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① 自由になった生活
有李斗(早瀬 ありと)は、あの事件から1年半ほど、他国の研究施設にいた。そこから戻って来て、その日の夜は大(村岡 だい)の家でみんなと一緒に食事をした。
「いや~、でも本当に帰って来られて良かったよねえ。あの時はさ、僕だってどうしていいか分からなかったよ。しかし何で僕をあっちとの窓口にしたの?」
先生(一ノ瀬 亨)は、お酒を口に含みながら有李斗に聞いた。
「一番は、どんな事があっても周りに振り回されない自分の考えがあると思ったからです。あとは、意外と先生は俺らが経験した事のない事を知っていそうだったので(笑)。」
有李斗は、お酒の入ったグラスを持ち、軽く揺らしながら答えた。
先生と言うのは、この村岡病院の副院長でもあり、有李斗の大学時代からの付き合いで親友の大から、非常勤医師&有李斗と優(広川 ゆう)の主治医として呼ばれ、現在もみんなと一緒にいる人だ。有李斗にとっては、ただの主治医ではなく、幼い頃、有李斗の母親が亡くなった時に会っていて、過去での出会いもあり、とても信頼をしている。又、先生は大の研修医時代の指導医で、獣医の資格も持っている。有李斗と優のように、人間と動物の両方の生態を持つ者にとっては、先生はとても必要な人である。その先生は、みんなより人生経験も豊富で、みんなにとって、兄のような父親のような、そんな存在なのである。
「随分と美化されているねえ、僕(笑)。ところでさ、目を見せてもらっていいかい?」
「ええ。」
片方の目を失くした有李斗は、外では少し色の濃いめのサングラスをしていた。部屋へ入った後は普通のメガネにしていた。そのメガネを外し、先生の方を見る。
「眼球のない方は開けられるの?」
「はい。でも、見た目が気持ちのいいもんじゃないので瞑ってますね。ずっと瞑っていたので慣れました。」
「そうかあ。本当は後から移植を考えていたんでしょ?」
「ええ、まあ。」
その話をされると少し胸が痛い。気にしないようにしてはいるが、あの件でやはり目を失った事になると未だに胸にキリッと痛みが走る。
「あっ、ごめんね。こんな場所で聞いていい話じゃなかったね。」
「大丈夫です。気にしないで下さい。」
「ありがとう。メガネ掛けていいよ。まあ、何はともあれ、無事に帰って来てくれたから良かったよ。」
「本当に、みんなには申し訳ない事をしました。でも、あの時の俺には、ああする事しか考えが浮かばなかったんです。どこかでガツンと区切らないと、いつまでも隠れ続け、逃げていなくてはいけなかった。俺はともかく、あのままでは優が、ずっと自由にいられなかった。俺にはそれが耐えられなかったんです。」
自分のグラスの中のお酒をジッと見ながら、あの時の思いを話した。
【有李斗…】
有李斗の話を聞いて、優もあの時の事を思い出す。
自分の父親が人間と動物の混合種を造る研究をしていた。生まれてすぐの優を病院から連れ出し、研究対象者の最初として育てていた。優は、その研究所から抜け出した。道路に倒れていたのを見つけたのが有李斗だった。その後、愛する存在になり、共に生きる相手となった。その中で、ある事件があり、優と同じ種にもなった。父親は、その自分の大切な有李斗に酷い事をした。有李斗が戻ってくるまでの1年半ずっと、どう謝っていいのか考えているが今でも答えは出ない。何度もここを出て行こうかと思ったし、でも、有李斗が帰って来た時、自分がいなかった時の有李斗の状況を思うと、それも心が痛み、結局はずっと自分の心の中での格闘が続いたままでいた。
「優?どうした?何を考えている?」
自分の隣にいる優の顔を見て、有李斗は話し掛けた。
「ん?何でもないよ。有李斗がいて、みんながいて、良かったなって…。」
有李斗に話をしていて優の目からは涙が零れてきた。そして、有李斗の顔に手を添える。
「有李斗、ごめんね。ごめんなさい。僕のお父さん(広川)がこんな酷い事して。有李斗の目も失くしちゃって。謝って許される事じゃないのは分かってはいるんだけど、でも… …何て言っていいか分かんない。」
最後の方は泣いてしまって、言葉を選ばず思っていたように話した。
「お前が謝る必要なんかないんだよ。俺は、お前が笑っていてくれるだけで、それだけでいいんだ。」
「でも…。」
「でも何だ?お前はこれからずっと傍にいてくれるんだろ?俺の目になってくれるんだろ?」
有李斗の問いに返事ができないまま、優は下を向いて黙ってしまった。
「優?」
有李斗に名前を呼ばれ小さく返事をする。
「はい…。」
「お前が父親の事で気に病む事はない。お前はお前だ。早瀬有李斗の大切な奥さんでいいんだ。お前の父親だから忘れる事が出来ないのは分かる。でもな、お前をあの研究所へ連れて行った時から父親ではなく研究者としてしかいなかったんだと俺は思う。ただ、もし、お前の母親と逢った頃の人に戻れた時は、その時はまた考えればいい。」
有李斗と優の話を聞いて、みんなは優へ視線を向ける。
「そうですよ優。お父さんはお父さん。優は優です。それに、今から有李斗さまを返されても私も困りますし(笑)。ですから、変な事は考えずに有李斗さまの傍にいて下さい。」
多田(ただ 悠一)は、温かい笑顔で優を見た。
「多田さん。ありがとう。有李斗も、ありがとう。本当はね、有李斗が遠くに行っちゃってから何度もここを出て行こうって思ったの。でもね、有李斗が帰って来た時の事を考えたら出て行けなかった。きっと何処までも僕を探すと思うし。だけど、そんな風に思う自分も嫌だった。ずっと、ずっと『どうしたらいい』って言う答えが出なかったの。」
「優、こっちにおいで。」
有李斗は、優を自分の方へ呼び、強く抱きしめた。
「1人で苦しい思いをさせたな。俺が傍にいなかった為にお前を苦しめた。すまん。でも、さっきも言ったように、お前は俺の傍にいて欲しい。もう、1人で苦しい事を考えるな。これからは2人で一緒に前に進もう。な?」
抱きしめた優の首元に顔を埋める。
「いい匂いだ。落ち着く。俺は、この匂いと温もりが傍にないと生きていけない。向こうの研究所でな、目を覚ましてしばらくしてから何日も例の震えが出たんだ。何をどうしても治まらなくて眠らされるしかなかった。さすがにその時は、お前を連れて来れなかった事を後悔したよ。そんな俺だ。お前なしでは生きていけないんだ。だから絶対、俺から離れないでくれ。」
「はい。」
「しかしさあ、またこうして一緒に過ごせて良かったよねえ。」
有李斗と優の会話の内容を一通り聞いて、先生お得意のしんみり空気を換える会話が突然、発せられた。それを聞いて有李斗は思わず『アハハ』と笑ってしまった。有李斗がみんなの前でこんな笑い方をする事はないので、先生の話よりもそちらに関心が行った。
「有李斗どうしたよ。珍しいな、お前がそんな笑い方するなんてよ。」
大が少し離れた所から有李斗に話し掛ける。
「だって…、先生らしいなと思ったんだ。そうしたら笑いが出てな。悪い。そんなに変な笑い方だったか?」
「変じゃないけど、お前にしては珍しいって思ったんだ。何も謝んなよ。お前も優も、その謝り癖はいつまでも治んねえなあ(笑)。笑い方より、そっちをどうにかしろなあ~。」
持っていたグラスを高く上げて、有李斗にそう言った。
「こればかりはどうしようもならん。こんなもんだと思って、その都度流してくれ。」
病院の職員用マンションであるここに、みんなで住んでから、いつも大に言われていた言葉。今も変わらないと言う事は、この先も大して変われないだろうと思った。
「そっかあ。そう言うキャラに定着と思っていいんだな?(笑)」
「笑うな。仕方ないだろう。」
大からの久しぶりの突っ込みに、有李斗はどう返していいか分からず、そのままで答えた。
やはり、色々あった末の離れていた時間を埋めると言うのは、少し時間がかかりそうだと有李斗は思った。しかし、あの出来事たちを考えたら大には自分を隠す必要はないし、それこそ、ゆっくりでも時間が解決してくれるだろうと思った。
「まあまあ、大も有李斗さまもその辺で。有李斗さま、ちゃんと食べていますか?お酒ばかりではなくて、ちゃんと食べ物も口にして下さいね。」
「ああ。」
多田は、今ではすっかり大の奥さんのようになってはきたが、早瀬グループでは有能な秘書。有李斗が学生の頃は世話役で、早瀬の副社長でいた頃は優と出会うまでは有李斗専属の秘書だった。そんな多田の食事への小言が今も変わらずにいたので、緊張していたものが少し解れた。こんなちょっとした事が今の有李斗を落ち着かせてくれる。
「優もちゃんと食べてるか?ちゃんと食べないと多田に怒られるぞ(笑)。」
有李斗は優の耳元に近寄り、小声でそう言った。
「うん。食べてるよ。有李斗こそ、ちゃんと食べて。それとも食べられそうなものがない?何か作ろうか?」
以前のように優にも言ってみたが、どうもリズムが狂う。有李斗の方が逆に心配をされてしまった。
「いや、ここにあるもので十分だ。ただ、今は胸がいっぱいで入っていかないだけだ。数日経てば落ち着くと思うから大丈夫だ。」
「うん。でも食べたいのがあったら言ってね。」
「ああ。」
その様子を見た先生が有李斗に言う。
「有李斗くん大丈夫かい?しばらく留守にしていたせいで何だか居心地悪いかい?」
「居心地が悪いとかはないんですけど、1年半以上も離れているとペースを戻すのに少し時間がかかりそうな気はします。優も随分成長してて、感じと言うか雰囲気がしっかりした気がして…。」
「優くんのは多分違うと思うよ?電話でも話したけど、あの後、赤ちゃん返りのようになっていてね。今日の状態を見ている方が変な感じなんだよ。君に心配かけたくなくて頑張ってこうしているんじゃないかなあ。」
「そうなんですね。」
「うん。だから今日は部屋に帰って2人きりになったら疲れが出るんじゃないかなあ(笑)。でも、そう言う所が可愛いよね。」
先生は、優を見ながら微笑んでいた。
「そうですか。大には何か言われそうですけど、しばらくは我儘させてやりたいと思っています。」
「それがいいよ。君がいない間、凄く我慢してたと思うから。自分の部屋に行くと最初にする事はベッドに潜り込む事だったんだ。そこで君の匂いを嗅いで、落ち着いてから部屋の掃除やらベランダの植物の手入れをしていたよ。部屋に行く前と行った後では、全然違う表情でこっちに戻って来ていたんだよ。」
先生からは何度も聞いていた話だが、改めて詳しく聞くと、優には寂しい思いをさせてしまったと、可哀想な事をしてしまったと有李斗自身も心が痛む。
「はい。――それで先生、この先の事なんですが、明日から仕事を始めようと思っています。」
「えっ?今日帰って来て明日から仕事するの?いやいや、いくら何でもさあ。数日はゆっくり休みなよ。それこそ、優くんと2人だけでゆっくりした方がいいって。何も帰国早々、大のサボった仕事なんてする事ないよ~。」
有李斗の報告に、先生も驚くというよりも呆れている。
「まあ、飛行機の中まではそう思っていたんですけど、帰ってみたら何だか仕事をしたくなりまして。あとは、優の顔を見たら、あの2人でやっていた時間が凄い好きだったなと気付いて。とりあえず、明日仕事をしてみて、もしキツそうなら数日ゆっくりしようかと思っています。さっき大が言っていた、数十個の箱も実際に見たいし。」
「まったく君って子は。でも絶対、無理しちゃダメだよ?」
「はい。」
「ふう。少しは有李斗くんの仕事精神を大も見習えばいいのに。」
先生が大の方を見たら、視線に気付いて笑顔でいた。
「あの何も考えていない顔(笑)。」
「まあ、それがあいつの良い所ですから(笑)。」
先生と話をして横を見ると、優が何かを考えているように見えた。
