たすわ」
メデア「さぁ出来ました麻衣様…暫くこちらでお待ちくださいませ。後程
王子様がお呼びになられます」
麻衣「分かりましたわ」
***
戴冠式。
メディオス「ティオフェル、これからはお前が国王としてアラセルバに太平の世を築いていく番だ」
ティオフェル「はい父上」
メディオス「これからは苦労も増える。大変なことや苦しいこと辛いことも沢山ある。もし一人ではどうでも乗り越えられないときは父に頼りなさい。父はいつでもお前を側で見守っている」
ティオフェル「父上…」
泣きそう
メディオス「泣くなティオフェル、お前はもう国王だ」
ペドロ、葡萄の葉で編んだ王冠をティオフェルに被せて麻のマントを着せる
ペドロ「新王様、万歳!」
大歓声と拍手が起きる
全員「アラセルバの新王様、万歳!万歳!万歳!」
ティオフェル、涙ながらに微笑む
ティオフェル「ありがとう、みんな…本当にありがとう」
***
ティオフェル「麻衣っ!こっちへおいで」
***
メデア「麻衣様、王様の元に…」
麻衣「え…えぇ」
麻衣、ティオフェルの隣に来る
麻衣「ティオフェル、儀式って?」
ティオフェル「こっちへおいで、麻衣…」
麻衣「はい…」
メディオスとクレオの前に立つ
ティオフェル「父上、母上、紹介します。私の妃です」
麻衣「え?え?ちょっと王様…何を…」
ティオフェル「今申した通りだ。父上、母上、私達の婚礼をお認めくださいますか?」
メディオス、麻衣を見て微笑む
メディオス「そなたが命がけで王子とアラセルバを守ってくれたことは私たちもよく知っている。感謝している」
麻衣「いえ…わたくしは何もしておりません」
メディオス「謙遜するな。そなたは王妃にふさわしいおなごだ。これからも未熟な国王を支えてやってくれ」
クレオ「私からもよろしく頼む、そなたら二人の婚礼を認めよう」
ティオフェル「あぁ…」
ペドロ「では婚礼の儀式を行います。婚礼によって契りの口づけを…」
ティオフェル、麻衣に口づけ
***
千里「麻衣ちゃん!」
健司「王妃ってどう言う事だ?」
千里「まさかずっとここに残るつもりじゃないよね?」
健司「あのバカっ!勝手にしろ!あんなやつ知るか!帰りたくなきゃ一生ここに残ればいいだろ!!一生そいつと一緒にいりゃいいだろう!」
千里「健司君っ!」
健司「ふんっ!」
***
ティオフェル「ありがとう、生涯そなたのみを愛すると私は約束しよう…」
麻衣「王様…本気なの?本気で私を王妃に迎えるとお考えなの?」
ティオフェル「ただの戯れなら、こんな厳粛な式でそなたを祭壇に迎えたりはしない」
麻衣「王様…あなたの考えってまさか…」
ティオフェル「そうだ。これで、そなたはもう私のものだ。宮殿を出るなど、この王である私の許しがない限りあってはならぬ事だ!」
麻衣「意地悪…」
ティオフェル「ほら、アラセルバ王族の后としての証のリングだ、受け取って」
ティオフェル、麻衣の指に嵌める
麻衣「不思議だわ、こんな輝き見たことがない…素敵ね」
ティオフェル、麻衣を強く抱き締める
ティオフェル「麻衣!」
麻衣「やめて王様、苦しいわ
」
***
麻衣「暗くなってきたわね」
ティオフェル「そうだな…星も出てきた」
麻衣「見て王様、金星よ!明るい光ね」
ティオフェル「本当だ」
星が流れる
麻衣「流れ星だわ!(両手を伸ばす)」
ティオフェル「何をやっているのだ?」
麻衣「こうやって流れ星にお願いすると願いが叶うのよ」
ティオフェル「そなたは何と?」
