苦手意識と後悔

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 もちろん業務上のことで注意を受けたことはあるが、それは店長として当然の対応なのでマサも納得できたし、アオイの言い方はサバサバしていて後を引かないので嫌な気持ちにならない。  人前で叱るということもしない人だった。言われる側のプライドを傷つけないよう極力人目のないところでサラッと注意してくれ、後はあっけらかんとしている。そんな評判を聞きつけてバイトしたがる学生も多いし、実際マサも良い環境下で仕事できていると実感する。  高校の頃少しだけバイトした洋服の検品工場は、指示を下す社員の気分次第で作業効率を変更させられ毎度ストレスがたまったものだ。それに比べたらここはずいぶん働きやすい。  アルバイターの定着率も高いので、志願者がいても求人は滅多に出さないそうだ。そんなところで夏の間だけとはいえ働けることになった自分はツイている。  だけど、なぜか店長のことはダメなのだ。アオイとシフトが重なるとマサは憂鬱になる。  他のバイトや客の目もあるので態度に出さないよう気をつけているつもりだが自信はない。アオイへの好感度ははっきり言ってはじめから低かった。  それに、アオイの抱える店の売り上げ状態なんかよりも今は重要な課題がある。課題というにはおおげさかもしれない。しかしこれを課題と言わずしてどう表現したものか。 『夏休みにさ、俺の彼女とお前の彼女で海行こうぜ! いいだろ?』  それもこれも、幼なじみのイクトがダブルデートなるものを決行しようと無理難題を押し付けてきたからである。マサには現在彼女がいないのに、だ。
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