「優?」
「あっ、ん?楽しいね。」
自分の思いを悟られないようになのか、返事をする時に少し慌てたように有李斗に答えた。
「どうかしたか?疲れたか?……それとも?」
ニヤリとして優の顔を見る。
その顔で見られた優は恥ずかしさもあったが、それよりも、有李斗のその顔を見られて安心した。安心したせいか、涙がポロポロと零れてきた。
「あれ?何で?」
自分でも分からない涙にアタフタしてしまう。
「どうした?」
「分かんない。急に涙が出てきちゃって。ごめんね。泣きたくてじゃないの。自分でも分かんない…。」
自分の涙を見られないように両手で顔を隠した。
「本当に何で?何で?どうしよう止まんない。」
「優?手を離して?」
顔を隠している優の両手を外し、優を抱きしめた。
「有李斗?」
「ん?こうしてたら少しは落ち着くだろ?」
「うん。でもみんなに見られてる。」
「(笑)まあ、そうだな。でも、お前の泣き顔をこれ以上見られるの嫌だしな。」
「うん。」
優は、有李斗の胸の中で安心を感じていた。
【有李斗だ。有李斗の匂い。有李斗の温かい感じ…】
その姿を見ているみんなは微笑んでいた。そして気付くと、優はそのまま眠っていた。
「優?」
【寝てしまったのか?】
優の顔をそっと胸元から離すと、安らいだ顔で眠っていた。大にゲストルームのベッドを使わせてもらうよう言ってから、優を抱き上げ、連れて行った。
「悪いな。借りるな。」
「ああ。ずっと張ってた糸が切れたんだろうよ。」
「そうだな。」
優をベッドに寝かせ、有李斗は横に座った。そして、優の髪を撫でる。
「長い時間、待たせて悪かったな。寂しい思いをさせてごめんな。お前が毎日送ってくれていた物が、どれだけ俺に力をくれていたか。あれらがあったから俺は向こうにいられたんだ。なのに俺は、お前に手紙一通も返してやれなかった。ごめんな。でも、もしお前に手紙を書いてしまったら1人で耐えられなくなっていたと思う。だから許して欲しい。これからはずっと一緒だ。お前を1人にさせない。約束する。だから俺からも離れないでくれ。な?俺の可愛い奥さん。ゆっくり眠るといい。俺はここにいるから。」
小さい声で囁くように優に話し掛け、優の寝顔を見ているうちに有李斗も眠ってしまった。
「有李斗さま戻って来ませんねえ。」
なかなか戻って来ない有李斗を多田は気にしていた。
「大、見て来てもらえませんか?優の横で一緒に眠っていたら風邪をひいてしまいますので。」
「分かった。」
多田に言われて、大は有李斗の様子を見に行った。
リビングでは先生と多田が話をしている。
「まあ、有李斗くんも何だか緊張してたっぽいからね。しかし、多田くんにしても優くんにしても、あんまり喋ってないよねえ。どうしちゃったの?」
「ええ。特にこうって言うのはないんですけど、何だか胸がいっぱいで何を話せばいいのか分からなくて…。変ですよね。相手は有李斗さまなのに。」
そう話しながら、多田は先生の隣に座った。
「まあ、有李斗くんもそんな感じだったよね。――人って不思議だよね。あんなに近くにいたのに、少し離れただけで言葉を交わすことも難しくなっちゃう。だからこそ、大切な人とはいつまでも努力をしなくちゃいけないのかもね。もちろん相手に無理に合わす為とかそう言う事じゃなくてさ。相手は自分が考えている事を分かってて当然とかそう思っちゃダメなんだよ。ちゃんと言葉や行動で伝えないとさ。もちろん、何も言わなくても分かる事もあるって言うのも大切なんだけど。」
きっと先生は、亡くなった奥さんを思い出しているのだろうと多田は思った。自分は、ちゃんと有李斗に伝えていない事を考えた。空港へ迎えに行ってから今まで、少しの泣き顔と少しの笑顔しか見せていない。自分がどれだけ心配して、そして、帰って来てくれて嬉しかったかを何一つ言葉で伝えてはいなかった。先生の言う通り、自分の気持ちは言葉にしないと伝わらないと思った。
先生が言っていた事を考えていると、大がゲストルームから戻って来た。
「悠一さんの行った通り、有李斗寝てたよ。優の横へ寝かせてきた。2人ともいい顔で寝てるよ。」
「そうですか。すみませんでした。2人とも、きっとこの1年半、ちゃんと眠れてないと思うんですよね。今日は、このまま寝かせておきたいのですが。」
「そうだな。2人は、あのままで。」
「すみません。」
有李斗と優は、そのまま大の家に泊まった。しばらく3人で話をしていたが、後片付けをしてお開きとなった。
☆☆☆☆☆
有李斗が目を覚ました。
「う~ん。」
寝返りを打つと優の姿があった。
【そうか。あのまま俺も寝てしまったんだな。多田たちに悪い事をした】
そう思いつつ時計を見ると、まだ朝の5時くらいだった。優が目を覚まさないように、そっと優の腰に手を回し、くっ付いた。
【ああ、優の匂いがする。何よりもこれが心地いい】
優の匂いと温もりを感じながら目を閉じると、再度眠りに落ちた。
その後、2時間くらいしてから次に優が目を覚ました。気付くと、自分の腰に有李斗の手があり、背中には有李斗がくっ付いていた。
【有李斗だ。有李斗の方に向きたいな。そっとなら大丈夫かなあ】
有李斗の手をそっと持ち上げ、有李斗の方へ向いた。しばらくジッと顔を見ていたが何かしたくなってきた。キスをすると後で大変な事になっていた記憶が甦り、危険なので、そのままジッと見つめるだけにした。
【う~ん。やっぱり何かしたい(笑)】
まずは、髪の毛をいじってみた。その後、唇を指で擦ってみた。すると、指をパクっと口に入れられた。
「あ、有李斗?」
「ん?」
有李斗は、口に入れたその指を舐め始めた。
「有李斗、ちょ、ちょっと~(笑)。くすぐったいよ~。」
「そうか?じゃあ、これは?」
優の指をゆっくりとネットリ舐めていく。優の身体が疼いて熱を持ってくる。
「有李斗…。ダメ。ここは大の家だよ?」
「ああそうだな。でも、そんな他所の家で誘惑してきたのはお前だろ?」
ニヤリとして優を見た。
「そんな事…。」
自分から仕掛けたのに、優の恥ずかしがる表情を見たら【このままでは自分を抑えられない】と有李斗は思った。
「優、ダメだ。そんな顔で見るな。」
「え?どうしたの?急に。」
優は、以前と違う反応をされ戸惑った。
「この先は家に戻ってからな。――あ~そうだ~。今日から仕事しようと思っていたんだった。」
有李斗との甘い時間が一瞬しかなく、しかも有李斗が独り言のように話していて、優はどうしていいのか困ってしまった。
「あ、有李斗?」
優のキョトンとした顔が有李斗の前にある。
「ごめんな。俺、おかしいな。」
「ううん。そんな事ない。そんな事はないんだけど…。う~ん、えいっ。」
優が有李斗にキスをしてきた。驚いた有李斗が優を離そうとしたら、離れるどころか、どんどん深いキスをしてきた。
「んん…はぁ…ゆ…う…、待ってくれない…か?…」
「どうして?」
「今、これ以上されたら止まれなくなる。お前を抱き潰してしまう。だから今は…。」
顔を赤くして恥ずかしそうに答えた。
「う、うん。」
【確かに】と優も気が付き、顔を赤くして小さく頷いた。有李斗は優をギュッと抱きしめてから身体を起こした。
「さて、起きるか。こんなにぐっすり寝たのは久しぶりだ。」
「うん。僕もそうかも。先生んちにいる時、何度も目が覚めちゃって。」
「そうだよな。環境が変わるとなかなか慣れないしな。しかも、2人で寝ていたのに1人になると更に慣れない。優のおかげでこれからはぐっすり眠れるようになるわけだ。ありがとう奥さま。」
そう言って、軽いキスをした。
「へへへ。」
【あ~、これだ。この笑顔】
「優。」
優の名前を呼ぶと、また深いキスをした。
「有…李斗…んん…」
2人が甘い感じでいると、大がドアの所に立ち、それを見てニヤリとしながら咳払いをした。
「うふん。すみませんが、人んちでいやらしい事するの止めてもらえません?」
大の姿を見た優が、慌てて布団の中に潜った。
「いや、布団に潜んの今更だろ(笑)。」
「大、すまん。ついな…。」
さすがの有李斗も、見られた事に動揺した。
「あ~、分かってるって。それに、普通ならここは笑って終わるところだろ~。そう真面目に答えんなよ(笑)。」
「ああ。」
そう言われても、動揺した分だけ真面目に答えてしまうのは仕方ない。
「悠一さんが食事どうするかって。」
「すぐに起きる。」
「おう。早く来いよ~。」
「ああ。」
有李斗の返事を聞いて、大はリビングへ戻って行った。
「優?出ておいで。」
布団に潜っている優に声を掛けながら、有李斗も布団の中へ顔を入れる。
「優、大はもういないよ。それに朝ごはんだ。出ておいで。」
「うん。でも、あっち行きづらいなあ。」
「まあ、うん。でも俺も行くんだし。せっかく多田が食事の支度をしてくれている。行こう。」
「うん。」
恥ずかしがる優の手を繋いで、リビングへ行った。
「有李斗さま、優、おはようございます。よく眠れましたか?」
さっきの事を大から聞いていたと思うのに、多田は何事もなかったように挨拶をしてきた。
「おはよう。昨夜は悪かったな。優だけを寝かせておくつもりが俺まで寝てしまった。」
「何を謝るのですか?お気になさらないで下さい。長旅で疲れていたんですよ。それじゃなくても、ずっと他所の国の研究所にいたんですから。優も、有李斗さまと一緒に寝られて良かったですね。」
多田の、こんな優しい対応にいつも救われている。それは仕事もプライベートも両方だ。
「うん。でも、急にお泊りしちゃってごめんなさい。僕もすぐに、お手伝いするから待ってて。」
多田の朝食作りを手伝おうと、優は急いで顔を洗いに行った。有李斗もその後に付いて行った。
「有李斗は急がなくていいのに。」
自分と一緒に来た有李斗に、そう言葉を掛ける。
「いや、いいんだ。さっきも少し言ったが、今日から仕事を始めようと思ってな。随分と大が箱を溜め込んでいるみたいだから。優は無理にやらなくていいぞ。他にやらなくてはいけない事もあるだろうし、俺がいなかった時の生活のリズムがあるだろうしな。それに、もう部屋に閉じこもらなくても自由に動けるわけだから。全部を俺に合わせる必要はないよ。」
「どうしてそんな事言うの?」
有李斗の言葉を聞いて優が怒りだした。
「ずっと、有李斗が帰って来て一緒にいられるのを待ってたのに…。どうしてそんな風に言うの?離れる前だって、有李斗とずっと一緒にいてイヤなんて少しも思った事ないし、言った事もないでしょ?なのに、何でそんな事言うの?」
目に涙を溜めて、優にしては大きな声で言ってきた。
「悪かった。お前を怒らせるつもりで言ったわけじゃないんだ。ただ、俺と離れていた時の生活のリズムがあるだろ?それを邪魔して――」
「邪魔されるなんて思わない。有李斗にこうして欲しい、ああして欲しいって言われて邪魔されたなんて思うわけないよ。なのに…。」
1年以上と言うのは、やはり長い時間だと思い知らされる。帰って来てから何をするにも、思う事も空回りしているように感じられる。こんな時、以前の自分ならどうしていたのかと有李斗は考えていた。
「ごめんな、優。本当に、お前を傷つけて怒らせるつもりはなかったんだ。俺、帰って来てから空回りしてるな。」
【何やってんだ、俺は…】
「優、今日は仕事を止めようか。止めて、部屋で2人で過ごすか。な?」
【昨夜、先生の言っていた通り無理していたんだろうか。以前の生活に戻す為に仕事をしようと思ったが、やっぱり急ぎ過ぎたか】
有李斗と優の言い争う声を聞いて大が来た。
「おい、どうした。何でケンカしてんだ?」
「悪い。俺がいけないんだ。俺が、少し言葉の掛け方を間違えてな。それとな、今日から仕事をしようかと思っていたんだが2、3日遅らせてもらっていいか?家でゆっくりしたい。」