麻衣「いつまでもアラセルバ王国が平和でありますように。そしてあなたとあなたのご一族に幸せが沢山あるようにと…そして」
頬染める
麻衣「あなたと一生、一緒に暮らしていきたって…そしていつかあなたそっくりの可愛い可愛い王子様を産むの」
ティオフェル「そなたと私の子か…きっと可愛いんだろうな」
ティオフェル、微笑んで両手をあげる
麻衣「まぁあなたもなの?」
ティオフェル「私も星に願いをかけよう」
麻衣「何てお願いするの?」
ティオフェル「そなたが一生、穏やかで幸せに暮らせるように、そしていつまでも私と共にいて欲しいと…もし離れてしまっても、そなたには一生私を忘れないで欲しい」
麻衣「王様…」
ティオフェル「ティオフェルって呼んでくれと言ったろ?」
麻衣「だってあなたはもう…」
ティオフェル「王様だからって言いたい?」
麻衣「そうよ」
ティオフェル「王妃にだけは許す、今まで通りティオフェルと呼んでくれ。そして“あんた”も許す。その方が心地が良い」
麻衣「まぁ!」
二人、笑い会う。
麻衣「うぅっ…」
ティオフェル「どうした麻衣?気分でも悪いか?」
麻衣「えぇ…食べ合わせでも悪かったかしら?ちょっと気持ちが悪くて…」
ティオフェル「中に入ろう、休んだ方がいい。医務官!医務官はいるか!?」
***
中宮殿。ベッドに横たわる麻衣、脈診をする医務官
ティオフェル「医務官、どうなのか?麻衣は病気なのか?」
ティオフェル「すまぬ麻衣、私がそなたの体の事も考えずに春先だと言うに、一日中外に出させてしまっていたから…」
麻衣「何言っているのよ、そんな事はないわ。私はそんなに柔じゃあありません」
ティオフェル「しかし」
麻衣「私はジプシーロマの女なのよ。警察官の娘なのよ…」
ティオフェル「医務官!」
医務官「王様…」
ティオフェル、息を呑む
医務官「戴冠式とご婚礼早々、実におめでとうございます。王妃様にご懐妊の兆しが見えます」
ティオフェル「な…なななな、何だって!?」
***
アナスターシャN「こうして月日が流れ、翌年の2月に王妃は王子様と王女様のお双子をご出産されました。勿論、父親である国王・ティオフェルは泣いて喜びました」
アナスターシャN「親に説得されようと、ティオフェルは頑として側室をとろうとはせず、一途に麻衣と双子の子だけを愛し続けました」
アナスターシャN「時は矢のように過ぎ去ります。しかし、麻衣と千里、健司に帰りの兆しは全く現れない…いい加減三人ともアラセルバでの生活に慣れ、7000年も後の世界から来ている事も忘れかけていました」
***
5年後。
アナスターシャN「そしてあれから5年後…麻衣と千里と健司は17歳、ティオフェルは20歳になりました。二人の子も、やんちゃ盛りの4歳になり、アラダートと名付けられた王子の方は学修堂に入る年となりました」
***
中宮殿。
麻衣「はぁ…何だか今夜は眠れないわね」
お茶を啜る
麻衣「王様はどうしているかしら?」
外を見る
麻衣「美しい満月ね…中庭にでも出てみましょう」
***
中庭。ティオフェル、ベンチに座っている
麻衣「あ…」
ティオフェル「麻衣」
麻衣「ティオフェル、あんたも眠れないの?」
ティオフェル「そう、何だか目が冴えてしまって…妙な胸騒ぎもするんだ。そなたもか?」
麻衣「全く…私もその通りよ」
ティオフェル「王子と王女は?」
麻衣「二人はぐっすりと眠っているわ」
ティオフェル「そうか」
麻衣「そう言えば、今日は金環日食があったわね」
ティオフェル「あぁ」
麻衣「夜は満月、そして美しい金星…そう言えば私達三人がこの国へ来た日の夜も、今日と全く同じような日だった気がするわ」
