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140文字SS 41-50
-41- * * *
髪が白銀に染まり始めてからが、魔女の最盛期。
銀の髪には魔力が宿る。
ぷつりと抜いたその長さに応じて、使う魔法の質も変わる。
豊かな髪を持つ総白髪の老婆こそ、もっとも恐れるべき相手。
髪が黒い魔女なんて、まだまだひよっこだよ。大人しく勉強でもしてな。
-42- * * *
深夜、玄関の長靴から赤い服の小人が飛び出すのを目撃した。
俺と目が合ったそいつは慌てて戻ろうとしたが、飼い猫がすかさず捕まえた。
「勘弁してくれ、忙しいんだ!」
聞けば、今宵一晩だけ各地の長靴は彼らの転移ポイントになるらしい。
「爺さま一人の手には余るからさー」
子供達に、贈り物を。
-43- * * *
うん? 今日は街の気配がおかしい?
ああ、今日は『ねこ脱走日』だ。
領主様の猫にはな、脱走癖があって。
どうにも治らないから、年に数回、わざと逃がすんだ。
で、捕まえた奴には報奨金が出る。まあ祭りだな。
誰が捕まえて屋敷に戻すか、競ってるんだ。
え? お前の国では、あれを獣人って呼ぶのかい?
-44- * * *
月の明るい晩。「きっと今夜なら」と手を引かれ森の奥の泉へ向かう。
水面には、金色の月の影が尾のように長くたなびいて手前まで伸びている。「さあ、行くよ」
水の上に足を踏み出すと、金の影は橋に変わる。
この橋が架かっている時だけが『向こう』に渡るチャンス。
少年の故郷。そして私の新世界。
-45- * * *
「あなたが白雪姫…」
隣国の王子が呟く。
「そう。髪は雪のように白く、目は薔薇のように紅く、肌は夜のように黒い。
わたくしに何かご用?」
父は王、母は異国人の宮廷魔道士だった。正妃は私を疎んじた。
「どうか我が国へ」
王子は跪く。
「その力をお貸し下さい」
正妃は戦争を始めるつもりだと。
-46- * * *
服を着たねずみがちょろりと出てきた。
え? 人形? ……いや、動いてるよね。
ねずみは懐から時計を取り出す。
『ああ忙しい。遅刻だ遅刻だ』
まるでお茶会うさぎのよう。
『なああんた、トーストを一枚くれないか。咥えて急ぐと、運命に出会えるらしいんだ』
待って、キミ何か勘違いしてるみたい。
-47- * * *
物語は『自分は安全なまま、感情をゆさぶられたい』という気持ちに応えるものだ。
映画の中のスリル、舞台の高揚感、小説の中の悲劇、漫画の中の冒険や日常。喜びも悲しみも興奮も安らぎも。
――ねえ神様。
この世から悪人や争いや悲劇がなくならないのは、あなたの娯楽のためですか?
-48- * * *
昔から言う「とっていいのは写真だけ、残していいのは足跡だけ」は、タイムトラベルにも通じる。
遥かな過去に、病原菌や種子はもちろん、今の文化や技術も残してはならない。
だからシフォンのスカーフを現地民に奪われ、隠された妹は帰れなくなった。持ち帰らねば重罪となる。
だから今度は私が行く。必ず『羽衣』を見つけ出す。
-49- * * *
賞味期限の切れたお月見団子を冷蔵庫から発掘した。
あの人と一緒に食べようと思ってたけど、結局帰ってこなくて食べそこねてたんだっけ。
あーあ。
反魂の術って難しいね。せっかくあなたに似た死体まで用意したのに。体の持ち主の方が寄って来ちゃった。
さっき、もう一度始末したところ。
さ、お茶にしよう。
-50- * * *
へえ、『エルフの友』を連れてるなんて珍しいね。
え? 知らないのかい?
そいつは長寿だから、育てられるのはエルフくらいって意味だよ。
育つのに莫大な経験値が必要で、人間なら3代はかかるって話だ。
知らずに契約して途中で捨てる奴も多い。
あれれ、おいてっちゃった。――最後は龍になるのになあ。
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