30人が本棚に入れています
本棚に追加
私は仁の妻なんだ。他の人に揺らいじゃいけない。もう、絶対に。
身勝手だと分かっている。さんざん甘えておいてそっけなくするなんて、マサからしたら酷なことをしている。
もう二度としないから。
明日からは真琴がバイトで店に来る。真琴を雇ったのは当然、仕事探しで困っていた彼女を助けたかったからだが、マサに惹かれ始めている今、真琴が職場にいることで自分を律することができるかもしれないと思った。もしマサに変な気を起こすようなことがあったら遠慮なく指摘してもらえる。
それから数日間は、穏やかながらもマサを避ける日常が続いた。もちろん仕事に必要な会話は交わしていたがそれだけだ。
バイトに入りたての真琴も、アオイとマサの様子を見てさすがに眉を寄せた。
「アオイ、気持ちは分かるけどあからさま過ぎない? それじゃあ特別意識してますって言ってるようなものだよ」
「そうかもしれない。でも、どういう感じが〝普通の言動〟なのか分からなくなっちゃったんだよ……」
「アオイ……」
真琴はそれ以上何も言わなかった。
アオイは非常に葛藤している。仁に対する義理と、マサに対する気持ちの在り方。二つの気持ちは同居できないししてはいけない。
アオイの幸せを祈ってる。ただそれだけだよ、私は。仁君はともかく、マサ君はどう動くんだろう?
そんなことを考えながら真琴はバイトに臨んだ。意識せずとも、アオイとマサ、二人を見守るような心持ちになっていくのだった。
最初のコメントを投稿しよう!