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6
「まあしばらくはわたしや梢の元で仕事を覚えるといい。指導はするからな」
暗雲を背負っているオレに気付かず、親父は話を進める。
「だが感覚的なことについては、後にちゃんと学んでもらうからな。お前の体で」
ニヤッと親父が笑うものだから、背筋にぞわっと鳥肌が立った。
「かっ体って…」
「まあそこら辺は梢」
「はい」
「お前に任せる。お前の指導で、コイツを成長させてやれ」
「かしこまりました」
何で当事者のオレ抜きで話が進む?
「だがしばらくはわたしの元でな。あっ、ちなみに母さんにはこの会社のことは内緒でな」
「はあ?! 母さん、この会社の内容知らないのかよ?」
「詳しいことは知らせていない。お前と同じく、普通の人材派遣会社だと思っているだろう」
「…今後真実を告げる気はないのか?」
「無いな。いくら妻でも、教えられない内容だろう?」
ああ、そこは常識的なんだな。
妙に感心しながら、母親のことを思い浮かべる。
温和なお嬢様育ちの人で、ちょっと天然が入っている。
親父は母にメロメロで、いつまでも仲が良い夫婦だ。
確かに考えてみれば、こんな会社の内情を知っている人ではないな。
つーか理解できないだろう。
「母さんには普通の会社勤めと言っておけ。余計な心配はかけたくないだろう?」
「それはお互い様! …とりあえず、親父と梢さんに引っ付けばいいんだな?」
「ああ。しばらくは秘書のような役目をしてもらう。梢の他にも秘書はいるからな。そいつらから学ぶことも多いだろう」
「へいへい。頑張りますよ」
「コラ、ここは『はい』だろ?」
「はいはい」
あくまでも反抗的な態度を取っていたオレだが、まだこの会社のことを、よく理解していなかった…。
―その後。
親父と梢さんに付き添われ、紳士服店に行って、オーダーメイドでスーツを頼んだ。
春夏秋冬、四つの季節に合わせて、四種類のスーツを各10着ずつ。
シャツから靴下まで、オーダーメイド。
親父から就職祝いだと言われた。
相変わらず親バカすぎる。
翌日からは梢さんと一緒に、仕事を始めた。
根本的には人材派遣が仕事内容なので、学ぶことは山のようにあった。
何より客は個人が多い。
ゆえに秘密にすることも多く、メモなどできず、頭の中に叩き込むことが多くて目眩がする。
そして夜ともなれば、秘密のパーティーに親父のお供として行く。
『常連客』に顔を見せる意味もあり、緊張しぱなっしだった。
…確かに社会的地位を持つ人が多かったな。
ちょっと闇にウンザリしてしまう。
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