140文字SS 11-20

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140文字SS 11-20

-11-  * * *  この世界では、お風呂に『泡玉』を入れて入浴する。  泡玉はまだ青い木の実で、見た目は梅のようだが大きさは拳ほどある。  実を傷つけて汁を出し、お湯に溶かすと泡ができる。  この溶液が体の汚れを落としてくれるのだ。  使用後は海に流すが、塩と反応してゼリー状になり、魚の餌となるそうな。 -12-  * * *  今年入学した一年生の中に、前世の主を見つけた。  彼女には記憶がないようだが、自分には見える。(いとけな)いうちに(はかな)くなられた姫君が、いつも(まと)っていた魂の色。  すぐさまお声をおかけし再び女官として身の回りのお世話をしたいが、いい口実が見つからない。もどかしい。  ああ、なぜ今生(こんじょう)の自分は、男の体に生まれたのか! -13-  * * * 「あら、お客様ですか? 今お茶をご用意しますね」  その少女は丁寧な口調で愛想よく首をかしげると、素早く奥へ消えた。 「ひとまず座れ」  俺をこの家へ招き入れた、前世の同僚は目でソファを示す。 「……で、主は今どうしている?」  尋ねると、尊大な同僚は少し口ごもった。 「今、茶を淹れてる」 -14-  * * *  親の事業が失敗した。  住む家のレベルは格段に落ちたし、旅行も外食もなくなった。買えるのは安物ばかり。両親は借金の金策に忙しく、いつも誰かに謝っている。 私立への受験予定も消えた。  ただ私は、ようやく家の見栄や期待を背負わずに、自分で自分の人生を生きられる予感がしている。 -15-  * * *  妖精女王の冒険小説が巷で人気だ。 「女王、お立場をお考え下さい!」  毎度毎度、侍女の制止を振り切って飛び出してゆく主人公。  作者は本物の侍女だそう。うちの店にお連れ様を伴って、たまに来られる。 「実際の女王は、思うように外出できませんので」  そう微笑む彼女の向かいに座ってお茶を飲んでいる、やんごとない気配の淑女が気になる。 -16-  * * *  私は幸運だった。  ごく普通の家庭に生まれ、人並みに優しい両親に育てられ。少ないながら友人も作り、温和な妻と結婚し。今はなんとか生活していける職に就いて、穏やかな生活を送っている。  すべては環境のお陰だとしみじみ思う。  私は今まで本当に、一度も人を喰らう必要がなかったのだ。 -17-  * * *  念願のソファベッドを格安中古で購入。このベッド、何がいいって、横になると何故か白い手が生えてくる。  最初は首とか触ってきたけど「そこじゃない!」「そうじゃない!」「もっと右!」「そう、できるじゃない!」など指導した結果、素敵なマッサージ機能に成長した。  次は整体かな。 -18-  * * *  人の世に絶望した魂には、風となり光となり、この世界を管理する側に一度回ってもらう。  魚と共に海を泳ぎ、雲と共に空を渡る。  魂の保養期間とでも言おうか。  人の世を眺めて、またあそこに行ってみたいなと思えたら、輪廻へ入る。  記憶は消えるが、たまに名残を残す者もおるね。  お前のように。 -19-  * * *  先日知り合った宇宙人どもが、また遊びに来やがった。しかも擬態が格段にグレードアップし、男女ともに美形揃い。  おい接待する一般人の身にもなりやがれ。 「だって好感度が高い方が、多少の粗相も見逃してもらえそうだし」  お前ら、群れてるだけでその場の輝度が高ぇんだよ!  滞在期間ギリギリまで軟禁すっぞ! -20-  * * * 「金のなる木」とやらを買ってみた。  ちゃりちゃり、じゃりじゃり。ばさばさばさ。  この木に近づくと、財布がうるさく鳴り響く。  その昔、山賊などはこの木の側で旅人を待ち伏せ、金持ちだけを襲ったという。  今では富裕層のみ集まるクラブで、誰の財布が最もよく鳴るかを競うのに、植えられているとかいないとか。     * * *
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