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 上りつめると、最奥、海側の突端まで歩く。床面から、熱せられた空気が立ち上る。汗ばんだ体が重い。ここで止まり、荷物を置いて立ち去ることもできるはずだ。けれど、だるさを上回る何かが、彼の元へ俺を引き寄せる。  先に手すりまでたどり着いた彼が、大きく手を振った。  ほぼ同時に、全身に鳥肌が立ち、ガガガ!と大きな音が耳の中に響く。それはギュイーンというドリルのような音になり、頭を激しく揺さぶられるような衝撃に襲われる。 「っ!」  耳をふさいでも、状況は変わらない。晴れた空を睨むが、雨の気配はない。  でも、何かが起こる。  それもあと数分で。 「楠谷、大丈夫か?」  異変に気付いた北村の声がかろうじて届いた。  何が起こっているのか、とにかく確かめようと眩暈をこらえて手すりまで歩いた。  海上の遥か遠くに黒い雲が見え、 「北村、あれ」 「え?」  その黒い塊から、ゆっくりと白い筋が海上に伸びていく。 「なんだあれ。竜巻?」  細く白い管はついに海面に達し、海水が風圧に押されながら白く泡立つのが見えた。  いつの間にか、吹き付ける風は強くなる。 「建物のなかに行こう、北村」 「もう少し見てたらダメかな?」  呑気なことを言う。 「ダメだ! 危ないよ」 「もう少しだけ」  水平線に近かった竜巻は、ふらふらと揺らめきながら、海上を進んでこちらへ近づいてくる。  それに合わせるかのように、耳の中の音がさらに大きくなった。 「北村! 早く中に入らなきゃやべぇよ!」  自分の声さえまともに聞こえない。竜巻にぶち当たったら、海に落ちる危険もある。俺は北村の腕をつかみ、強引にその場を離れようと走った。北村は驚きつつもついてくる。  周囲も竜巻に気づき、緊急のアナウンスが流れる。  建物のなかに駆け込んで、しばらくすると、ごおっという風の音が数度、壁を震わせた。キャーっという悲鳴が、ショップエリアから聞こえてくる。 「楠谷……ちょっと痛い」  気づくとスーツケースと北村の腕を、全力で掴んでいたことに気付く。 「わりぃ」  いや、大丈夫、と北村がはにかむように笑った。 「本当に危なかったんだな」 「そうだよ、災害っていうのは、逃げないやつが巻き込まれるんだ」    照れ隠しのために口調が強くなり、 「ごめん」  と北村に謝られ、返っていたたまれなくなる。 「腹減ってるんだろ。カレー、食おうぜ」    レストランへ入ると、巻き上げられた海水で窓が濡れていた。あのまま外にいたら、ずぶ濡れになっていたかもしれない。  脱力して、メニューを選ぶ気にもなれない俺に、 「楠谷は、天気がわかるの?」    と北村が尋ねた。
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