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目まぐるしく月日が流れ、気付けば夏になっていた。 すっかりスーツも着慣れて、仕事も何とか一人でこなせるようになった。 それでも他の秘書達を頼ることも多く、まだ半人前だった。 そんな時に、梢さんから呼び出された。 会社の秘書室に行くと、外に出ることを言われた。 そのまま梢さんの運転する車で、とあるホテルに連れてかれた。 「梢さん、今日も何かパーティーでもあるんですか?」 この頃には敬語を使うのはオレの方で、梢さん達はくだけた口調になっていた。 「ううん。今日は特別なの」 梢さんの含み笑いに、何故か悪寒が走った。 ホテルに着くなり、最上階のロイヤルスイートルームに向かった。 「親父が待っているんですか?」 「いいえ。予約したのはあたしだし、使うのは若様よ」 「オレ?」 何かホテルの部屋を使う用事があっただろうか? オレは必死に思い出そうとした。 けれど思い当たることはなく、首を傾げた。 「思い当たらないんですけど…」 「まあコレを見て」 梢さんはカバンからファイルを取り出した。 それを受け取り、中に眼を通す。 ファイルには女性達の写真が貼り付けてあった。 10代に見える女の子から、それこそ60代ぐらいの女性まで。 全身のと、顔がアップの2種類の写真があり、けれどプロフィールなどは一切無かった。 「ウチの会社の登録社員達ですか?」 「まあそうね。主に夜の担当ね」 夜…という言葉に、思わず頭痛がする。 でもファイルを渡されたということは、仕事の意味があるのだろう。 「この女性達の顔を、覚えろということですか?」 それなら会社内でも良かった気がするが…。 「えっ! 覚えられるの? ざっと50人近くいるわよ?」 「覚えろと言われれば、ある程度は覚えられますが…」 記憶力がいい、というよりは、集中力には自信がある。 「うん、まあ覚えてくれるなら、それに越したことはないんだけど…」 そういう梢さんは、どこか歯切れが悪い。 目線も泳いでいる。様子が変だ。 「ねぇ、若様。どの娘が好み?」 「好み?」 おかしなことを聞くもんだ。 社員に対し、好みも何もないだろうに。 「そう。実はね、この中にいる女性達に、若様の相手をしてもらうことになっているの」 …その言葉を理解するのに、2分ほどかかった。 「…はい?」 「はじめて出社した時のこと、覚えてる?」 「忘れたことは一日たりともありません」 あんな衝撃的な日、忘れたくても忘れられない。 「うん。それでね、社長があたしに若様の教育を任せたでしょ?」 「ええ…」 「それが性教育も入っているの。若様にもっと女を知ってもらいたいのよ」 ……そこは理解したくない。 「そっそりゃあオレはあんまり、その、女性を知りませんが、こんな形でですか?」 オレはファイルと梢さんの顔を交互に見た。 「ええ。彼女達は慣れているし、きっと良い先生になってくれるわよ」 「えっ…でも、年齢結構バラバラですよね?」 さっきも思ったが、10代から60代までそろっている。 60代になると、母より上だ。
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