遮られた決意

13/23
前へ
/421ページ
次へ
「私、けじめつける。マサのためにも、自分のためにも」 「そっか。アオイが決めたことを応援するよ」 「ありがとう。真琴」  真琴がそばにいてくれてよかったと心から思った。  店の外にはいつもと変わらない夏の夕方の景色が流れていた。汗を流して歩く人々の群れ。気を抜くと街路樹に張りついた(せみ)の合唱が耳に響きすぎる。店内は空調で涼しいのに夕日の色が体感温度を上げる気がする。同時に、橙と赤を混ぜた色調はアオイの胸に寂しさを呼んだ。  翌日の夜、アオイはイクトと会った。気の進まない予定は早めに消化しておくに限る。夜とはいえ、平日のファミリーレストランは客足もそこそこだ。 「アオイちゃん、来てくれたんだね」  先に来ていたイクトが、レジ付近のテーブル席で軽く片手を上げた。アオイはかたい面持ちでイクトに近付き、椅子に座ることなく、手のひらを彼に向けた。 「拾ってくれて本当にありがとう。指輪だよね。返してくれるかな?」 「まあ、座ってよ。飯まだでさ。アオイちゃんは?」 「じゃあ、飲み物だけ」 「仕事終わったばかりでしょ? お腹すいてない?」 「家で食べるから」 「そっか。じゃあ仕方ないか」  やや残念そうに肩を下げ、イクトは自分の食事と二人分の飲み物を注文した。 「イルレガーメ、だっけ。アオイちゃんの店評判いいんだね。レビューサイトにも何件かいい感じのクチコミあったよ」 「そうなんだ。そういうのあまり見てなくて」  普通なら経営者として見なければならないのだろうが、見るのがこわいという思いから、アオイはあえて見ないようにしていた。
/421ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加