ティオフェル「そうなのか?」
微笑む
ティオフェル「なら…これから行ってみる?」
麻衣「何処へ?」
ティオフェル「尖りの森さ」
麻衣「これから?」
ティオフェル「もし、これがその日と全く同じだったとすれば、この後流星が降るはずだろ?」
麻衣「まぁ…そう言う事ね」
ティオフェル「だったら今度は、その流星を…あの日そなたが見ていた場所で、見ていたように私も見てみたい…そなたと二人っきりで」
麻衣「ティオフェルったら…」
ティオフェル「歩ける?」
麻衣「えぇ、いいわ」
悪戯に
麻衣「一晩限りの駆け落ちね…でも、宮殿が騒ぎにならない内に戻ってこなくっちゃね」
ティオフェル「あぁ、そうだね…行こ!」
麻衣「えぇ!」
二人、手を取り合って駆け出す
***
尖りの森。小さなベンチがある。民の家はない
麻衣「ここも、6年も経ったら随分変わったのね」
ティオフェル「もうそんなに経つのか…」
麻衣「夜風が気持ちいいわ」
二人、ベンチに座る
ティオフェル「そなたもこうやって流星を見たのか?」
麻衣「いいえ…私達の時代にはここにベンチはないの。だから…」
悪戯っぽく、草の上に横たわる
麻衣「こうやって草の上にデーンと仰向けになってたわ。使用人達には内緒よ」
ティオフェル「分かってる…」
ティオフェル、草の上に横たわる
麻衣「ちょっとやめなさいよ!あんた自分の身分考えてよ!」
ティオフェル「そなたこそ!」
麻衣「ところで…私って一体なんのためにアラセルバに来たのかしら?」
ティオフェル、むくれる
ティオフェル「そなた、分かってるくせにそりゃないだろ?」
麻衣「あなたとアラセルバを守るためにでしょ?」
ティオフェル「そして、私と一緒になるためさ」
麻衣「そうよね…ごめんなさい」
流星が降る
ティオフェル「あ、見てごらん。流星だ」
麻衣「叉だわ、やっぱり始まったのね。これも獅子座流星群なのかしら?」
ティオフェル「今日は昼間は金環日食、夜は満月…そして流星…全くそなたの言っていた夜と同じだな…それもこんな日だったのか?」
麻衣「えぇ、まさにこの通りよ…本当なら終わるまで見ていたいわ」
ティオフェル「私だって。いいさ、宮殿には少しくらい心配かけたって」
麻衣「ダメよ、そんな無責任な事!」
ティオフェル「夜くらいは自由に過ごしたいだろ?」
麻衣「まぁね」
あくび
麻衣「でも私…終わるまで持つかしら?眠っちゃうかも」
ティオフェル「ダメよん、今夜は…」
色っぽく
ティオフェル「ね、か、さ、な、い、わ、よ」
麻衣「嫌ね、まだロミルダをやるつもり?もう卒業したんじゃないの?」
ティオフェル「もう私も大人の男だからね、少女ロミルダは卒業した。今度は、大人のジプシー女・イェヌーファさ」
麻衣「んもぉ、だからもう女装は卒業なさいっていってるの!」
大量に流れ出す
麻衣「ほら、こんなに流れ出した!ほら、今夜は二人で沢山願い事しましょ!」
ティオフェル「あぁ…」
金星の輝きが強まる。
ティオフェル「あ…私のペンダントが光ってる」
麻衣「本当…」
ティオフェル、金星を見つめる
ティオフェル「その時が来たのかもしれない」
麻衣「え?」
ティオフェル「麻衣、よく聞くんだ」
強く両手を握る
ティオフェル「私はもう近くでそなたを支えたり守ってやる事は出来ない。明日の朝まで…もう一緒にいる事は出来ない。そしてこれからも…」
麻衣「どういう事?」
