13人が本棚に入れています
本棚に追加
140文字SS 61-70
-61- * * *
純粋に誰かの幸せを願うこと。
無償の祈りは高く高く天に昇って星になる。
天の川はそんな願いの星々を、夜空に撒いてゆくものさ。
我が身のために誰かの不幸を願うこと。
その祈りは輝くことなく暗がりに紛れ、夜の闇に呑まれてゆく。
ほれ、地上にまで溢れておるだろう。
あの天にさえ、収まりきらずに。
-62- * * *
どいつもこいつも、俺を踏みつけにしやがる。
俺を越えて、自分の望みを叶えにいく。
自由に。羽ばたくように。それが悔しい。
……けれど、時々、俺に優しく触れるヤツもいる。
そして何かを諦めて立ち去る。
淋しいような、それでいいような、不思議な気持ちだ。
俺か? 屋上のフェンスだよ。
-63- * * *
もしあの山の中の館で茶を出されたら、飲んではいけないよ。
どうしてもという時は「薬を飲まねばなりません」と言って、この葉を干したものを入れて飲むのだよ。よいね。
そう言って祖母が持たせてくれた葉は、猫よらず。
館の主人は化け猫の姿に戻って、逃げてゆきました。
-64- * * *
「なぜあの貧民出身の男を側仕えに?」
「彼は館の私室に落としておいた小銭に一度も手をつけなかったからさ。何度も試したが、ただの一度も盗まなかった!」
……それは子供が病気で給料の前借りを申し出たがあんたに断られ、魔が差した女の末路を知ってたからさ。
甥っこの仇、取らせて貰うぞ。
-65- * * *
咲いた、咲いた、チューリップの花が。
並んだ、並んだ、赤、白、黄色。
「いずれがお好みで?」
「花は私のために、己の姿を選んで生まれたのではないよ」
ただ生まれついたまま。そうとしか在れないのだ。
だから精一杯咲いたどの花も、全て美しい。
「では全員後宮へ」
どの花も均しく愛でる、帝の花園。
-66- * * *
請求書が届いた。
父は道楽者、母は慈善家。
うちには様々な封書が届くがこれは。
「ご両親のなさったことにございます。お二人がご不在ならば、貴方様が代わりに判を」
あやかしの相談にまでのっていたのか。
我が家の向こう100年の災いを戴きます、と。
さては相当年を経た偏屈妖怪に気に入られたな。
-67- * * *
本屋の棚から一冊の本を抜き取った。
「おめでとうございます!」
途端に響く店内放送。
「それは選ばれし者にしか抜けない本! あなたは≪伝説の賢者≫となる方です!」
沸き立つ周囲。進められる旅支度。おお勇者よ、今まで他人事だと思っていて悪かった。
お前こんな理不尽な目に遭っていたのか。
-68- * * *
「一方的に相手の自由を奪うのは権利の侵害である」
「そもそもはこちら側の人間が、相手を害したのが発端」
「まずは穏便に話し合い、過去の過ちを清算すべきでは」
近年、そのような声が大きくなり、とうとう国が腰をあげた。
卵を盗まれた竜が怒って王国を襲撃したため魔法で封印されているのだけど、その封印を段階的に解きつつ説得し、話し合いで解決しろと。
いやオレ確かに古代語は研究してるけど、誰だこんなこと言い出したの。
-69- * * *
うちの竹林はどうもおかしい。
夕方、たまに光ってることがある。
そう見えるのは俺だけらしいが。
そこを切ると、失くした鍵やら小銭やらが出てくる。
どうもご先祖には、土地神様と仲が良かった人がいたらしい。
「あんた、その人の生まれ変わりなんじゃないの?」
母が笑う。
いや、それは兄だったよと言いそうになり、言葉を呑みこむ。
-70- * * *
蛇口がこわれた。どどどどどど。水があふれて止まらない。
どどどどどど。玄関を閉める。窓も閉める。よそに迷惑をかけないように。
逃げ場がないが仕方ない。水がどんどん室内に溜まる。どどどどど。
もう私の首まできた。止めようとしても止まらない。
こわれた蛇口。私の涙。もうじき息もできなくなる。
* * *
最初のコメントを投稿しよう!