「仕事?お前、本当に今日から仕事をしようとしていたのか?だとしたらバカじゃねえか?長いこと家空けてたのに、帰って来て2人の時間も持たずに仕事するとか。そりゃあ優だって怒るだろうよ。まあ、あんなに溜めた俺が悪いんだけど。ちゃんと数日、優と一緒にいろ。その生活に慣れてから仕事しろ。分かったな。」
大にも怒られた。怒られたと言うよりも心配をされた。
「ああ。そうする。優も、それに付き合ってくれるか?」
「うん。僕、多田さんのお手伝いしてくる。」
有李斗に返事はしたものの、優はそそくさと多田のいる所へ行ってしまった。
「お前なら、もっと上手くできるんだろうな。」
大に静かに言う。
「どうだかな。お前の気持ちは分からなくはないよ。空回りしてんなって思ってるだろ?でもさ、1年半だぞ?お互い、ペースを思い出すのってのは、やっぱり少し時間がいるだろうよ。しかも昨日の晩、2人だけの時間もなかったわけだしな。お前じゃなくても同じようになるんじゃねえか?心配するな。数日一緒にいれば元に戻るって。気にするなよ。お前らしくもない。」
「そうか?そう言ってもらえると少し気が楽になる。――あのな。優は、ここに来た時、世の中も何もかもを知らなかったろ?でも仕事を始めた頃には凄いスピードで成長していったんだ。目に見たもの、聞いたものをスッと吸収するように。それが仕事を始めたら更に成長していった。その後すぐだ。離れたの。だから、帰って来てあいつを見た時、俺はあの日のまま止まっていたが、あいつは違うように見えた。小さな子供が大人になっていたように見えたんだよ。それに俺は戸惑っている。あいつよりも俺の方が明らかに戸惑ってんだよ。」
有李斗は、昨日から感じている思いを大に話した。
「そうか?お前の思い違いだろ。俺からすれば、あんま変わってねえよ?昨日の態度だって、頑張って背伸びしてるって感じだったし。」
「先生もそんな事言ってた。」
「だろ?だからさ、お前はそのまんまでいいんじゃないの?それに、元々、お互いのそのままを好きになったんだろ?お前も優も。それなら気にせず、そのままでいいじゃねえか。何をそんなに深く考えてんだ?相変わらずだな(笑)。ほれ、さっさと顔洗って飯にしようぜ。俺、腹減った~。先行ってんな~。」
【そのままの俺か…】
大の言っていた事を考えながらリビングへ行った。
「有李斗さま、コーヒーでいいですか?あっ、パンにしてしまったんですけど、帰国したのでご飯が良かったですか?大がご飯なので支度できますよ?」
「いや、パンがいい。悪いな、朝の忙しい時に俺の分まで。」
「何で謝るんです?」
「あ、いや、うん。そうだ多田。今日から俺を手伝えと言ったんだが、申し訳ないが数日あとからにしてもらっていいか?やはり、少しこっちの生活に慣れてから始めようと思ってな。」
「はい。私も気にはなっていたんですよ?何も帰国早々仕事をしなくてもいいのにって。優との時間も取ってないですし。今の有李斗さまには仕事よりも、もっと大切なものがあるじゃないですか。以前、私にそのように言ったのは有李斗さまですよ?」
ついに、多田にまで言われてしまった。
「はぁ…。」
多田にまで言われ、有李斗は溜め息をついた。
「溜め息なんてついて、どうされましたか?」
「いや、何でもない。」
有李斗の姿を見ていた大がクスクスと笑っていた。
「おい、笑うな。」
「いや、悪ぃ(笑)。」
「優、食事をしたら帰るぞ。」
ムスッとした有李斗が優に、そう伝えた。
「うん。」
【さっきの事、やっぱり謝った方がいいよね…】
優は、洗面所での有李斗とのやり取りを気にしていた。
食事を終え、優は多田と後片付けをし、有李斗は大と話をしていた。
「有李斗さあ、さっきの話なんだけど、焦んなよな。お前が焦ると多分、優も焦るぞ。まあ、今日は自分たちの部屋でゆっくり過ごせ。夜も2人だけで過ごせよ?何も、俺らに気を遣って無理して来なくてもいいから。」
「ああ、そうさせてもらうよ。悪いな。色々考えてもらって。」
「まっ、元のペースに戻ったら旨い肉食わせろ。」
「ああ。分かった。」
「さっ、早く家帰れ。何かあったら言えよ?」
「ああ。」
「優、もうそこはいいから、有李斗連れて家帰れ。お前だって、やる事が色々あるだろ?」
「うん。じゃあ、そうさせてもらうね。多田さん、途中まででごめんなさい。」
台所にいる多田に頭を下げる。
「いいんですよ。有李斗さまの事、よろしくお願いしますね。」
「はい。じゃあ今日は帰るね。」
優は、自分の荷物を持って玄関の方へ向かう。その後ろを有李斗が歩いていた。
「大、多田、悪かったな。何かあれば連絡する。」
「ああ。あんま変な風に考えんなよ?」
「ああ、分かってる。」
それぞれの挨拶を終えて、有李斗と優は自分たちの部屋へ戻った。
「はぁ。やっぱりここが落ち着く。呼吸がしやすいな。」
有李斗は、部屋に着いてソファに座った。横を見ると、二体のクマのぬいぐるみも以前と変わらずそこにいた。そのぬいぐるみの頭を撫でた。
「ただいま。留守番、お苦労さん。」
小さい声で、そう呟いた。
「有李斗、何か飲む?」
「そうだな、何があるんだ?」
「普通にそこそこあるんだけど…。そうだ、あれを用意するね。すぐにできるから待ってて~。」
大の家で機嫌を損ねていた優は、今は普通にいる。
「ああ。できるまで荷物の整理をしてるな。」
「は~い。」
荷物のある寝室へ行く。すぐに荷物を開けようとしたがベッドへ座った。頭元には小さめのクマのぬいぐるみがいくつも飾られている。それを見ながら横になった。
【優の匂いがする】
目を閉じ、今日の朝までの事を思い出す。
【毎日が目まぐるしく過ぎていったな。俺は、これからどうしたらいいんだ?】
大が言っていた事、優が言っていた事を考えていた。そのうちに眠ってしまった。
「有李斗~、できたよ~。有…李斗?」
支度ができ、優が有李斗を呼びに来たが眠っていた。
【眠っちゃってる】
掛け布団の上に寝てしまっているので、クローゼットから毛布を取り、有李斗に掛けた。
「おやすみなさい。ゆっくり休んで。」
そう言って、有李斗のおでこに軽くキスをした。
☆☆☆☆☆
寝ている有李斗の鼻に、甘い香りが届いてきた。
【う~ん。――そうだ。帰って来たんだったな】
起きて目を開けると、ずっと帰って来たかった自分の家にいる事を思い出す。
【甘い匂いがするな】
身体を起こし、匂いのあるリビングへ行った。
「優、悪い。片付けもしないで寝てしまった。」
「ううん。ゆっくり眠れた?」
有李斗に話をしながら優が近くまで行く。背伸びをして有李斗に軽くキスをした。
「おはよう。有李斗。僕の旦那さま。」
唇を離してニコッとし、そう言った。
「優…。」
優を自分の懐に収め、今度は有李斗から深いキスをした。
「んん…有李斗…ダメ…」
「どうしてダメなんだ?お前の唇はダメって言ってないようだが。」
ニヤリとして優の顔を見る。そのまま首元へキスをし、キスの場所を下へと移動していった。
「やっ…有李斗…んん…はぁ…」
「気持ちいいだろ?なのに何でイヤなんだ?」
「だって…。はぁ…あっ、ダメそこ…」
優が有李斗に答えている間も有李斗はどんどん攻めていく。そして、優のソレの辺りを触った。
「もう、こんなになってる。」
「イヤ、言わないで。」
恥ずかしいと言う仕草をして、優は両手で顔を隠した。
「顔を隠すな。俺に見せろ。俺にしか見せないお前を見せてくれ。」
有李斗は、優の身体の下の方にいたのを上まで戻り、優の手を顔から離させた。
「ヤッ…だって…」
顔を赤くしながら潤んだ目を有李斗に向けた。
【そう、この表情。俺だけに向けるこの顔だ】
「優、その顔をもっとちゃんと見せてくれ。」
ジッと優の顔を見る。そして強く抱きしめた。
「ただいま。遅くなってごめんな。お前をずっと触りたかった。ずっと抱きしめたかった。お前の声を聞きたかった。」
「おかえりなさい。僕も、有李斗と会いたかった。何をしてても有李斗がいなくて寂しかった。楽しくなかった。ずっと、ずっと有李斗に触れたかった。」
身体でも、有李斗に返事をするように、優からも強く抱きしめ返した。
抱きしめている優を、そのまま抱え寝室へ行く。ベッドにそっと降ろし、深いキスをした。
「んん…はぁ…」
最初は唇。次に耳、首と、キスの場所を変えていく。
「どうだ?気持ちいいか?」
「うん。」
優は、小さく頷いた。
「はぁ…ふぅん…」
優の反応を確かめながらキスで攻めていく。そして、優のソレをズボンから出し、ゆっくりと扱き始めた。
「ヤァッ…そんなにしたら…んん…」
「我慢するな。感じるままでいい。」
扱きを少しずつ早める。先端から溢れてくるものを人差し指で撫でる。それがまた、優の快楽を増幅させた。
「はぁん…有李斗…ダメ…」
「ダメじゃないだろ?腰が動いてるぞ?」
そう言いながら何度目かのニヤリとした顔で優を見た。その表情を見せられ、優の背中に電流のようなものが走る。
「はぁぁ…ダメ…あっ…もう出ちゃ…んん…はぁぁぁ…」
【バサッ】
優が達したと同時に、背中から羽が出てきた。
「おっと。」
ベッドの上に寝かせていたので、羽を見た有李斗は、とっさに優を抱き起した。
「う~、有李斗~。」
優は達した事よりも羽が出た事に動揺した。
「羽が出てしまうほど良かったのか?」
「う~ん、そんな意地悪言わないで。」
「そうだな(笑)。」
そして、羽の表面を優しく撫でる。
「ヤッ…ダメ…」
「相変わらず、羽も弱いんだな。どれ、俺も出すか。久しく出してないんだ。」
そう言って、有李斗も自分の羽を出した。優よりも大きくてしっかりした羽だ。
「有李斗…。触っていい?」
「ああ、いいよ。お前にこうして見せるのは初めてだったな。」
「うん。あの時に一度見ただけ。でも、どうして教えてくれなかったの?」
羽は背中にある。その為に、優は自分の羽をじっくり見た事がない。有李斗の羽を優しく触りながらよく見た。
【僕のと同じ色なのかな?】
「あの時に、お前に話していたら気にしていただろ?あれ以上、お前に色んな事を背負わせたくなかったんだ。大にはエコーで診てはもらったが実物は見せていない。ここでは、お前が初めてだよ。ん…優、それ以上触るな。」
「そうかあ。僕が最初かあ。何か嬉しい。有李斗も、ここを触られるとくすぐったい?」
「だから、もう手を離してくれ。はぁ…おい、ダメだって。優…んん…。」
甘い声を出している有李斗を見て、優は更に羽の付け根を触っていく。
「おい…ヤメッ…んん…ゆ…う…」
優は、羽から手を離し有李斗の正面に来た。そのままキスをして、座っている有李斗の足の上に乗った。そして、有李斗の首に手を絡ませ抱きついた。
「ねえ有李斗?僕の羽は有李斗と同じ色?」
「ああ。俺はお前の子だからな。同じ色だ。ただ、俺は元々の力よりも強いものが欲しかったから違う実験をしてな。だから大きさはお前よりもかなり大きい。こうして、お前を隠すこともできる。」
自分の羽を大きく広げ、自分の上にいる優を羽で覆った。
「何か、2人だけの空間だね。」
「そうだな。このまま続けていいか?」
「うん。」
優の後ろの部分を指で解していく。
「はぁん…んん…」
「息を吐いて力を抜け。俺がいない間、何もしてなかったのか?」
あんなに繋がっていたのに、まるで初めてかのようにキツくなっていた。
「んん…はぁ…1人でなんてそんなの…どうやって…んん…あっ…するの?」
【どこまでも可愛い奴】
「1年半も何もしないで、よくいられたな。」
「有李斗は何かしてたの?…あぁ…はぁぁ…」
「そっか。お前は知らなかったんだな。しかし知らないとは言え、よく…。」
「はぁ…有李斗…ダメ…もう…あっ…そこばっかり…イヤ…はぁ…ヤッ…ダメ~」
知らないとは言え、ある程度の事くらいはしていてもおかしくないのに、何もしてなかった事を聞いて、有李斗は普段よりも興奮した。思わず指だけなのに攻め立て続けてしまった。優も、指だけの行為だったのに激しく攻められ、ぐったりと有李斗に身体を乗せた。