ティオフェル「しかし、時を越えても私は、そなたの事をずっと想い続けていると言う事を忘れないで欲しい。離れていたって心だけは…何千年経ったっていつでも側にいる」
麻衣「ティオフェル?それってまさか…お別れの言葉のつもり?」
麻衣「そんなに切ない目をしないでよ!嫌よ、私はもう何があったって帰らないわ。だって…私の側にはもうあなたと言う愛する方いるんですもの!今や、私のいた世界に未練など少しもないわ。だから、私の余生あなたとこの世界で生きていく!」
金星、強く輝いて大きくなる。ティオフェル、悲しそうに麻衣の手をしっかりと握る
ティオフェル「あの日、そなたが見た金星の輝きも今と同じだったのだろ?」
麻衣「ティオフェル、何故それを?」
ティオフェル「金星が大きくなってきた…悲しいけど、お別れだ」
麻衣「ティオフェル、嫌よ!別れるなんてイヤ!」
ティオフェル「麻衣、そなたの世界に戻るんだ!」
麻衣「嫌、嫌、嫌!私をずっと側においてよ!だってあんたは、私が宮殿を去らないように后に迎えてくれたのでしょ?」
ティオフェル「私だって離れたくなんてないよ。そなたと一緒にいたい。けれど…(涙を飲む)」
麻衣「こんなのってあんまりよ…皮肉すぎるわ。帰りたいときに帰れないで、どうして忘れた頃に…やっと幸せになれたらお別れなのよ?愛してしまってからじゃ遅すぎるわ!」
ティオフェル「麻衣!」
ティオフェル、泣いて麻衣を抱き止めながら麻衣に首飾りをかける
ティオフェル「この、私の首飾りをそなたにあげよう」
麻衣「でもこれは…」
ティオフェル「そうだ、これはアラセルバの王族に伝わるとても高貴なもので王位後継の男しかつけることを許されない勲章だ。しかし麻衣、そなたに特別あげよう。そなたは行ってしまう…もう会いたくても会えぬ場所へ…だから私とこの国を忘れぬ様に…そしてそなたといつしか再会出来るようにと」
麻衣「ティオフェル…」
麻衣を強く抱き締める。流星の光、麻衣を包む
ティオフェル「麻衣、さぁ!お別れだ!さようなら、早く行って!」
麻衣「嫌よ!」
ティオフェル、顔を背けて涙を隠す
麻衣「ティオフェル!!」
ティオフェル「最後だけは…そなたに私の涙を見せたくはない。だから、私に涙を流させないで…私が涙を流す前に、早く消えておくれ!」
麻衣「分かったわ…私も、あんたの前で涙は見せたくない…だから…とっても寂しいけど…もうお別れ。さようなら…」
光、麻衣を包む
麻衣「ティオフェル、私のいた中宮殿に、以前あなたに貼ってあげたカイロとショールがおいてあるわ。だから叉、寒くなったら使って。あなた冷え性さんだから、また寒い思いしてお体壊さないようにね。そして…」
麻の袋を手渡す
麻衣「これもあなたにあげるわ。流星見ながらあんたと食べようと思って夜食がわりに持ってきたのよ。だからこれ、お腹が空いたら食べてね」
ティオフェル「これは?」
麻衣「あんたが時々、お食事も取れないほど忙しくしているの、私、知ってるわ。王様になったこれからはもっとでしょう?これなら簡単に食べられるし、きっとお気に召すわ。約束して、どんなに忙しくてもお食事はきちんと摂らなくてはダメよ」
ティオフェル「あぁ…」
麻衣「それと…」
ティオフェル「まだ何かあるのか?」
ポケットから巨大マシュマロを取り出してティオフェルの口に押し込む
麻衣「王様!ティオフェル!」
麻衣、星に包まれて少しずつ消えて行く
ティオフェル「麻衣ーっ!」
ティオフェルと麻衣、泣いている。
ティオフェル、麻衣を抱いたままの体制で立ち尽くしている
尖り石縄文公園。麻衣、千里、健司、目を覚ます。
