140文字SS 51-60

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140文字SS 51-60

-51-  * * *  浦島太郎ですか。  あいつ、陸では気の優しい男でしたが、実は酒乱で。  乙姫様の(きぬ)を剥ごうとするわ、止めに入った家臣たち相手に暴れるわ。  翌朝になるとケロッとして「まあ、男とはそういうものだから」と悪びれもしないヤツでして。  あんなにブチ切れた姫君を見たのは、前にも後にもあの時限りですねえ。  今頃どうしているのやら。 -52-  * * *  ご近所の奥さんが亡くなった。まだお子さんも小さいのに。 「どうしてあの人が……」  思わず漏らすと「本当にねえ」知らせてくれた奥さんが、相槌をうつ。 「残念だけれど、私たちでご冥福をお祈りしましょう」  何を他人事のように。  私が死んでほしかったのは、貴女なのに。 -53-  * * *  鳥の形をした光がまっすぐに自分に向かってきた。 (ぶつかる!)  思わずよけたつもりだったが、くるりと方向を変えて私の胸に飛び込んだ。 (えっ?)  すぅっと体の中に光が消え、遠くから男の人達がやってきた。 「この娘が『鳥籠』です」  鳥籠は、聖なる鳥が自ら選ぶ。身寄りのない私が…王宮で暮らすって? -54-  * * *  ラプンツェルが逃げ出した。外から手引きした者がいたらしい。  なんということを。なんということを。  あの子は魅了の術を使う。あの子の母と同じように。  だから(さら)って閉じ込めた。  誰も訪れない深い森の奥、誰も訪れない高い塔の上に。  どの国ももう、あの子を巡って争わぬように。 -55-  * * * 「見ろ。平安時代の『宝物集(ほうぶつしゅう)』に記述がある。  打出(うちで)小槌(こづち)は宝物だけでなく、牛や馬、食物や衣服などなんでも出てくるが、すべて鐘の音を聞くと消えてしまう、と」 「なるほど」 「つまりシンデレラの起源は――我が国にあったのだ!」 「 や め ろ 」 -56-  * * * 「……一説にはこの領主、打出の小槌を持っていたと言われる。  ゆえに果敢(かかん)な兵と健康な馬、豊富な兵糧(ひょうろう)、無限の弓矢を有し、事あれば即座に戦を始めることができた」 「それは強いな」 「ただしそれらが戦っていられるのは、鐘の音が鳴るまでの間だ」 「ウルトラマンか」 -57-  * * * 『このダンジョンに入り、伝説の指輪を探し出した人こそ、王子の相手にふさわしい』  そんな条件の下、様々な令嬢が挑戦した。  宝箱を必死に開けて回る者、大金を積んで偽の指輪を持ってくる者、騎士に身を守らせ従者に探させる者――  王子は報告を聞き、溜息をつく。  彼は、見つけてくるだろうか? -58-  * * *  彼女はいつも豊かな髪に花を飾っていて、それがよく似合っていた。  一輪だけ差している時も、カチューシャのように連ねている時も。  結婚して判明したが、この花は彼女から生えていた。 「君を養分にして咲くの?」 「ええ、私の心を」  浮気なぞされたら、人食い花が咲くかも。と、彼女は微笑む。 -59-  * * *  表は古道具屋、裏では妖怪斡旋業を営む祖父の店。  そろそろ廃業か、との呟きに思わず「まさか!」と声をあげる。  この地域は治安が悪い。ご近所は目目連が見守り、性風俗の違法行為は屏風のぞきが見廻り、ホストクラブの盛り上げは酒呑童子、キャバクラなら笑い女と役立っている。 「いやコロナがな……」  人がいないと妖怪の出番もないかー! -60-  * * *  ご先祖に極悪人がいたらしい。  猫を殺しては埋めていた土地にこの度工事でお祓いが入り、地縛を解かれた魂が、子孫の私のところへ来た。 「先祖に代わって償いをせよ。哀れな猫たちを救うのだ」  でも私、高校生だしお小遣いもあんまりないし。 「誰が生きた猫だと言ったか」  この魂たち――猫魂(ねこだま)たちを愛せ。満ち足りるまで。    * * *
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