「大丈夫か?少しやりすぎたな。でもお前が煽るから(笑)。」
「僕、何もしてないよ?」
荒い呼吸をし、有李斗に身を任せながら言う。有李斗は、そう答える優の顔を自分の方に向けさせキスをする。
「んん…」
キスで優の快楽を蘇らせ、そのまま次は自分のソレを優の中にゆっくりと挿れた。
「ん…優、息を吐いて力を抜け。」
「アッ…んん…はぁぁ…」
優の甘い声が寝室に響く。
「いい声だ。お前のこの声を聞くだけで俺の背中はゾクゾクする。」
「はぁ…そんな事…」
有李斗がいない間、何もしてなかった優は、あまりの快楽に言葉にならないほどになっている。
「優?」
「はい、んあっ…」
「そんなにいいのか?」
「だって…でも…はぁん…ヤッ…ダメ…もう…はぁぁぁ…」
荒い呼吸で有李斗に寄り掛かる。以前は仰向けで寝かせていた優を、今日は羽があるのでうつ伏せにした。そして、自分の方にある優の羽の付け根をペロリと舐めてみる。
「はぁぁん…」
今までにない感じ方で思わず身体が跳ねた。
「いい反応だ。」
優の反応を確かめるかのように背中を攻めていく。
「有李斗、ダメ…」
このまま続けたら意識を飛ばしてしまいそうに見えたので、背中を攻めるのを止め自分のソレを再び優の中へ挿れた。
「んん…優、そんなに締めるな。そんなにされたら…くっ…俺がもたない…」
有李斗も、この長い月日は優以外の誰かとなどという事はないので、優の中の反応が激しいのは有李斗にとっても長くはもたない。
「んぁ…そんな事…はぁ…言っても…あぁ…もうダメ…ヤッ…イっちゃうよぉ…」
「俺も…ん…そんなにもたん…くっ…」
「うん…はぁ…ダメ…イクっ、イっちゃう…はぁぁ…んあぁ…」
「優、愛してる…もう1人じゃないからな…んんっ…ずっと一緒だから…俺もイクっ…くっ…」
「「はぁ、はぁ。」」
2人の上がった息の音が静かな寝室に響いている。有李斗は優を抱き寄せ、おでこに軽いキスをした。
「身体、大丈夫か?」
キスをした後に優の顔を見たら、目が潤んでいて閉じそうになっていた。
「我慢して起きてなくていいよ。そのままおやすみ。」
「うん。」
有李斗の言葉を聞いて、優は目を瞑り眠った。
有李斗は、優の寝顔をしばらく見ていたが、自分の息が整った後、温かいタオルを持って来て優しく優の身体を拭いた。
【綺麗な身体だ。まさか、この時に優の羽が出るとはな。本当に綺麗だ】
そう思いながら、自分が舐めた優の羽も優しく拭いた。その後、優の隣に自分も横になり眠った。
先に有李斗が目を覚ました。
「ん~。」
さっきまで、優と身体を繋げていた事を思い出す。研究所にいた時は、少しは自分でと言うのもあったが、そんなにはなかった。しかし優を見た途端、身体が自分の意志とは違う反応をしていた。
【初日から優に無理をさせたな】
いい年した自分が、優の姿を見ただけでこうなってしまう事をくすぐったく感じた。そして、ベッドから起き、お風呂の準備をする。そのままリビングへ行くと、台所に優が作ったクッキーがあった。それを1つ口に入れた。
【美味い。あのチョコの味がする】
そう思って冷蔵庫を開け、チョコを1つ食べようかと思ったらケーキが入っていた。それは以前、優にプロポーズをした店で食べたケーキに似ていた。そのまま、そっと冷蔵庫を閉め、クッキーをもう1枚食べた。そして、帰って来てすぐに作ってくれていたであろうミルクティーがあった。香りを嗅ぐと、いつか自分の為に作ってくれていた、あのチョコの味がするミルクティーだった。時間が経ってしまったので冷めてはいたが、それをカップに注ぎ、口にした。
【これも美味い。優の作ったものを口にするとホッとする】
窓から見えるハーブたちを見ながらミルクティーを飲み、ゆっくりとしていた。
「有李斗?」
まだ羽を仕舞えていない優が寝室から出てきた。足元がフラフラしている。有李斗は、持っていたカップを置き、優の傍まで来ると、ヒョイと抱き上げソファに寝かせた。
「無理するな。今、掛けるものを持ってくるから待ってろ。」
ベッドにある毛布を1枚持ってきて優に掛けた。
「ありがとう。」
「ああ。羽で寝づらいか?」
「ううん。意外に気にならない。羽がある状態で寝た事なかったけど平気なもんなんだね。」
「そうだな。身体がそう言う風になってんだろうな。」
「うん。」
「今、何か飲み物持ってくる。」
有李斗が立ち上がろうとすると、優が有李斗の服を掴んだ。
「どうした?」
寝ていた身体を起こし、有李斗に軽いキスをする。
「大好き。」
「ああ、俺もだ。……さっ、横になってろ。」
優を横にならせ、飲み物を取りに行った。冷蔵庫からミネラルウォーターとスポーツドリンクを持ってきた。
「どっちがいい?」
「お水。」
ミネラルウォーターを優に渡す。
「風呂入れたから、もう少ししたら入ろう。」
「うん。」
「あそこにあったクッキーとミルクティー、もらったぞ。」
「うん。でも冷めちゃってたでしょ?作り直したのに。」
「いや、いいんだ。せっかく作ってくれたもんだしな。美味しく食べた。やっぱり、お前が作ってくれたもんが一番いいな。」
「そっ?ありがとう。」
有李斗に褒められ、お礼を言いながらニッコリとした。
「あんまり煽らないでくれ。また抱きたくなる。」
優をジッと見つめる。そのまま優の唇に近付いた。
【ここでキスをしたら絶対に抑えられない】
そう思った有李斗は、キスの位置をおでこに替え、優を抱きしめた。
「さて、風呂へ入るか。俺が連れてってやる。」
優を抱き上げ、お風呂へ行った。リビングであんなに我慢をしていた有李斗だが、お風呂でその糸が切れてしまった。
「ヤッ…もうダメ…」
「ダメじゃないだろ?お前の中が俺を離さない。」
「はぁ…ふぅん…有李斗…もう…そんな事…言われたら…はぁぁ…イっちゃう…一緒に…ね?…」
「ああ。一緒に…」
有李斗の速度が速まる。
「ヤッ…速い…もうダメ…有李斗…ありとぉ…イクッ…はぁ…イクッ…あぁぁ…」
「イっていいよ。んくっ…俺も…出る…クッッ…」
ほぼ同時に果てた。息が上がり、なかなか息を整えられない優が言う。
「はぁ、はぁ。有李斗、ごめんなさい。もう無理、ダメ…。」
「お前が謝るな。俺の方こそ無理させてすまん。はぁ、はぁ。さすがにやり過ぎた。」
「ヤダ~、言葉にしないで…。は、恥ずかしいよ~。」
優は顔を赤くして下を向いた。
「可愛いな。もっと俺に顔を見せてくれ。」
「ええ~。」
改めて言葉で言われると恥ずかしくてどうしようもない。それでも有李斗の方に顔を向け、そして有李斗の目をジッと見た。今はメガネもサングラスもしていない。そっと、目の無い方を触った。悲しい顔をしながら、その目にキスをした。
「優?」
「ううん。」
「見てて、あんまり気持ちのいいもんじゃないだろ?怖くないか?」
「怖くなんかない。有李斗の綺麗な目だもの。僕は知ってる。鳥の目になる前も後の目も。だから怖くなんかない。」
「ありがとう。お前だけがそう言ってくれるだけで俺はいい。」
「ん。」
「上がるか。随分、長湯をしたが大丈夫か?」
「平気。」
有李斗は、優を抱き上げ、身体を拭き、そしてソファまで連れて行った。
「今度こそ、ゆっくり休め。まあ、俺が休みを与えてなかったんだが。」
有李斗のその言葉にフフッと優は笑った。
その後、有李斗は持って帰って来た自分の荷物の整理をすると言っていたので、優はそのまま少し休ませてもらう事にした。
【あっ、これを優に渡すのを忘れてたな】
荷物の中からクマのぬいぐるみを二体出した。テディベアだ。研究所の近くに専門店があった。帰国少し前に案内をしてもらい買ってきた。テディは、最初はそんなに大きな意味のあるものではなかったらしい。しかし、今では色んな意味を持つテディがいるそうだ。しかも、ドイツにある会社の製品らしいが、今では色々な国に店やミュージアムがあるらしかった。その中の1種のものを買ってきた。それをソファテーブルに置いた。
【これを見た時の反応が楽しみだ】
優が見つけた時を思いながら、片付けの続きを始めた。
「う~ん。」
優が目を覚ました。
【有李斗は何処にいるんだろう?ん?羽ない】
有李斗を探そうとソファを降りようとしたら、さっきまで出ていた羽は背中に収まっていた。もう慌てたりはしないが、やっぱり慣れない。少しホッとして再度、ソファを降りようと身体の向きを変えると、テーブルの上にいるクマのぬいぐるみが目に入った。
【あっ、クマさ~ん。これって…、テディベア?】
テディベアを二体とも抱え、有李斗を呼ぶ。
「有李斗~?何処にいるの~?」
「こっちだ。まだ片付けているんだ。」
足元がフラフラしているので、ゆっくりと有李斗の声がする寝室へ歩いて行く。
「有李斗、これ。」
「それな、テディベアだ。足元危ない。」
フラフラしている優を抱き上げ、胡坐をかいた自分の足の中へ優を座らせる。
「無理して歩くな。転ぶぞ。」
「うん。ありがとう。ねえ、それよりも、この子たちはテディ?」
手に持っていたぬいぐるみたちを有李斗に見せながら改めて聞いた。
「ああ、そうだ。研究所の近くに店があってな。帰ってくる前に案内してもらったんだ。」
「へえ。可愛い。ありがとう。」
「色んなのがいてな。それぞれ意味があると言っていた。これはブライダルベアって言うやつだ。この国内でも最近は結婚式に使われているみたいだ。2人で困難を乗り越えながら生きていこうとか、子宝とか、いくつか意味があるらしい。それでこれにした。まあ、子宝は無理なんだが。」
「まあ、そうだね(笑)。でも困難の方は僕たちにはピッタリ。ありがとう。大切にしようね。」
「ああ。置き場所を考えないとな。」
「うん。」
「さて、この後どうするか。優は、もう少し休むか?」
「ううん。起きる。有李斗、お腹空いたんじゃない?すぐに用意するね。」
「無理するな。」
「無理はしないよ。平気。ゆっくり動くから。じゃあ、僕はお台所に行くね。」
そう言って、有李斗の所から立ち上がろうとした。でも、立ち上がる前に有李斗に抱き上げられた。
「大丈夫だよ?」
「いいんだ。俺が連れて行きたいんだ。」
少し照れたように優に伝えた。
「うん。ありがとう。」
有李斗の腕の中からジッと顔を見てお礼を言った。有李斗は歩みを止め、優に軽いキスをした。キスをされた優は恥じらいながらもニコニコしている。
「さて、着いたぞ。本当に無理するなよ?」
「うん。くたびれたら休憩する。」
「ああ。俺は、残りの片付けをするな。」
「うん。」
☆☆☆☆☆
「有李斗、食べる準備できたよ~。」
「ああ、すぐ行く。」
手にしていた物を置き、寝室から有李斗が出てきた。
「そんなに荷物は多くないんだが、細かいものが多くて整理がつかないんだ。悪いが、あとで手伝ってくれないか?」
「はい。」
有李斗からお願いされてニコニコして返事をした。優にとって、有李斗から用事を頼まれる事は嬉しい事の1つ。それをされたので、とても嬉しかった。
「今日はフレンチトーストか。久しぶりに食べる。」
「有李斗は、フレンチトーストとホットケーキ好きでしょ?でも向こうで食べられてるのか分からなかったから作ったの。」
「どれどれ。」
久しぶりに食べる優が作ったフレンチトースト。一口食べると、離れてしまう前によく作ってくれていたストロベリー風味のものだった。
「これ。食べたかった。ずっと食べたかったんだ。――向こうはパン食だから、まあそこは良かったんだ。もちろんフレンチトーストやホットケーキも食べた。でもな、美味しいとは思わなかったんだよ。優が作ったものでもないし、一緒に食べているわけでもない。だから何を食べても美味しくなかった。あ~、やっと食事をしてるって思えるよ。」