千里「あれ?僕たちいつのまにか眠っちゃっていたんだね」
健司「へー流星も終わっちゃってるな」
腕時計を見る
健司「やべっ!もう5時じゃん!」
千里「こんなところで一晩中眠っちゃってたって…今、何月だと思ってるんだ!くしゅんっ!風邪引いちゃうよ…」
立ってもじもじ
千里「あー…僕なんか冷えちゃったみたい!おトイレ行きたいぃ!」
健司「だったらその辺でしろよ」
千里「そうする」
健司「おー…そういやなんか俺も!」
麻衣「嫌ね、みんなして。帰ってからしなさいよね!」
健司「麻衣、お前もどうだ?外でやると気持ちいいぜ!」
麻衣「するわけないでしょバカ!エッチ!」
リュックを振り回して健司のお尻を叩く
健司「いってぇーな、やめろよ!ん?」
麻衣「何?」
健司「お前、泣いてる?」
麻衣「どいで?泣いてないわよ?」
健司「そうか?」
麻衣「そうよ」
***
三人、帰り道を歩く
健司「そういやお前の母ちゃんって今日はいないんだよな」
千里「うん、パパと頼子はいるけど…」
千里、もじもじ
麻衣「分かってるって。今日はせんちゃんちに泊まるって言う約束ずらに、忘れとらんに」
健司「親にもそういってあるしさ、まだ早朝だぜ?今から帰れねぇよ」
千里「うんっ!ありがとう!」
ティオフェル、草むらの中で微笑んでいる。強い風が吹く。
麻衣「誰っ!?」
麻衣、振り返る。強い風で芝生が揺れているのみ。誰もいない。
健司「ん、どうしたんだ麻衣?」
麻衣「え、ううん何でもない。ただ、誰かに見られていたみたいに感じたから…」
千里「ちょっと怖くなるからやめて!」
健司「お前は本当に怖がりだな」
千里「だってぇ」
千里の家。麻衣、健司、千里、川の時になって眠っている。麻衣、眠れなくて寝返りばかり。千里、泣いている。
健司「おい千里、どうしたんだ?大丈夫か?」
麻衣「せんちゃん?」
千里「僕のルルちゃんがいないんだ。どっかに置いてきちゃったんだよ…」
健司「はぁ?逃がしたのか?」
千里「籠さらなくかっているんだよ!」
健司・麻衣「はぁ!?」
アラセルバ宮殿、バルコニー。ティオフェルとエステリア。ティオフェル竪琴を弾いている。
エステリア「王様」
ティオフェル「エステリア」
エステリア「王様、また麻衣様の事をお考えだったのですか?」
ティオフェル「あぁ…」
エステリア「麻衣様はじめ、あの方々はとてもいいお方でした。またお会いになれないかしら?」
ティオフェル「そうだな。出来る事ならば私とて会いたい…王子と王女のためにも」
エステリア「えぇ」
ティオフェル「しかしエステリア、そなたのように身分の高いおなごがわざわざ乳母にまわらなくてもよかったに」
エステリア「いえ王様、私が望んで申し出たことですから、これからは乳母として余生を生きて行きますわ」
悪戯っぽく
エステリア「王様はご側室をお取りになられない様でございますので」
ティオフェル「エステリア!」
ティオフェル、懐かしそうに遠くを見つめる
ティオフェル「しかしピぺが人の姿となり遠い国へいってしまって早6年か…そして愛する麻衣までも…寂しくなったものだ」
エステリア「何をおっしゃいます王様、あなた様は一国を担うアラセルバの王様ではありませんか、その様にお弱くなってはいけませんわ」
ティオフェル「エステリア」
エステリア「それに王様、もう寂しがることなどございません」
おかめインコの入った鳥かごを見せる
エステリア「これです」
ティオフェル「これは?」
エステリア「王様がお飼いください。宮殿の中に置かれていましたの。きっと王様のための贈り物なのだわ」
