序章

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序章

「あぁ~可愛いなぁもう、すりすり」 ある建物の自室で一枚の写真を見ながら口角を上げ頬を擦り寄せる。恐らく鏡を見れば実にだらしない表情になっているだろうが、自分の息子の幼き頃の写真を見てこうならない親が果たしているのだろうか……否、いないに決まっている。 この大き過ぎず小さ過ぎずの身長、前に会って測った時は167だったな。そして程よく艶のある髪に、頬は白玉のようにもちもちだった記憶がある。 完璧すぎないか? 「うへ、うへへ……父、九条一馬(くじょうかずま)は愛している! 愛しているぞ! 我が息子!」 近所迷惑なんて言葉ゴミ箱に捨てて脳には存在しません。と言わんばかりに奇声をあげた途端、扉がノックされる。 「誰だー? 今は息子の写真を愛でる事で忙しいんだ 」 こっちの事はお構い無しにゆっくりと木製の扉が軋みながら開くと、そこには紅い眼をした一人の少女ではなく幼女が呆れた様子で立っていた。 「なんだお前か、さっきも言ったろ忙しいんだ」 「はぁ……そのようね。(あるじ)である貴方とは長い付き合いだもの、もういい加減さっきの様な色悪い発言、挙動にも慣れてきたわ。でもね?もう少し声量を下げて欲しいのだけれど?」 穏やかな声色で話す彼女は、レティシア・ブラッディースピア。 俺をこの世界に連れてきた張本人で、サファイアの様に蒼く透き通った短い髪、深く紅いルビー色の瞳、そしてクリーム色の肌を包む白を基調としたドレスには胸元、腰の部分に赤いリボンが施され背中からは立派な翼が生えた吸血鬼だ。 「気色悪くねぇだろ。父親が息子を見ながら微笑んで何が悪い、それよりわざわざそんな事を言いに来たのか?」 「いいえ? 本題は私の食事を取りにきたの。ちゃーんと補充してわるよね? 」 「あぁ……その本棚の1番上にある。だが! 3つまでだぞ。わかったな?」 「はいはい」と適当な返事をしつつ自分より背の高い棚を1度見上げてから、飛べば良いものを律儀気に小さな靴を脱いで、近くに置かれた箱を2つ積みあげその上に乗り最上段に置かれた皮袋を背伸びしながら取ろうと頑張っている。 ここでレティシアの変わった特徴を1つ。 まず、レティシアは一般的な吸血鬼とは違って血があまり好みではないらしく、|いちご味の飴を主食にしている。毎日、朝、昼、おやつ、晩に3つ飴を食べただけで満腹になる個性的な体の構造をしているのと、今のような空腹状態では思考力、観察力、理性などが低下する。 つまり、今のレティシアは――馬鹿なのだ。
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