苦手意識と後悔

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 二組以上のカップルで遊ぶ夏の海。  特定の恋人、それがいなければ女友達などを適当に誘って成立させる青春を全面に押し出した華々しい夏イベントのひとつである。  だが、それに参加できる権利があるのは親しい女友達か彼女のいる男だけだ。そんな場へ、女っ気のないマサを誘うイクトの気が知れないと外野は言うだろう。マサ自身最初はそう思った。 「誘うなら他を当たれ。彼女がいるヤツなんて他にもたくさんいるだろ」 「何寂しいこと言ってんだよ~。俺は〝マサだから〟誘ってんのに~」  一見、好意的な誘い方だ。彼女なんていなくてもいいから親友のお前には来てほしいんだよ絶対楽しいからと言いたげないじらしいオーラを前に、友達として悪い気がしないので喜んでノリよくオッケーしてしまいそうになる。  だが、マサはイクトの明るい誘い文句を額面通りには受け取らなかった。むしろイクトはあからさまな悪意を持って全力でマサに恥をかかせようとしている。イクトの顔にはわざとらしい笑みが貼りついていた。  やはり、イクトはまだマサに恨みを持っているようだ。去年の夏のことで。  それが分かっているので、乗り気になんてなれないそのイベントに、マサは参加しなければならない。断ったら、一度粉々に砕けたイクトとの友情が今度こそ跡形なく消えて終わってしまうと思った。  先に裏切ったのは自分。  罪滅ぼしにダブルデートに臨まなければならない。  義務感で行くイベントほどつまらないものはないが、義務だからこそ投げ出せない。  かといって自分の彼女役をやってくれる女性要員のアテはないし、男友達を連れて行くなんて論外だ。  大学では男女問わず何人かの友達ができたが一人暮らしの女友達はみんな実家に帰省するし、そうでなくても彼氏がいる子ばかりなので男のいる場所へは誘いづらい。大学内の女友達はあくまで男女混合の仲間騒ぎをするメンバーであって、恋愛の後始末的ゴタゴタに巻き込む友達ではない。
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