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140文字SS 1-10
-1- * * *
魚を模した提灯に火を灯すと、やがてふわりと宙に浮く。
宵闇の中、ひらひらと白いヒレを泳がせて、明かりにつられてやってきた虫をぱくりぱくりと飲み込んでゆく。
虫の背には目鼻のような模様。
「あの世にも行けない魂は、人に害をなすからね」
次々放たれる魚提灯が、夜の闇を埋めてゆく。
-2- * * *
森の奥、夜を待って咲くその花は、仄かに光を放っているように見えた。
妖精たちが集まっている印だ。
「隣人よ、我が欲望を聞いておくれ」
彼らは人間の欲望話が好きだ。自分たちと異なる価値観を面白がる。
夫と姑に奪われた我が子をこの人形と取り換えて、真剣に育てさせる話に乗るかどうか。
-3- * * *
「夏至には衣を干すんですよ。日が長いからしっかり乾かして、この一年、虫にやられませんようにって願うんです」
異世界転生した先で、私はそう習った。国が変われば風習も変わるものだ。
今日は外出なので洗濯はできなかったが、心ばかりのまじないはしておこう。
そう思い、羽衣を松の枝にかけた――
-4- * * *
悪魔は、卵から生まれたばかりの時は成長した人の姿をしている。
人間を危険な生き物だと思っている獣たちが警戒して襲ってこないからだ。
力をつけると、今度は徐々に幼く愛らしく、か弱い外見に変化してゆく。
その姿で街へ行けば、獲物と勘違いした輩が釣れる。
……つまり、お前のような者が、我らの餌よ。
-5- * * *
「俺は運がいいんだ」が口癖の冒険者。
「なにしろ、生きてるからな!」
彼の弟は、生まれてすぐ亡くなった。
誰も何も悪くなかった。
ただ子供心に「生きていることは当然ではない」と強く刻まれたそうだ。「あんたも生きてる。運がいいな!」
中年を過ぎ、初老にさしかかってなお彼は挑戦を止めない。
-6- * * *
美しい青年だった。漆黒の髪。きめ細やかな肌。
無表情に佇んでいるだけで、誰もがその存在感に圧されるような。
あの、不思議な迫力はなんだろう。
「…ヤツは、前世は馬なんだ。いわゆる幻獣の類だったが」
言われてみれば、なんとなく。乗り手を選ぶ神経質な動物のようだった。
「馬」
-7- * * *
「人生とは、魂が地上で演じるドラマ」
鎌を持った黒衣の骸骨でもなく、白衣に翼の天使でもなく、スーツと眼鏡の役人でもなく。
死後、俺の前に現れたのはピエロだった。
「このたびの悪役お疲れさまでした。次の配役は虐められっ子とその両親役。記憶を洗い流し、それぞれ一回ずつどうぞ」
-8- * * *
ネクロマンサーを目指していたが、墓から蘇ったゾンビは「にゃーん」と鳴くだけで命令を聞かなかった。
戦の跡地で拾った骨は自分の行きたい方にばかりぐいぐい進んで私を引きずる始末。
だから奇術師を名乗ることにした。
剥製が鳴き、動き、客を驚かせる。
まあ、食っていけるならそれで良し。
-9- * * *
戸影の民はその名の通り、扉の影に棲んでいる。
開いたドアの影に彼らの世界の入口があり、あらゆる場所に通じるという。
それで、引きこもりの弟の所へ連れて行ってくれと頼むと申し訳なさそうに断られた。
部屋に閉じこもった者は扉を開けない。そこに彼らの出入り口が生まれない、とのこと。
-10- * * *
――夫には内緒。私の秘密のアカウント。
少女時代、詩を書くのが好きだった。人に見せることなく終わった趣味だったけど、今の時代は匿名で投稿できる。最近のひそかな楽しみ。
妻は僕にバレてないと思っている。たまに別垢で呟いてること。
言うと恥ずかしがりそうだから、知らないふりをしておくよ。
君は知らないことだけど、元ストーカーを舐めてはいけない。
* * *
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