ティオフェル「あぁ…」
千里が持っていたことを思い出す
ティオフェル「確かルルと呼んでいたな」
エステリア「は?」
ティオフェル「いや、何でもない」
微笑む
ティオフェルM「安心しろ千里、この鳥…これからは私が大切に育てていくよ」
エステリア「王様?」
ティオフェル「エステリア、私はこの子をルルと呼ぶことにする」
エステリア「ルルですか?」
ティオフェル「あぁそうだ」
エステリア「ルル…可愛らしいお名前。王様らしいですわ」
ティオフェル「そうか?」
二人、笑い合う
ティオフェルM「麻衣…王妃…」
***
麻衣、布団の中で目を開いている。
麻衣M「なんなの?この気持ち…誰かが私に語りかけているみたい」
尖り石縄文公園。賑わっている。翌朝。
健司「うわぁ、やっぱり尖り石祭りってすげぇな」
千里「縄文時代当時もこんな感じの事やってたのかな?」
健司「バカ野郎!縄文時代にこんな大層なことやってるわけないだろうに!」
千里「それもそうか。ねぇ、考古館に入ってみようよ!」
健司「そういや無料解放だしな。いいじゃん、入ってみようよ!」
縄文考古館。麻衣、千里、健司、展示物を見ている。三人、縄文のビーナスに釘つけになる。
健司「おい、ちょっと見ろよ。なんかこれ見た事あるよな?」
千里「うん、何か凄く身近に感じられるって言うか?」
健司「大体こんな顔した女にどっかで会った事ある気がするぜ?」
麻衣、無言で見つめる
健司「ん、何々?」
麻衣別のガラスケースを見る
麻衣「これ…」
麻衣N「これは紀元前約5000年、アラセルバ王国時代の宝石と思われる。アラセルバ王国第13代国王・ティオフェルのミイラと共に発見。ティオフェルが生前大切にしていたものと思われる」
麻衣、不思議そうに自分の首飾りと指輪を照らし合わせる。
麻衣「同じだわ…」
千里「本当だ…」
健司「それ、ひょっとしてここで買ったのか?」
麻衣「分からないの…でも貰い物のような気がするのよね…」
麻衣N「ん…それと共に埋葬物の中から麻の袋が出土された。中には当時としてはあり得ない食物が入っていたとされ、内容物に関しては現在更に調査中である。謎のオーパーツとし、世界中が注目している…ですって」
麻衣「ティオフェル?」
麻衣、苦しそうに首をかしげる
千里「え…?」
なんとも言えぬ表情でガラスケースに顔を押し当てる。鳥かごと化石が入っている
健司「これって鳥籠と…鳥の化石か?」
千里N「これは、紀元前約5000年のアラセルバ王国の時代のものと思われる。同じくアラセルバ王国第13代国王・ティオフェルのミイラと共に発見。ティオフェルは生前、大層の鳥好きであったと書かれており、この鳥はティオフェルが即位前期の青年時代に飼ったインコの化石と鳥かごである。インコの種類はオカメインコと推定されている。この時代に何故このように細密に作られた鳥かごがあるのかは今段階ではまだ謎である。叉、かごにはルルと言う文字が彫られている。恐らくティオフェルがインコにつけた名前ではないかと推測される」
千里「ルル…」
涙ぐむ
千里「僕のルルだ」
健司「まさか!偶然じゃね?」
千里「違うよ!この子は絶対に僕のルルだもん!何でルルはここにいるの?何で死んじゃってるの?」
苦しそうに葛藤しながら泣き出す。
健司N「なになに?又…」
三人、一所に夢中になる
