目覚めの脆さ

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 ラブホテルに置いていかれるという、まるで少女漫画のヒロインのような経験をしてしまった。男の自分がまさかそんな体験をしてしまうなんて。恥ずかしいとかかっこ悪い以前に、ものすごく寂しいものなのだとマサはこの日初めて知った。  ヤリ捨てされた女の人の気持ちってこういう感じなのかな。  これまで付き合ってきた女性に自分がやってきたこと。相手の気持ちに寄り添わずに突き放すような言動をいくつ重ねたか分からない。その頃の罰が下ったのだと思った。 「アオイ……」  無意味にアオイの名前をつぶやく。  彼女は無事に家まで帰れたのだろうか。タクシーや電車といった公共機関で帰れなくもないが、車の方が早くてストレスが少ないのはたしかだった。アオイが無事帰宅できたのかを確かめるのはもちろん、海に付き合ってもらったお礼の電話なりラインをしたい。しかし、それは叶わなかった。バイト先の電話番号しかアオイとつながるツールはない。  こんな時、本物の恋人同士だったら周りの目を気にせずドライブを兼ねた帰宅ができたかもしれない。アオイはきっと、自分の立場を意識して先に帰ったのだろう。 「それが俺達の関係、か」  冷えたシーツに手のひらを滑らせる。眠る前までアオイはそこにいたのに、今はその気配すら残っていない。  眠ってしまったのがもったいないと強く思う。寝なければもう少し彼女の声を聞いていられたかもしれないのに。なぜ寝てしまったのだろう。 「もう、会いたい……」  ベッドの上で膝を抱え、マサは消え入りそうな声音で届かない思いを口にした。
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