大の家でも、あまり食べていなかった。この部屋に戻り、優の作ったものを口にし、やっと身体の力が抜けた。
「良かった~。たくさん食べてね。」
「ああ。」
「あとコーヒーね。行く前はあまり飲めなかったでしょ?」
「そうだったな。」
この食事の時間は有李斗にとって、とてもいい時間だった。
「食べ過ぎたな。」
「(笑)そうだね。有李斗は普段あんまり食べないのに今日はたくさん食べてたね。作り甲斐があったよ。――ねえ、有李斗…。」
下を向いて、小さい声で有李斗を呼んだ。
「ん?どうした?」
「あのね。明日、一緒にお出掛けしたい所があるの。」
例の件が解決した今、優も外に出られるのだ。だから、有李斗と外で過ごしたいと思った。
「そうだな。2人だけで出掛けてみたいな。それじゃあ、明日は出掛けようか。」
優の申し出に有李斗は、快く返事をした。
「うん。有李斗とお外に出られるね。やっと、やっと2人でお出掛けができるね。」
涙を浮かべながら有李斗の手を握り、喜んだ。
「ああ。やっとだな。」
「うん。」
「何処に行こうと思ってるんだ?」
「内緒。きっとね、有李斗にとっては大した所じゃないの。でもね、それでも一緒に行きたいの。」
優がどんな所を言っているのかは有李斗には分からないが、もし普通の何でもないような所でも、優と行く場所は楽しいだろうと思った。
「お前と行く事に意味があるんだ。一緒に行こうな。」
「うん。」
「さてと、寝室のあのごちゃごちゃした物を片付けるか。手伝って下さいますか?」
「フフフ。はい。」
食べたものを片付けてから、有李斗の荷物の整理の続きを始めた。
それが終わった頃、時計を見ると夕方になっていた。
「ありがとうな。手伝ってくれて。」
「どういたしまして。」
「その言葉、いつ覚えたんだ?」
「う~ん、いつだろう。多田さんか誰かが言ったのを調べたんだったかなあ。」
そう話す優を自分の足上に置き、後ろから抱きしめながら有李斗は言った。
「そんなに急いで成長して俺を置いて行くな。」
「有李斗?」
優の首元に顔を埋めながら有李斗は話し始めた。
「帰国してからというもの、不安で仕方がない。俺は、あの日のままストップしているのに、お前は凄いスピードで成長していた。何でも1人で熟し、色んな言葉や行動を覚えてて…。あの日の俺の判断は間違っていたんだろうな。多分…。」
「朝も気になったんだけど、有李斗どうしたの?どうしてそんなに寂しい事言うの?僕はここにいるよ?言葉とかは色々覚えたけど、それはね、有李斗と同じ速度で歩きたいと思ったから覚えたんだよ。一度ね、先生に言われたことがあるの。そんなに必死に新しい事を覚えなくてもいいって。でもね、僕は有李斗と同じ速度で歩きたいし、有李斗のように自分がしなきゃいけない事に力を抜きたくなかったの。本当は、何度も今のままでいいかなって思ったんだよ?でもね、それじゃあダメなんだって、それじゃあ、有李斗が帰って来た時に単なるお荷物になるんじゃないかって思ったの。だから、そんな寂しい事言わないで?ね。」
自分の腰にある有李斗の手を握った。
「そうか。でも、そんなに急ぐな。もっとゆっくり成長してくれ。」
「うん。」
お互いに強く抱きしめ合った。
「優の羽、仕舞われてしまったな。」
「うん。でも慣れないから良かった。」
「俺としては、部屋の中ならあった方が楽しみが増えるんだが。」
「もう。有李斗の楽しみは…でしょ?」
途中、小さい声で言っていて聞こえなかったが、その部分は聞こえなくても有李斗には分かっている。
「まあ、そうだな(笑)。でも、それだけじゃないぞ。お前の綺麗な羽をいつも見ていたいんだ。それでな、優にも色々教えてやらなきゃいけない事があるんだ。その1つが、羽の出し入れ。」
有李斗は研究所で、普段の生活の過ごし方を教わって来ている。それを今度は優に教えようと思っていた。
「そうだね。自分で出来るようになれば、前みたいな事にはならないもんね。」
「ああ。どっかで時間を作ってやってみような。」
「うん。」
話は一段落したが、優が有李斗から降りようとしない。ずっと、自分の腰にある有李斗の手を握っていて離さないのだ。そのうちに、有李斗の手を自分の頬に持っていった。そして、手のひらに軽いキスを数ヶ所する。
「優、どうした?」
「うん。有李斗だなあって思って。」
「そうか。」
「うん。」
しばらく静かな時間をそのまま過ごし、その後、リビングへ移動した。
「有李斗、ケーキ食べる?」
さっき冷蔵庫にあったものだろうと思う。
「頂こうか。」
冷蔵庫からケーキを出し、取り分ける。さっきはコーヒーを出したので今度は紅茶を支度した。
「上手に出来てるか心配なんだけど…。どうぞ。」
支度されたものは、やはりさっき見たものだった。一口食べる。
「これは…。あの店のものか?でも、優が作ったように言っていたな。どうやって覚えたんだ?」
有李斗の好きなチョコを使ったケーキ。国内では、あのお店しか作っていないものだ。
「エヘヘ。実はね、あのお店にお願いして教えてもらったの。あのお店、時々お料理教室をやっているみたいなんだけど、ケーキはやってないんだって。だからお願いして教えてもらったの。でもね、レシピは絶対に他には教えないって言う約束で書類も書いたんだよ。まあ、多田さんが一緒にお願いしてくれたから教えてもらえたんだけどね。そのくらい、あのケーキのレシピはお店にとって大切みたい。」
自分がいない間に、そんな事までしていたとは有李斗は思ってもいなかった。あまりの事で言葉が出てこない。ケーキをジッと見つめていた。
「美味しくない?」
有李斗が黙ったままなので優は不安になる。
「有李斗?」
「ありがとうな。美味い。美味いよ優。こんなにしてもらって。これから俺はお前に何をしてやれるだろうか。すまん。いい事言えなくて。でも、教えてもらうって言っても大変だったろ?」
「毎回緊張はしてたけど、教えてくれた人が優しい人だったから楽しかったよ。あ~、でも有李斗にいつ出そうかって思っててね。今日が一番緊張した~。」
優のホッとした顔がそこにあった。自分の為にこんな事までして、愛おしいの大きさが計れないくらいの自分がいた。
今日1日で、こんなにも驚いた日はないし、優への思いが強くなった日もなかった。そして、ケーキを食べ終わってから席を立ち、優の後ろへ行き、抱きしめた。
「俺の可愛い奥さん。こんなにたくさん俺を考えてくれてありがとう。明日からよろしくな。」
「うん。僕の方こそ、よろしくお願いします。僕の旦那さま。」
夜、あのケーキは自分たちが食べる分を残し、残りをみんなの所へ持って行った。
「こんばんは。これ、お裾分けです。」
大の家に上がり、多田へ渡す。
「出来たんですね。」
「うん。有李斗に美味しいって言ってもらえたの。」
「そうですか。頑張って通った甲斐がありましたね。」
「うん。でも2人じゃ食べきれないから、みんなでどうぞ。」
「はい。それじゃあ、食後に頂きますね。ところで、お2人は夕飯はどうするんです?ここで、みんなと食べますか?」
多田に夕飯を誘われ、有李斗に聞いてみる。
「有李斗、夜ご飯どうしよう?多田さんが、みんなと食べますかって。」
「優は、お腹に入りそうか?俺は、今日は食べ過ぎて食事は入りそうにないんだが。」
「僕もお腹いっぱい。でも…。」
「そうだな。じゃあ、少し酒でも飲んで行くか。優は、あれから酒はどうしていたんだ?」
優は、有李斗がいた時に2回ほど飲んではいたが、初めてだった事もあり、酔って大変だった。
「あれからは飲んでないの。」
「そうか。じゃあ、ジュースか何かでいいな。多田、少し酒を飲んで行こうかと思うがいいか?」
「ええ。もちろんです。」
「じゃあ、頼む。優にはジュースみたいなものを頼む。」
「はい。」
「多田さん、僕手伝う~。」
優は多田の傍まで来ると、夕飯の支度や晩酌の支度を手伝った。
「おう、有李斗。あれからどうした?しかも何でこの時間に来たんだよ。」
「今朝は悪かったな。今日は、お互いいなかった時の状況報告とか、俺の荷物の片付けをしたよ。」
「おい、お前~。2人きりでいたのに、してたのそれか?」
大が自分の前にあるビールをクイッと飲んで有李斗に言った。
「まあ、それだけじゃないが。お前に報告する事でもないだろう…。」
「そうだよ大。おまえは相変わらずデリカシーがないねえ。それも含めながら、他のやる事もしていたに決まってるだろう。まったく、当たり前の事を聞くんじゃないよ。」
先生に怒られた大が言う。
「ねえ、何で俺、怒られるわけ?2人とも『冗談』って言葉知ってる?」
「お前のは冗談じゃないだろう。まったくイヤだねえ。こんなデリカシーのない奴を、何で多田くんみたいな繊細な人が好きになったのか不思議でしょうがないよ。」
先生が呆れ顔で話していた。
「あっ、そうだ。有李斗くん、仕事はやったの?」
「いえ。先生の言う通り、数日ゆっくりしてから始めようと思いまして。」
「そうでしょ?もっと2人の空いた時間を埋めてからじゃないと。急ぐのはダメだよ~。」
「ええ。そうですねと言うか、そうでした。」
薄っすらと笑って答えた。
「その言い方は何かあったの?」
「まあ。でも、それ以上は聞かないで下さい。」
有李斗の答えを聞いた大が、からかい始めた。
「先生、こいつ今朝、優とケンカしたんですよ。なあ~。そしたら急に、数日仕事を遅らせて欲しいとか言ってきて。ケンカの内容は知らないんですけど、まあ、大体想像がつきますよねえ。」
ニヤニヤしながら先生に話を振った。
「えっ。帰国早々ケンカしたの?それはダメだよ~。だから言ったでしょ?」
先生まで突っ込んできた。
「ええ、まあ…。でも、ゆっくり過ごす事にしましたので。」
「で、言えないって言うけど、ケンカの原因何?」
「まあ、有李斗の考え過ぎみたいなのが原因じゃないっすかねえ(笑)。」
2人にここまで突っ込まれてしまうと、居た堪れない気分になってしまう。2人がワイワイ話している隙に、優たちのいる方へ避難した。
「多田、悪いな。手間かけさせて。なるべくすぐに帰るから。」
「え?何でそのような事を言うんです?お2人がいいと思うまでいて下さっていいんですよ?」
「ああ。」
避難をしては来たが、別に料理が出来るわけでもないので、ここも微妙に居づらい。そう思っていると、お酒も入り少し気分が良くなっている大が大きな声で呼びながら有李斗の方へ向かって来た。
「おい~、逃げんなよ~。あの後の話し聞かせろよ。先生も聞きたいってよ。ほれ、ほれ。」
有李斗の肩を掴み、強引に連れて行こうとしている。
「何もお前に話す事なんてない。それに、人に話す事でもないだろう。離せよ、おい。」
「いいじゃんか、たまには。お前も、こういう話に付き合えよ。」
「いや、遠慮しておく。俺は、その手の話はできん。2人で話してろよ。」
大があまりにもしつこいので多田が間に入ろうとした。しかし、その前に優が大に言った。
「大、有李斗が本当に困ってる。止めて。大たちは前みたいな有李斗の反応を待ってるのかもしれないけど、それ、まだできないから。悪いけど、もう少しテンション下げて。そんな風にされたら有李斗が疲れちゃう。多田さん、ごめんね。やっぱり帰る。明日は外へお出掛けするから留守にするね。明後日にまた遊びに来るよ。有李斗、帰ろ?」
有李斗の肩にある大の手を外し、優が有李斗の手を掴み歩き出した。
「優?俺なら大丈夫だから。まだ帰らなくても。おい、な?」
有李斗が優を止めるが、優は荷物を持ち玄関へ向かう。
「あっ、先生、すみません。お先に失礼します。おい、優…。」
「あ、うん。有李斗くんごめんね。」
先生の答えを聞けないまま、優に連れて行かれた。玄関外の廊下に出ると優の歩みが止まった。
「優?」
優の顔を覗き込むと、頬を膨らまして怒っていた。怒っている優には悪いが、久しぶりに見たその姿で癒される。
