遮られた決意

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 長いようで短かった沈黙を破り、イクトは言った。 「どうしてだろ。気持ちって、隠してても表に出てきちゃうよね。目には見えないものなんだけどそれとなく気配を感じるっていうかさ……」 「そうだね」  イクトの言葉に、アオイは自分の結婚生活を思い返した。そして気付く。仁との暮らしに寂しさを感じたのは生活リズムがすれ違っていたせいではなく別のところにあったのだと。 「イクト君の言う通り。好きの気持ちも、無関心も、口にしなくても雰囲気に出る。そういうものかもしれないね」  仁からの無関心を感じ取っていた。結婚前に抱かれた時も、現在も。どれだけ体温を感じようとも、その奥にある熱のこもった感情を感じ取ることができない。それが寂しさの原因だった。  イクトは言った。 「マサの感情は完全に表に出てた。アオイちゃんのことを好きって思う心が」 「それは私が店長だから。慕ってくれてるだけだよ」 「マサが聞いたら泣くよそれ。ま、俺としてはざまーみろだけど。アイツは一度こっぴどく振られた方がいいね。うん」  イクトは苦笑気味に毒を吐いた。しかし、その口調は海の時とは違い、柔らかさを感じさせる。 「ひどい言い草」  突っ込むアオイも苦笑いを浮かべたが、どこか気持ちは解きほぐれていた。ここへ来る前は気が乗らなかったのに、イクトと話せてよかったという心持ちになっている。  イクトの食事がすむのを待って、アオイは店を出た。今日のイクトの様子を見た限り大丈夫とは思うが、もうこれ以上彼がマサと衝突しないことを願った。
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