釣り

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 すると、山紫水明の風景と溶け合う程の見目麗しい小顔が男の目に飛び込んで来た。  男はまさか、こんなところでこんな娘と出会えるとは夢にも思わなかったので驚いて他の3人の視線も気にしながら答えた。 「まあ、そこそこね」  と丁度、その時、釣り竿を持つ手に少し手ごたえを感じた男は、浮きの方に向き直ってみると、浮きがピクピクと上下運動をしていた。所謂サワリの状態だったが、周囲の娘たちに惑わされていた男は、つい早とちりして釣竿を上げてしまったので釣り針は魚の口元を掠めて水面から閃光を放ちながら現れた。その途端、男は上体の重心が後ろに掛かるなり床几ごと倒れ掛かるも何とか踏みとどまった。  それを見ていた娘たちの歓声は、俄かにせせら笑いに変わった。にも拘らず娘たちは然も優しそうに装って男に慰めやら労りの言葉をかけた。  女の偽善である。男は重々わかってはいたが、悪い気はしないものだ。何せ、一瞥しただけだが、他の3人も可愛く見えたからカワイ子ちゃんに囲まれていると思うだけでも幸せなことなのにその子らから優しく声をかけてもらえるのだから然もあらん。
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