【まるで小動物の怒り方だ。相変わらず可愛いな】
「む~。みんな酷い。元々、有李斗はそんなにお話ししないのに、何でしつこくあ~ゆ~事するの?自分がされたら嫌な筈なのに。酷いよ。」
有李斗が困っていた事を代わりに優が怒っていた。
「優、ありがとうな。でも本当に平気だから。」
「う~ん。でもさ。」
「みんな喜んでくれているんだよ。悪気はないんだ。まだ居たかったろうに、ごめんな。俺のせいで。」
「どうして有李斗が謝るの?悪いのは大たちだから。」
優の一生懸命さが伝わってくる。
「ありがとう。」
その頃、大の部屋では多田が2人を怒っていた。
「何の話をしていたかは詳しくは分からないのですが、有李斗さまは元々そんなに気の利いた話が出来ない人なのに、更に長い間みんなと離れて元のペースに戻っていないのは、お2人は分かっていますよね?それを何であんな風に。お酒を飲んでそうなってしまうのなら、しばらくお酒を禁止にしますよ?」
「「すみません。」」
「明日は、2人で外へ出掛けるみたいなので来ませんが、明後日は来るって優が言ってましたから、来ても今日みたいな事は止めて下さいね。」
「「はい。」」
お酒を禁止にすると言ってくるほど多田を怒らせてしまったと2人は反省した。
☆☆☆☆☆
「はぁ。」
有李斗は部屋に入るとソファに座り、一つ溜め息をついた。
【俺のせいで、みんなには悪い事をした】
以前の自分はどうしていたのかを上手く思い出せない。人とのコミュニケーションが不器用でも問題なくやっていた筈なのにどうも上手くいかない。
「有李斗、疲れたでしょ?」
「少しな。優、悪かったな。」
「え?何が?」
「もう少し、みんなの所にいたかったろ?」
「う~ん。最初はそう思ったんだけど、そうでもないみたい。こうして静かに有李斗といた方が良かったみたい。もちろん賑やかにいるのも悪くはないけど。でも今は静かにいたいかな。」
「そうか。――それでな優。急に話を変えて悪いんだが、ちょっと副院長室へ行ってきてもいいか?あそこにはまだ行ってないから。」
少し仕事の空気を吸って落ち着こうかと有李斗は思ったのだ。
「今からお仕事するの?」
「いや、見に行くだけだ。優も来てくれるか?」
1人で行こうかと思っていたが、優の反応に1人で行くのはまずいと思い、そう聞いた。
「うん。段ボール箱がいっぱいなの。見たら驚くよ~。」
一緒に行こうと話したら笑顔で答えてきた。
「よし、じゃあ行こうか。」
「うん。」
2人で副院長室へ向かった。カギを開け、中へ入る。
「うっ…。」
部屋の半分が段ボール箱で埋まっていた。
「これでは副院長室とは言えないな。」
あまりの酷さに有李斗は驚いた。
「でしょ?(笑)」
「ああ。」
呆れながら先ずはPCの電源を入れた。しばらく換気もしていないようなのでカーテンを開け窓を開けた。電話を見ると、留守電のランプが点滅していた。それを流し始める。すると、どこかの雑誌や新聞社からの内容ばかりだった。
【これじゃあ、優だって仕事は出来なかったな】
これ以上、留守電を流しても意味がないと思い、一括消去で留守電を空にした。こんなに仕事以外からの電話が入っていたのでは今後のセキュリティやら仕事に差し支えるので、番号を変更してもらおうと思った。これ以上、変な留守電を入れられるのは困るので電話の線を抜いた。その間にPCが立ち上がった。メールを開く。こちらも留守電と同じようになっていた。過去の仕事のものを見ても、既に意味がないものばかりなので、こちらも全て削除をする。そして、今まで使用していたアドレスを破棄し、新しいアドレスを1つだけ作っておいた。
【とりあえず、こんなもんか】
「優、電話はしばらく使えないぞ。線を抜いたからな。PCは、今まで使用していたアドレスは破棄したからもうない。新たに1つだけ作ったからな。さて次はこの箱たちか。もう半年以上前のは見ても意味がないだろうな。」
有李斗の話の途中からは独り言になっていた。そして、古そうな箱を手前に持って来て中を見ている。その姿を見て、優はニコニコしていた。
【有李斗のお仕事姿。カッコイイ。また見られて良かった】
優にとっての有李斗の仕事姿はずっと見ていても飽きないものの1つで、とても大切に思っている。だからこそ朝、有李斗に言われて悲しかったのだ。
【やっぱり集中してる(笑)】
「有李斗。」
一度呼んでみたが気付かない。クスクスと笑いながら有李斗の肩を叩き、再度呼ぶ。
「有李斗。」
「ん?あっ、悪い。つい。」
「ううん、いいの。良かった。有李斗のままで。有李斗、少し作業したいでしょ?でも、ここには今はお茶セットとかもないから、僕一度帰って支度してくるね。戻ってきたら一緒にやりたい。」
勝手に仕事を始めてしまったのに、何故か優が満面な笑みでお茶の支度をしてくると言ってきた。
「いや、しばらくやらないって決めたんだ。俺も、もう帰る。」
「いいの。僕、怒ってるわけじゃないの。やっと有李斗とお仕事できるって嬉しいんだよ?今日は、もう遅いからそんなに出来ないけど、それでも一緒にお仕事できるの嬉しい。だから待ってて。すぐに支度して戻ってくるから。ね?」
嬉しそうな顔をして有李斗に言う。
「そうか?じゃあそうしようか。でも、もう遅い時間だから気を付けて行き来しろよ。――いや、やっぱり俺も一緒に戻る。仕事用のメガネを持って来てないしな。一度戻って、お互いに支度をしてから再度来よう。」
「そう?じゃあ、そうしようね。」
自分たちの家へ戻り、有李斗は筆記用具とメガネなどをバッグに入れ準備をした。優は、有李斗がいなくなってから使っていなかった仕事用のバスケットを出し、以前のように飲み物と、ちょっとした食べ物を入れて準備をした。
「優、行けそうか?」
「は~い。行けるよ~。」
今は朝ではなく夜だけども、以前のような掛け声で部屋を出た。
副院長室へ戻り作業を始める。
「優、半年から前のものは返事をしないまま破棄する。もう意味がないからな。だから、こっちの古い箱を見てってくれるか?日付だけを見て、半年より前のものは内容を読まずに破棄する箱へ入れてくれ。破棄する箱を分かるようにしておけよ。俺は、こっちの新しいのを、以前のように仕分けをしていくから。今は21時か。22時半になったら声を掛けてくれ。23時くらいには帰ろう。」
「はい。」
「よし、始めるとするか。」
有李斗の開始の言葉で作業を始めた。2人とも集中して作業をしている。有李斗が集中し始めた時、優は、その姿をジッと見ていた。
【有李斗とお仕事。フフフ】
つい、にやけてしまう自分がいた。
今日は短い時間だったので、すぐに22時半になってしまった。有李斗の肩をポンポンと叩きながら声を掛ける。
「有李斗、時間だよ。」
優に声を掛けられ、有李斗は顔を上げる。
「もうか。早いな。」
「そうだね。時間も短かったから。飲み物、ハーブティーなんだけどいい?」
「ああ。飲むのが楽しみだ。」
持っていた書類を机の上へ置き、優が支度をしているソファへ行く。お互いにとって、意外にも自分たちの家より、ここの方が元の自分たちでいられた事に気付いた。
「疲れてない?」
「お前も大丈夫か?見に来るだけのつもりだったんだが悪いな。付き合わせてしまって。」
「ううん。楽しい。はい、ハーブティー。夜だからカモミールにしたよ。それにクッキー。」
「ああ。このハーブは優が育てたものか?」
「うん。そう。苗も一番手に入りやすかったし、育てやすいって読んだから。でもね、初めてだったせいか途中、白い小さい虫が付いちゃって。先生と色々調べたの。簡単って言われてるみたいだったけど、そうでもなかったの。次は上手に育てられればなあって思ってるの。」
「そうかあ。そんなに手間のかかる花なのか。大変だったな。柔らかい香りがして美味いな。」
「良かった。」
場所は仕事場だけども、ゆったりとした時間になった。
「優の方はどのくらい終わった?」
「僕は1箱かな。書類がきれいに入ってなくて適当に入ってたの。下の方はグチャグチャだったよ。」
「きっと、マスコミとかに仕事を邪魔されて忙しかったのかもしれないな。今度、事務の方へも挨拶に行かなきゃいけないな。」
有李斗は、自分のせいで病院ごと騒ぎに巻き込んでしまったと気になっていた。大の父親にもまだ挨拶に行っていない。普通の生活に戻るには、もう少し時間がかかると考えていた。
「優、明日はいいとして、明後日からしばらく俺に付き合ってくれないか?院長への挨拶も行かなきゃいけない。病院の各課にも。出来れば仕事関係者にも。あとは…、俺の親父だな。親父と言うか早瀬の関係者だ。」
改めて言葉で言うと、顔を出さなければならない所が意外にもあった事に気付く。
「そんなに?」
「ああ。あれだけの騒ぎを起こしたからな。知らない顔は出来んだろ。多田にも同行してもらうつもりだ。」
「うん。分かった。そうだよね。なのに僕、ずっと何もしないでいた。」
「そこは気にするな。ただ、今回からは広川としてではなく、早瀬として一緒に行って欲しい。」
【早瀬として?】
有李斗のその一言で、優は顔を赤くした。そして小さく呟く。
「早瀬として…。」
優のその声に有李斗は気付き、笑顔を向けた。
「緊張するか?」
「有李斗と一緒だから平気。でも、僕が早瀬の名前を使って怒られない?」
「そんな事を気にしていたのか?」
「だって…。」
「お前は堂々と俺の傍にいればいい。俺が選んだ相手だ。周りがどう思おうと、そんなものは関係ない。もし何かを言われたとしても放っておけばいい。そもそもそんな器の小さい奴は早瀬には要らん。」
「はい。」
有李斗の堂々とした言葉に、優は今まで以上に尊敬した。
「よし、じゃあ戻るか。」
「うん。」
帰る支度をする。有李斗は箱を1つ持って帰る事にした。
「有李斗?まさかとは思うけど、それ、持って帰るの?」
「ああ。時間があった時に目を通そうかと思って。ダメだったか?」
「ダメじゃないけども。無理だけはしないでね。」
「分かりました。奥さま。」
優の耳元で囁くように答えた。優は、とっさに耳を押さえた。
「有李斗…、ダメ。」
下を向いて注意をした。
「じゃあ、家に帰ってからと言う事で(笑)。」
有李斗はそう言葉を返した。
「もう~。」
顔を赤くした優が少し怒ったように言い、エレベーターの方へ歩いて行った。誰もエレベーターを使わなかったようで、有李斗たちのいる階にそのまま停まっていた。すぐにドアが開き、2人は乗った。ドアが閉まってすぐに有李斗は停止ボタンを押した。持っていた箱を下に置き、優の目の前まで来て、壁と自分の間に優を入れるようにした。優の顔をジッと見つめる。
「有李斗?どうしたの?あれ?エレベーター停まっちゃったね。どうしたのかなあ。ちょっと待ってて。」
優は何をされているのか分かっていない。有李斗の横を通り、エレベーターのボタンを操作しに行こうとした。すると、有李斗に腕を引っ張られ、壁に追いやられた。
「優…。」
そう言うと、深いキスをした。
「んん…有李斗?どうしたの急に。」
「お前が可愛い仕草ばかり見せてくるからだぞ?」
優にそう答えると、再びキスをした。
「んん…。ダメだよ。こんな所で。」
「そうか?じゃあ。」
と言って、エレベーターの停止ボタンを解除しようとした。解除してすぐ、有李斗の横から手が伸びてきて、その手が再度、停止ボタンを押した。後ろを振り向くと、恥ずかしそうな顔をして下を向いている優の姿があった。
「有李斗の意地悪…。」
優は有李斗の胸にくっ付いてそう言った。
「お前は可愛いな。可愛いからついこうしたくなる。」
強く抱きしめ、優の顔を上に向かせキスをした。
「んん…有李斗…」
「ん?」
「有李斗のキス気持ちいい…」
その一言が有李斗の何かを刺激した。人の目から鳥目になり、途端に黒目の周りの黄色い部分が光りだした。
「有李斗、目、光ってる。」