健司N「国王ティオフェルの遺品から、彼は生前かなりの冷え性で大層の寒がりだったと分かっている。ミイラは大量の冬物衣料を着た状態で見つかっているが、衣類の至るところにカイロの成分と思われるものが検出され、実際そのようなものが貼られてもいる。これもまさに謎とされている」
健司「だとさ。何じゃこりゃ?いくら古代ミステリーとは言ってもさ、こりゃミステリー通り越してオカルトの域だろ!」
笑う
麻衣「ん、まだなんかあるに…羽ペンと羊皮紙?」
古い羊皮紙と羽ペン
麻衣「何て書いてあるの?」
千里「誰が書いたんだろう?」
健司「訳文があるぞ」
千里「読んでみてよ」
健司N「お前たちの事は一生涯忘れない、ありがとう。私達は身分は違えどいつまでも友達。叉いつか、何処かで会えるその日まで。再会を信じて。ティオフェル」
***
フラッシュ
ティオフェル、羊皮紙に達筆に手紙を刻んでいる
三人「ティオフェル…?」
顔を見合わす
健司N「追伸、王妃へ。私はそなたを忘れない。時代が流れ、どれだけ変わっても私の心は変わらない。一生…いや、この命尽きてもそなただけを愛し続けよう。愛してるM…」
健司「最後だけが読めねぇな…」
千里「きっとその王妃様の名前が書いてあったのかもね」
健司「多分な…」
千里N「この文は、晩年のティオフェルが書いたものと思われる。初めの物は恐らく遠いところにいる友に宛てて書いたものと思われるが、誰かは不明である。しかし文面から、身分の低いものと推測される。追伸に関しては、王妃に宛てたものと思われる。ティオフェルは心より妻を愛した王であり、国民からも愛された聖君だったと思われる」
最後の展示物。男女のミイラが棺に収まった状態で展示されている。
麻衣「ティオフェル…」
***
フラッシュ
麻衣とティオフェルとの思い出。
***
記憶が繋がる
麻衣「いやぁーっ!」
麻衣、手で顔を覆って声をあげて泣き出す。
千里「ま、麻衣ちゃん?どうしたの?大丈夫?」
健司「いきなり何だよ!びっくりするじゃねぇーか!」
麻衣「いいの、いいのよ…みんなは気にしないで」
千里「気にしないでと言われても…」
健司「気にしないわけにはいかねぇよな…」
麻衣、泣いてその場にしゃがみこむ。
尖り石縄文公園。麻衣一人、縦穴式住居の前。金星を眺めている。
ティオフェル、同じ場所で金星を眺めている。
別々の時代の麻衣とティオフェルは肩寄せて並んでいる。麻衣、首飾りを触る。ティオフェル、右手を握る。麻衣の手が握られる。
***
無言のまま夜から朝へ。 陽が昇る。ティオフェルの姿、消えて行く。
縄文考古館・受け付け前。麻衣、健司、千里。麻衣、悲しそう。ペンダントと指輪を持っている。
健司「おい、本当にいいのか?」
千里「ここに渡したらもう取り戻せないんだよ?大切なものなんだろ?」
麻衣「いいの、私は決めたわ。昨日考古館に入ってみて分かったの。これは私が持っているべきものじゃないってね」
作り笑い
麻衣「大体、宝石なんて私みたいなガキにはまだ10年早いわ。それよりもこれからの歴史学に貢献した方がずっといいじゃない?」
健司「そうか、お前がそう決めたならそうしろよ。俺たちにはよくわかんねぇけどさ」
千里「僕ら、ここで待ってる」
麻衣「えぇ」
麻衣、入っていく
***
暫く後。麻衣、涙を拭って出てくる
千里「麻衣ちゃん…」
健司「泣いているのか?」
麻衣「ううん…大丈夫」
寂しげ
麻衣M「これで何もかも本当に終わったんだわ。だから、あなたを忘れてしまう前に…」
駆け出す
健司「お、おい麻衣!何処行くんだよ!」
千里「麻衣ちゃん!」
***
尖り石の前。
健司「何だこの石は?」
麻衣「尖り石よ」
