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「私、マサの存在に甘え過ぎてた。本当は一緒に帰ってきたかった。でも、そこまでしたら本当にもう後戻りできなくなりそうで……」
「それで、アオイは先にホテルを出てマサ君を残してきたってわけだね」
「本当はもっと一緒にいたかった。マサと」
「でも、その感情は仁君との関係から来る寂しさから逃げてるだけかもしれないと思う、と」
「うん」
アオイはゆっくりうなずいた。ひと通り話し終え、ちょうど二人の頼んだ物が運ばれてきた。ウェイトレスが立ち去ると、今度は真琴が中心に話をした。
「そうだね。現実逃避の可能性もある。ただ、本当にそれだけなのか、私からしたら疑問だな」
「どういうこと?」
アオイは前のめりになる。真琴は穏やかな顔つきのまま諭すように言った。
「仁君という旦那さんがいてもいなくても、アオイはマサ君に惹かれてたんじゃないかな」
「そうなのかな……?」
「恋は理屈でするものじゃないからね~。仁君とうまくいってたとしても、アオイの目にはマサ君が魅力的に映ったかもしれない。アオイは今、マサ君に惹かれる理由や彼を諦めるきっかけをあえて懸命に探してるように見える。そこへ仁君との関係を絡めて考えることで自己の正当性を見出そうとしている」
容赦がない指摘だった。臨床心理士を目指している親友の考察にドキリとする。目を逸らしていた本性と向き合わされるようだ。
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