有李斗の光っている目の横に手を添えた。それに共鳴し、優の目も同じように光りだした。
「お前の目も光ってる。綺麗だ。」
そう言いながらキスをし、優の首元に顔を埋め、ペロリと舐めた。
「はぁん…」
「前はそんなじゃなかったが、ここも随分と反応をするようになったのか。」
ニヤリとしながら優の顔を見た。
「だって…有李斗が…」
「ん?俺がどうした?」
「ん~、もう~。」
有李斗の胸に顔を押し付け、恥ずかしいのを隠した。
【こいつは本当に…】
「お前は何をするにも俺を煽るな。」
「そんな事してないもん。」
「俺にはお前の全てがそう思えてしまう。」
耳に息を吹き掛け、そして舐めた。
「んあぁ…ヤッ…はぁ…」
「しぃー。そんなに大きな声を出したら誰かに聞こえちゃうぞ。」
「そんな事言っても…んん…」
優の反応を面白がるかのように、有李斗は優の色んな所にキスをしていく。
「はぁ…あ…り…ふんぁ…」
声を抑えようにも、有李斗が触る場所にみんな反応してしまい抑えられない。
「有李斗~、んん…あぁ…」
自分の名を呼ばれ、有李斗は一度触るのを止めた。
優の顔を見ると、溶けたような表情をしていた。
【ダメだ。こんな顔を見せられては止まれない】
有李斗の理性が飛び、優のズボンの後ろの方へと手を進み挿れた。
「有李斗、ヤッ、ダメ。」
優は自分のズボンの中にある有李斗の手を掴み外へ出そうとするが、力が抜けているせいか、有李斗の力に勝てないでいる。
「ほんと、ダメって。はぁん…はぁ…ヤッ…アッ…」
有李斗の指が優の中にどんどん入ってくる。空いている方の手で優を抱きしめ、激しいキスもしてきた。有李斗が自分に触れている所すべてが熱くなっているのが分かる。
「んん…はぁ…ダメ…有李斗、助けて…おかしくなっちゃう…」
「おかしくなっていいよ。今まで色んな事を我慢していたんだ。我慢なんかしなくていい。」
優の心の中では、こんな所でと思っているのに、身体は止めちゃイヤだと言っている。有李斗に我慢なんかしなくていいと言われた時、上の方の服を脱がされ胸を攻められた。優は自分の達する時の甘い声と共に、羽が出てくる事を悟った。
「はぁ…ダメ…そんな事言わないで…イヤ…んん…イヤイヤ…はぁ…ダメェ~」
【バサッ】
羽が大きく広がる。
「はぁ、はぁ。有李斗…」
潤んだ目で有李斗を見た。それを見た有李斗は自分も上半身裸になった。そして優の後ろに回り、羽を触りだした。
「んあっ…有李斗っ…」
「ん、いい反応だな。お前のこの姿を誰かに見せたくはないからな。」
そう言うと、有李斗も自分の羽を出した。そして優を壁の方へ向かせ、羽で優を包むようにした。後ろから優の中へ自分のモノを挿れる。
「これなら誰にも見られない。」
「ヤッ…急に…アッ…」
「もっと力を抜いてくれ。そんなに締めるな。」
「はぁ…そんなこと言っても…あっ…」
「お前の中、熱い…」
そんな中、有李斗は一度動きを止めた。
「イヤ…止めないで…」
まずは有李斗の中で、優からのその言葉を聞けた事が嬉しかった。そして、優の中の深い所にゆっくりと突いた。
「はぁん…そんな深い所…」
「ここは良くないか?」
「聞か…ないで…ふぅん…」
優の反応に満足したのか、再度深く突く。そして次は、浅い所から深い所へ一気に突いた。
「イヤッ…はぁん…はぁ…んん…そんなにしたら…」
「そんなにしたらイってしまうか?いいぞ。お前のタイミングで。」
「あぁ…ハァンッ…もう…有李斗…ふぅん…ヤ…いっちゃう…有李斗…イッちゃうよ~」
「いいよ。俺も合わせるから…んん…」
「ダメ…イク…はぁん…イッちゃう…イク~」
「俺もだ。イクッ…くっっ…」
優は、立っていられなくて膝から崩れていった。
「おっと。」
優の腰を支えて、自分が床に座り、自分に向くように足の上に乗せた。優は、力が入らなくて、有李斗の胸に顔を埋めるように寄り掛かった。2人の息遣いがエレベーター内に響く。
「有李斗…。」
意識が飛びそうなのか、とても小さい声で有李斗の名前を呼んだ。
「ん?」
「ううん。何でもない。」
「うん。」
そのうちに、優の寝息が聞こえてきた。有李斗は優を抱きかかえエレベーターを降りる支度をした。荷物をエレベーターの外へ出し、優を副院長室のソファへ寝かせ、フロアーに置いたままの荷物を取りに行った。荷物も全部、副院長室へ入れ、優の傍へ行く。自分が着ていたシャツを優に掛け、再度自分の羽を出し、優にくっ付いてから羽で包むようにした。
【これで寒くないか?】
少し心配だったが、羽は温かいので大丈夫だろうと思う事にした。
【今日は、1日無理ばかりさせてしまったな。でも1年半分と思って許してくれ】
優の髪を触りながら心の中で優に謝った。そのまま有李斗も眠ってしまい、目が覚めた時には既に朝方に近い時間だった。
【少し冷えるな】
自分がそう思ったので、優の身体を少し触り、冷えていないか確かめる。優は冷えていないようだったので安心した。
【そう言えば、今日は優が何処かに連れて行ってくれると言っていたな】
一度だけ優と外へ出かけた事はあるが、その時は例の事の真っ只中だったので、みんなと一緒に出掛けた。でも今日は違う。2人でずっと夢見ていた2人だけの外出だ。それだけで有李斗は嬉しかった。
「今日は何処へ連れて行ってくれるんだ?」
小さい声で言いながら優の首に軽くキスをした。
「ん~。」
目を覚ました優が、有李斗の方を向いてジッと見てきた。でも寝ぼけているのか、ジッと見たまま動かないでいた。
「優、おはよう。」
声を掛けてみる。しかし、ジッと見ているだけだった。
「優?」
もう一度、声を掛けるも変わらないのでキスをしてみた。
「んん…」
それには答えてきたので、キスを止めた後はそのままにした。有李斗もジッと見つめ返し、優の髪を触り、唇以外の所に軽くキスを落としていった。
「有李斗…おはよう…」
小さい声で言ってきた。
「おはよう。」
有李斗も、それに答える。
「身体動くか?それに寒くないか?」
「寒くない。有李斗が温めてくれていたから。でも有李斗は寒かったでしょ?ごめんね。風邪引かないかなあ。」
「気にするな。少し、このまま待っていられるか?何か羽織るものを持ってくる。」
「平気。僕も一緒に行く。」
「起きられそうか?」
「うん。」
優に掛けていたシャツを着てから荷物を見直す。家から持ってきた物以外は置いていく事にした。
「よし行くか。」
優に背中を向ける。
「いいよ。自分で…ね。」
「ダメだ。絶対歩けないから。」
「でも…。」
優がなかなか頷かないので、有李斗は優の両腕を自分の首へ持って行った。
「有李斗~。」
「ん?いいから。」
「ありがとう。」
有李斗におんぶをしてもらい、部屋を出てエレベーターへ乗った。昨夜の事を思い出す。昨日のその時まで何度も身体を繋げていたのに、それでもエレベーター内ではあんなに激しかった。長い時を離れていたとは言え、それまでだってお互いに何度も求め合ってきた。それなのに、まだ足りないのではないかと思うくらい自分の身体は有李斗を求める。そして、その度に有李斗の事が分かるような気がして、どんどん愛していく。この先、この人を何処まで愛していくのだろうと、有李斗を愛すると言う気持ちが自分の中だけでは収まり切れなくなってしまうのではないかと思っていた。そして、有李斗にギュッとした。
「どうした?」
「ううん。」
「うん。」
お互い目が覚めてから思ったよりも会話をしていない。でも、それがまた甘く温かい空気なのだ。それを感じながら自分たちの家へと戻った。
優をソファへ降ろす。
「少し、ここにいてくれ。」
有李斗は優を降ろすと、玄関に置いておいた荷物をリビングへ持ってきた。その後、お風呂の準備をし、優への飲み物の支度をした。
「ホットミルクでもいいか?少し甘めにしてある。今朝は少し冷えていたからな。それに…体力も随分使わせたしな。」
ニヤリとして優を見た。
「もう~。――フフッ。ありがとう。僕は有李斗が温めていてくれたから平気だけど、有李斗は何も掛けてないし、それどころか上は裸だったじゃない。ごめんね。風邪引いてないといいけど…。」
「風邪?もし引いていたら、奥さんに看病してもらうから大丈夫だ。」
「有李斗ったら~。」
2人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
「今日出掛けるのは午後からでも平気か?何処かに連れてってくれるんだろ?」
「うん。午後からの方が少し暖かくなってていいかも。」
「そうか。楽しみだ。夕飯は外で食べよう。」
「うん。」
この後は、ゆっくりお風呂へ入り、少し冷えた身体を温め、優をベッドで休ませた。
「まだ、休んでいろ。ただ、まだ持って来ていない荷物があるんだ。それを取って来るな。ちゃんと休んでろよ。家事も戻ったら俺がやるから。気にせず寝ていろ。」
「うん。お言葉に甘えて。ありがとう。」
優が一言目で言う事を聞く事はほとんどない。かなり身体が疲れてしまったのだと有李斗は思った。
「ああ。じゃあ、すぐに戻るから。何かあったら連絡しろ。ここにスマホ置いておくな。」
「え?でもこれ置いてってたら…。」
「それは、お前のだ。お前だって必要だろ?それとPCもあるからな。昨日、渡しそびれていたんだ。」
「こんな高いもの…。有李斗のだけで十分なのに。」
「以前はそれでも良かったが、もう外にも出られるしな。1人で買い物行ったり、こうやって別行動になった時は必要だろ?それに、調べたり音楽聴いたり、お前なら動画を見たりもするだろうし。PCだって、ここに2台あれば何かの時は副院長室まで行かないで、ここで仕事できるしな。そう言う事だ。使わなきゃ使わないで持っているだけでいいんだから。」
「ありがとう。でも何かちょっと寂しい。」
優の言いたい事は分かる。
「言うと思ったよ(笑)。でもそんなに深く考えるな。今は1人1人が持っている時代だ。持っていて当たり前な物だから深刻に考えるな。な?」
「うん。」
「よし、荷物を取ってくるな。いい子にしてろよ?」
「うん。気を付けて行ってらっしゃい。」
そう言うと、優から有李斗に軽いキスをした。
「行ってきます。」
有李斗は副院長室へ行った。有李斗の姿が無くなり、優のいる寝室がシーンと静まり返った。途端に寂しい感じの空気が優を纏う。
【僕、どんどん寂しがり屋になっちゃう。研究所にいる時はずっと1人だったのに…】
そう考えているうちに眠りについた。
☆☆☆☆☆
有李斗が副院長室へ着くと、中には大がいた。
「おう、おはよう。お前、まさかとは思うが昨日仕事したのか?」
部屋の半分に積み重ねていた箱たちが分類され、『破棄するもの』と優の字で書かれた箱を指をさし言った。
「ああ。あの後、優と少しやったんだ。そんな長い時間やってないから、ほとんど変わっていないがな。」
「はあ…。お前何やってんだ?まあ、昨日は俺と先生がふざけ過ぎたから、お前らに悪い事をしたんだけど、だからって仕事すんなよ。」
「いや、お前が思ってる感じじゃないんだ。あいつも仕事好きだからな。まあ、俺と一緒にって言う限定なんだが。だから楽しくやったんだ。気にするな。」
大に話しながら昨夜の事を思い出す。思い出すと今更、自分の行為が恥ずかしくなった。
「お前、顔赤いぞ。風邪か?」
大は、顔が赤い=風邪とすぐに言うので、そのあたりは助かった。
「引いていないとは思うが…。環境も変わったしな、気を付けるよ。」
有李斗は、そう誤魔化して知らない顔で答えた。
「で、今は1人で何しに来たんだ?今日は優と出掛けるんじゃなかったのか?」
「忘れ物を取りに来たんだ。出掛けるのは午後からだ。優は、家事の手が離せないから俺が1人で来た。」
「ふ~ん。っで、仕事、家に持ち帰るんじゃないよなあ?」
少し硬い顔で有李斗を見た。
