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7
目まぐるしく月日が流れ、気付けば夏になっていた。
すっかりスーツも着慣れて、仕事も何とか一人でこなせるようになった。
それでも他の秘書達を頼ることも多く、まだ半人前だった。
そんな時に、梢さんから呼び出された。
会社の秘書室に行くと、外に出ることを言われた。
そのまま梢さんの運転する車で、とあるホテルに連れてかれた。
「梢さん、今日も何かパーティーでもあるんですか?」
この頃には敬語を使うのはオレの方で、梢さん達はくだけた口調になっていた。
「ううん。今日は特別なの」
梢さんの含み笑いに、何故か悪寒が走った。
ホテルに着くなり、最上階のロイヤルスイートルームに向かった。
「親父が待っているんですか?」
「いいえ。予約したのはあたしだし、使うのは若様よ」
「オレ?」
何かホテルの部屋を使う用事があっただろうか?
オレは必死に思い出そうとした。
けれど思い当たることはなく、首を傾げた。
「思い当たらないんですけど…」
「まあコレを見て」
梢さんはカバンからファイルを取り出した。
それを受け取り、中に眼を通す。
ファイルには女性達の写真が貼り付けてあった。
10代に見える女の子から、それこそ60代ぐらいの女性まで。
全身のと、顔がアップの2種類の写真があり、けれどプロフィールなどは一切無かった。
「ウチの会社の登録社員達ですか?」
「まあそうね。主に夜の担当ね」
夜…という言葉に、思わず頭痛がする。
でもファイルを渡されたということは、仕事の意味があるのだろう。
「この女性達の顔を、覚えろということですか?」
それなら会社内でも良かった気がするが…。
「えっ! 覚えられるの? ざっと50人近くいるわよ?」
「覚えろと言われれば、ある程度は覚えられますが…」
記憶力がいい、というよりは、集中力には自信がある。
「うん、まあ覚えてくれるなら、それに越したことはないんだけど…」
そういう梢さんは、どこか歯切れが悪い。
目線も泳いでいる。様子が変だ。
「ねぇ、若様。どの娘が好み?」
「好み?」
おかしなことを聞くもんだ。
社員に対し、好みも何もないだろうに。
「そう。実はね、この中にいる女性達に、若様の相手をしてもらうことになっているの」
…その言葉を理解するのに、2分ほどかかった。
「…はい?」
「はじめて出社した時のこと、覚えてる?」
「忘れたことは一日たりともありません」
あんな衝撃的な日、忘れたくても忘れられない。
「うん。それでね、社長があたしに若様の教育を任せたでしょ?」
「ええ…」
「それが性教育も入っているの。若様にもっと女を知ってもらいたいのよ」
……そこは理解したくない。
「そっそりゃあオレはあんまり、その、女性を知りませんが、こんな形でですか?」
オレはファイルと梢さんの顔を交互に見た。
「ええ。彼女達は慣れているし、きっと良い先生になってくれるわよ」
「えっ…でも、年齢結構バラバラですよね?」
さっきも思ったが、10代から60代までそろっている。
60代になると、母より上だ。
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