千里「尖り石?」
麻衣「そう、ここはその昔尖りの森って言われていたの」
深呼吸
麻衣「そしてこの辺に洞窟があったわ。その中に…あ!」
壊れかけた封印の寝台
麻衣「封印の寝台だわ、残っていたのね」
千里・健司「え?」
麻衣、涙ぐんで寝台に頬を寄せる
麻衣M「あの日のあなたの温もりは私、まだはっきりと覚えているわ」
一冊の本を寝台に置く。
麻衣「ここにこうやって本を置いて…」
声色を変える
麻衣「これを先に燃やすんだ…なんちゃって」
ポケットから
麻衣「そしてこれ…考古館で買ってきちゃった、縄文のビーナスことアナスターシャ!これはこの辺にあったかしら?」
麻衣、寝台に横になる
健司「あいつ、さっきから何一人でぶつぶついってんだ?」
千里「さぁ…でもなんか凄く落ち込んでたみたいだからさ、今はそっとしておいてあげようよ」
健司「そうだな」
麻衣M「ティオフェル、今アラセルバにいるあんたはどこにいるの?私は尖りの森にいるわ」
別時空のティオフェル、同じ場所にいる。
麻衣M「聞いて、私、あんたにダメダメのバカ王子っていったけどそんなんじゃないわ、あれは取り消して。私、あなたの心をとっても傷付けていた…ごめんなさい。でも今だから素直に本心が言えるの。本当はね…私ずっとこう思ってたのよ。あんたはとても素晴らしい王子様であり、王様であり、男であり、人間だった…あんたと過ごしている時間に面と向かって言えなかった事、今になって私、とっても後悔しているの」
泣き笑い
麻衣「ひょっとして今、笑ってくれている?そんな顔して笑わないでよ…でも安心して。私達の時代に、立派な聖君としてあなたの名は歴史に刻まれていたわ。考古館にもあんたの事が展示されているのよ、嘘だと思うんなら一度見に来なさいよ…」
麻衣「あんたが恋しい…今、とってもあんたに会いたいの。あんたの声が聞きたいの。ティオフェル…愛してるわ」
立ち上がる
麻衣「決めた!」
健司、千里、びくり
麻衣「私、大人になったら考古史作家になるわ!」
健司「は?何言い出すんだよ?」
麻衣「そして本を書くの。古代と言う時代の本当の姿、人の生き方を正しい形で世に残していきたいから」
健司「なんだよそれ?」
千里「素敵じゃない?僕もやりたいな」
麻衣「なら一緒にやらまい!」
千里「うんっ!でも僕、作家って柄じゃないから…アシスタントかな?」
健司「んじゃ俺も俺も!俺はそうだな…作家の手助けをする考古学者かな」
***
麻衣「さぁ帰りましょう!何だか私、お腹が空いちゃった。戻っておやつでもしまい」
健司「賛成ーっ!」
千里「僕も。何食べる?」
麻衣「私、草加煎餅がいいな!」
健司「お、それいいねぇ。堅くておしょうゆの利いたしょっぱいやつ」
千里「んーっ、おいしさそう!」
麻衣「帰りに買ってって食べまい。あ!」
閃き
麻衣「そういえば私、ドングリ粉とドングリの実、古代米を買ってあるのよ。だから団栗餅とドングリのブリヌイ作ってあげるわ」
健司・千里・ティオフェル「やったぁ!」
千里の笑顔と声がティオフェルの面影と重なる。麻衣、ハッとして懐かしそうに微笑む。
麻衣「えぇっ!」
三人、無邪気に走っていく。
麻衣M「ティオフェル、ありがとう…さようなら」
***
三人が去った後。
封印の寝台の草むら。強い風が吹く。
***
縄文考古館。男性のシルエットのみが来館。
麻衣の寄贈した首飾りと指輪をアップ。見つめる様子。
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