「1箱だけな。家にも仕事用のPCを2台にしたんだ。ノートだけどな。だから空いた時間にやろうかと思ってな。それと、半年より以前のものは何もせず破棄するからな。半年以上も前のものなんて答えられても相手も困るだろうからな。それでだ。院内の要望書は新たに提出して欲しいと伝えてくれないか?新しいアドレスはこれだ。」
昨日新しく作ったアドレスのメモを大に渡す。
「今までのアドレスはもうないから送られても分からんからな。それと電話なんだが、線は抜いてある。新しい番号をお願いしたい。申し訳ないな…。あの状態では、優はここにはいられなかったな。可哀想な事をした。お前も、この部屋居辛かったろ?すまなかった。」
「ああ。まあ、あれだけの事件だからな。面白がる奴がたくさんいたんだろう。だからって、お前が謝る事ないだろ?ほんと相変わらずだな(笑)。」
「笑うな。それとな、明日、お前の親父さんの所へ挨拶に行こうと思う。空いている時間を教えてくれるか?それに、各科にも行こうと思ってる。それとな、」
「おい、待て。」
続けて有李斗が話そうとしたのを、大はストップをかけた。
「まさかとは思うが、病院と関わっている所、全部行こうとは思ってないよなあ?」
「いや、行こうと思っているが。だって、こんなにだぞ?回答しなかったの。それに、他の関係者の所にもマスコミとか押し掛けたろうしな。黙っておけんだろ。」
段ボールの山を見ながら話す。
「もしかして、それと同じように早瀬の方もやろうとしてるか?」
「ああ。まあ。」
「おい、おい。」
頭を掻きながら呆れた表情で有李斗を見た。
「お前なあ。何でそんなに1人で背負おうとする。そんな事はしなくてもいい。病院の方は特にだ。あのなあ、この病院は特殊な契約のある病院って知っててみんな働いてるんだ。今回の事も、そういう事があるって言うのを分かっていてみんな働いてんだよ。それでも、自分の力を使って欲しいって奴らが働いてる。その分、給料も相当高いしな。だから病院に関しては気にするな。いいな?早瀬の方だって同じだと思うぞ?じゃなきゃ、悠一さんが何も言わないって事はないだろうし。親父さんの性格を考えても、こんな事で騒ぐ奴なんて傍に置かないだろう。お前、無駄に働き過ぎ。分かったか?そんなのに時間使うなら優とゆっくりいろよ。な?」
大の言っている事は分かる。でも、有李斗の中では納得できないでいる。
「しかしなあ…。」
「有李斗、有李斗よお。お前の気持ちは分かった。でもな、行くならお前だけで行け。――だってそうだろ?優も一緒にって思ってるだろうが、頭を下げてるお前見て、あいつがどう思うか分かるか?自分が発端で、しかも父親が広川本人だぞ?」
有李斗は、大に言われて初めて気付いた。優も一緒に行くと言う事は、自分たちが騒がせた事だけではなく、父親(広川)や祖父(現・厚生大臣)の事まで頭を下げなければならないと言う事だ。
「そうだな。お前の言う通りだ。俺はそこまで考えられなかったよ。」
「ああ。だから行かなくていい。いいとこ、お前らが仕事に復帰したって言う報告でいいだろう。まあ、看護師たちに菓子折りでも置いてくりゃいいんじゃねえか?女の人は甘い物好きだしなあ。それに、一番矢面になるのも看護師。患者の対応も看護師だしな。病院なんて、ドクターじゃなくて看護師で成り立ってんだよ。ドクターなんて看護師の1/10程度だよ。総婦長の所に持って行きゃあ、ほんの数十分で、その時に勤務している看護師たちの口に入るさ。」
「分かった。お前は凄いな。俺には、俺には~。」
そう言うと突然、有李斗は両手を上にあげて伸びをした。
「俺には、そこまで考えられなかったよ。いつも目先の事しか見えてないんだな。ふう。」
「もっと肩の力を抜け。本来のお前は、俺なんかよりもっと先々まで見える奴だ。今は色々あって肩に力が入ってるだけだ。」
「そうか?お前は買い被り過ぎだよ。俺はそんなに大した男じゃない。にしても、いつも悪いな。」
「俺だってお前にはいつも助けられてる。楽しい食事の時間とか、こういう事とか(笑)。お互い様だろ?」
積み重なった箱を指さしながら言う。
「俺は特に何もしてない。まあ、箱の整理くらいか?(笑)。これは何とかするから。ただ、以前も言ったように隠さず全部出せよ?じゃないと時間の配分ができんからな。」
「了解。」
「さて、俺はこれを持って帰るな。」
「ああ、早く愛の巣へ戻れ。」
最後は、大と冗談を言いながら部屋を後にした。
【もし今、あいつと会ってなければ俺は優に酷い事をしていた。大といると、俺は目先しか見ていない事がよく分かる】
自分がしようとしていた行動を考えながら家へ戻った。部屋へ入り寝室にいる優を見た。身体がかなり疲れているのだろう。そのままドアを閉め寝かせておいた。そして家事を始める。自分がいない間、ずっと優に任せていたので、掃除も1つ1つ物を確認しながらやった。テレビ周りや自分たちの母親の写真周りにぬいぐるみや置物が増えているのに気付いた。
【どうりで部屋が明るい感じになっていたわけだ】
食器棚の中も、敷物などが明るい色の物が増えた。食べ物だけではなく、自分の持ち物が変わっていくのが分かる。でも全くイヤな感じはない。寧ろ逆だ。優と楽しい時間を過ごしている時の色と同じような色の物を傍に置いておきたくなるのだ。
掃除を終え、洗濯を干す。ベランダへ出ると、優の育てているものたちが太陽の方へと伸びようとしているように見えた。
「留守番ご苦労さん。優の話を毎日聞いてくれていたのだろう?ありがとうな。」
自分が研究所から帰って来た時、優はハーブたちに話し掛けていた。それと同じように有李斗も話をしていた。
洗濯物を干した後、ハーブたちに水をやる。これらが自分や優の口に入るのかと思うと、ただの水やりも楽しかった。
この後はコーヒーを片手に、副院長室から持ってきた箱から書類を出し目を通す。その姿を寝室から出てきた優が見ていた。
【良かった、有李斗がいて。起きて夢だったらどうしようかと思った】
目が覚めた時、隣に有李斗がいなかったので不安になってしまった。身体が上手く動かないので、ゆっくり有李斗の方へ歩く。有李斗は立ったまま、いつものように集中している。優が自分の方へ来ている事を知らない。優はやっと有李斗の所まで来た。そして後ろから抱きついた。
「有李斗…。」
「おおっ。」
集中していたせいか、急に自分に衝撃が加わり、有李斗としては珍しく驚いた声を出した。
「エヘヘ。驚かせてごめんなさい。おはよう。」
「ああ。おはよう。よく眠れたか?」
「うん。いっぱい眠れた。僕だけ寝ちゃってごめんね。」
「気にするな。それより立っていて辛くないか?ここに座れ。」
ゆっくりと優を座らせた。
「い、痛い…。」
優は、思わず口に出してしまった。急いで自分の口を手で押さえる。有李斗はその言葉を聞いて言った。
「すまん。そうだよな。大丈夫なわけないな。お前を無理させた。無理して動くな。今、飲み物を持ってくるな。何を飲む?」
「お水がいいかな。」
「分かった。」
ミネラルウォーターを持ってきた。ソファをベッドの形にする。
「横になれ。座っていたら辛いだろ?」
「じゃあ、あと少しだけ横にならせてもらうね。」
有李斗の言葉に甘え、ソファに横になった。
「何処が辛いんだ?」
「え~、いいよ。平気。」
「この辺りか?」
有李斗が、優の腰から太ももにかけてを押したり叩いたり擦ったりしている。
「ありがとう。有李斗にこんな事させちゃってごめんね。」
「お前が謝るな。俺が…な?…すまん。」
言葉の途中、恥ずかしかったのか、有李斗は言葉を濁して答えた。
「うん。フフッ。」
「笑うな。」
「うん。」
こうして有李斗は、しばらく優の身体をマッサージしていた。
「優、あのな。明日、色んな所に挨拶回りするって言ったろ?それな止めようと思う。ただ、俺の親父の所と大臣の所は行こうと思う。今回の件もなんだが、お前と結婚する事をきちんと伝えようと思ってな。そして、婚姻届けを出す事も言おうと思ってる。今は、同性同士でも出せるからな。それでだ。優、一応、結婚しようとは2人で決めたが、婚姻届けにサインはしてもらえるだろうか。」
有李斗は、用意していた婚姻届けを自分のカバンから出した。有李斗の名前と印は既にされていた。それを優に渡す。それを見て優は真面目な顔で話をしてきた。
「ねえ、有李斗?本当に僕の名前を書いていいの?僕ね、同性だから言葉だけの結婚でもいいと思ってたの。それに、僕は普通じゃないし。でも有李斗は早瀬家の人でしょ?言葉だけならば、何かあった時に逃げられるよ?有李斗がそうしたい時の為に、それでもいいってずっと思ってた。でも、これに僕が書いて提出をしてしまったら、それが出来なくなる。それでもいいの?」
優の言葉を聞いて、有李斗は驚いた。
「そんな風に考えていたのか。俺の事ばかり考えていてくれていたんだな。――でもな、それを思っていたら、お前にプロポーズなんかしない。俺はそんなに安くないぞ?それこそ早瀬の人間だからな。お前を置いて逃げようなんて、そんなのは有り得ない。じゃなきゃ、あんな見も知らない国の研究所になんか行くものか。」
「有李斗、怒らせてたらごめんね。でもね、それでも――」
優が話の続きを言おうと思ったら、有李斗が自分の唇で優の唇を塞いだ。
「もう言うな。」
そして、優を押し倒し、目を光らせ、羽を出し、そのまま話を続けた。
「お前が普通じゃないと言うのなら俺のこれは何だ?他の奴とは違うだろう。でも、お前とは同じだ。俺は他の奴なんかどうでもいい。こうやってお前と同じであればそれでいい。早瀬家?それこそどうでもいい。とやかく言う器の小さい奴なんか逆に早瀬には要らん。それでもダメか?」
最後の一言だけ、寂しそうな顔をして言っていた。少し間を取ってから、優が自分の上にいる有李斗に軽いキスをした。
「ありがとう。旦那さま。本当に貴方の奥さんになるよ?早瀬になるよ?後で後悔してもダメなんだから。本当にもう、有李斗から離れてあげないよ?それでもいい?」
「ああ。俺もお前からは離れないよ。お前が俺から逃げても何処までも追いかけてやる。」
有李斗の目から優の上に涙が数滴落ちてきた。
「うん。ちゃんと追いかけてきて。」
「ああ。何処までもな。」
優を抱きしめ深いキスをした。そして、お互いに身体を起こす。
「ゆっくり起きろ。」
「うん。」
起きてから優は婚姻届けにサインをした。2人の名前が書かれた届けを2人でしばらく見ていた。
「証人を、大と多田にしてもらおうかと思っていたんだが、俺の方の者ばかりを使うのもどうかと思ってな。だから、俺の親父と大臣にしようかと考えている。どうだ?」
「うん。有李斗の言う通りにする。」
「分かった。じゃあ、大臣に連絡を取ってくれるか?」
「はい。」
有李斗は自分の父親に、優は祖父である大臣に連絡をした。
「俺の親父は、明日は1日会社にいるらしいから、適当な時間に行けるぞ。」
「おじいちゃんも、明日は1日空けておくから都合のいい時間にどうぞって。でも、普通の所では会えなくて官邸に来て欲しいって。入口の人には写真と名前を伝えておくからって。」
「そうかあ。官邸かあ。さすがに俺でも不安だ(笑)。」
「そうだね。僕だって行った事ないし。何だか会議の準備があるから、官邸でって言ってた。」
「そ、そうか…。」
有李斗の様子を見て、優がクスクスと笑う。
「有李斗のそう言う姿、僕だけしか知らないんだね。」
「笑うな。俺だって、さすがに官邸なんて縁がないからな。」
「うん。僕だって。孫でも有李斗と同じだよ?そこまで、まだお付き合いないもの。」
「まあ、そうだよな。」
「うん。」
しばらく明日のスケジュールを2人で確認をしていた。
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