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「まあ深く言うと、女性のみならず、老若男女全ての性格を見抜ける人間になってほしいんだ。まずは観察力をみがき、経験を積むのがお前の仕事だ」
「つまり客の要望に応えられる人間を、ちゃんと見出せってことだろ? それなら親父の仕事を見て、学べばいいだろう?」
「いや、わたしの仕事を見ているだけではダメだ。ちゃんとお前自身の感性をみがかなければ、意味がない」
「チッ!」
あまりにハッキリとした親父の言い方に、思わず舌打ちをする。
「で? どうなんだ?」
「…童貞、じゃない。中学の時に、捨てた」
渋々答える。
「付き合った人数は?」
そこまで言うのかよ。
「……三人」
「三人か。少ないな」
余計なお世話だっ!
しかし文句を言うよりも前に、昔の苦い思い出がよみがえった。
付き合ったのは三人。
いずれも肉体関係はあった。
けれど長続きはせず、一年も経たないうちに別れた。
…三人とも、だ。
いつもオレがフられる立場だった。
しかし彼女達は涙を浮かべながら、オレにこう言った。
「あなたはアタシのことを愛していない!」
そういうつもりは、無かった。
けれど強く否定もできなかった。
来る者を拒むことなく受け入れてきたオレは、多分まだ真剣に人を愛したことがない。
原因は将来のことだった。
親父の会社を継ぐという自覚は、物心つく前からあった。
そのことで頭がいっぱいで、普通の恋人関係が上手くいかなかった。
そりゃそれなりに、彼女達のことは好きだったけど、夢中にはなれなかった。
それは性生活にも出てて…。
…あっ、落ち込んできた。
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