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世界中で彼女だけ。
男「………………なるほど、お前ストーカーだな」
天の声「違いますからね ! ? 」
ー翌日ー
天の声「朝が来ましたね。今日は愈々、月くんたちの12回目のデートの日です !
いやぁ、晴れてよかった。私もてるてる坊主を5つも作った甲斐が有りましたよ ! ! 」
男「……朝から、うるさい」
天の声「おや、それは失敬。然し……何時も思いますが、あなた待ち合わせの30分前って早すぎませんか ?
もう少し心に余裕を持たないと……焦り過ぎると足元を掬われますよ ? 」
男「余計なお世話だ」
天の声「辛辣ですね。……私は、御2人の幸せを願ってるだけだと言うのに……」
男「知るか……あ、メッセージ来てた…………コンビニ行くか」
天の声「おや、彼女はまだ来ないので ?あ、私カフェオレが飲みたいです ♪ 」
男「すいません。ブラックコーヒーのMサイズ1つ」
天の声「ちょ!無視しないで下さいよ ! ! 」
江川は天の声を無視し購入したコーヒーをゆっくりと飲み乍ら、待ち合わせ場所へは少し遠回りになる小道を進んだ。
女「……あ、江川くん ! 」
男「…よう」
天の声「「よう」ってなんですか ? もっとなんかあるでしょ ?
貴方いつもはお喋りなくせに彼女の前だと日和ますね……だらしない」
女「今日はどこ連れてってくれるの ? 」
男「あ、えっと……東山動植物園……なんて、どうかな ? 」
女「いいね ! じゃあ、早速行こう ! 」
2人は電車を乗り継ぎ動植物園へと向かった。園内に入ると親子連れやカップルで賑わっていた。
天の声「……こうして見ると、御2人も仲の良いカップルにしか見えませんねー……月くん!今日こそ彼女に返事を聞くべきですよ ! ね ! 」
男「何から見て回ろうか ? 」
女「んー、せっかく来たから全部見たいけど……時間かかるしな……」
男「そうだよな……」
女「……江川くんは見たいものある ? 」
男「え ? 俺 ? 」
天の声「わかってませんね ! 小山内さん !
月くんは貴女しか見てないんですよ ! 」
男「……コアラとか ? 」
女「とか ? って何よ(くすくす笑い)」
男「いや、だって……」
女「…ふふ(しどろもどろな江川を見て笑う)。じゃあ、コアラから見に行きますか ? 」
男「 ! ……おう」
2人は仲良く動物を見て歩いた。天の声はそれを見乍ら茶化すが、江川は無視をし続ける。
そして、日が暮れ初めた頃2人は桜並木の道にいた。
女「わぁ ! 綺麗 ! 」
男「凄いな……」
女「ね ? 凄く綺麗だよね ! 」
彼女の無邪気な笑顔に江川はドキッとする。
男「……桜も綺麗だけど、お前のが……綺麗だよ」
女「えー ? 何言ってんの ? (くすくすと笑う)……あ、喉乾いたし私なんか買ってくるよ ! 待ってて」
少し先に見えた自販機へと走っていく彼女の背を見つめ、江川は小さな溜め息を吐いた。
男「はぁ」
天の声「ホント何言ってんですか貴方は ? 」
男「……悪かったな。いい歳こいたおっさんが痛い台詞を言って……」
拗ねた様に呟く江川に天の声は叫ぶ。
天の声「違いますよ ! 私が言ってるのは、そんな意味じゃない ! !
良いですか ? 男女ともに告白で1番困るのは、好意だけを告げられる事です ! !
何故かわかりますか ? 答えに困るんですよ ! ?
例えば「好きです ! 」と伝えるのと「好きです ! 付き合って下さい ! 」と伝えるのとでは雲泥の差があるんですよ ?
答えを聞くのが怖い ? 彼女を失いたくない ? ふざけるな !
土俵に上がりもせず、戦わずして敵前逃亡するような男。誰が好きになる ?
怯えてばかりいたら何も手に入りませんよ ? 」
男「……うるさいな……わかったような口聞くなよ !
俺だって必死なんだよ ! こんなに好きになったの初めてで、どうしていいかわからないんだよ !
失うのが怖くて何が悪い ? 当然だろ ?
……例え振り向いてもらえなくても、俺は彼女の隣に居たいんだよ」
天の声「貴方は本物のバカですね。良いですか ? 告白してフラられたらと怯える気持ちはわかります。
しかし、明日も彼女と居れる保証は何処にもないんですよ ? 」
男「……わかってるよ。他の男に取られるってんだろ ? けど……」
天の声「違いますよ」
男「え ? 」
天の声「……私が言いたいのはそんな事じゃない。もっと単純で残酷な話です」
男「何言って……」
天の声「彼女が死ぬかもしれないって話です。いえ、彼女だけじゃない貴方が死ぬ事だって考えられます」
男「 ! ……それは」
天の声「良いですか ? 人生は1度きりです !
生まれ変わりなんて事もありますが、今の貴方と彼女は1度きりです ! 」
男「……っ」
天の声「今、気持ちをぶつけきちんと返事を聞かなければいつか後悔するかもしれませんよ ?
私はね。そんな人たちを沢山見てきました。だから、貴方には後悔して欲しくないんですよ ! 」
男「……」
天の声「「お前が最後に選ぶのが俺なら良い」……素敵な言葉です。ええ、とてもとても素敵な言葉です。でもね ?
選ばれるのを待つばかりじゃ何も始まらないんですよ ?
彼女が他の男と付き合っても良い?そんな訳ないでしょ ? !
私なら嫉妬に狂い彼女も相手の男も殺しますよ !
……恋愛はね、綺麗な事ばかりじゃない!醜い欲を曝け出せよ ! !
全力でぶつかれ!そして、全力で受け止めろ !
今、あんたがしてんのは……告白なんかじゃない !
タチの悪い当て逃げと同じだ ! 気持ちをただぶつけるばかりで、答えを聞かない ?
そりゃあんたは、良いだろうさ ! でも、じゃあ彼女の気持ちはどうなる ? 」
男「…………俺は」
天の声「貴方は何があっても彼女しか好きになれない」
男「……そうだ。でも、…」
天の声「例え、記憶を全て失ったとしても……貴方はまた必ず彼女に恋をする」
男「……」
天の声「本当に失ってしまったら……、死ぬまで後悔しますよ。彼女の隣に居れる今は、当たり前じゃない。
掴んだ手を離さない覚悟があるなら、全部曝け出してしまいなさい」
男「……フラれたら、また1からやり直して良いのか ? 」
天の声「良いと思いますよ ?
最初も言いましたが、貴方達2人が幸せになるその日まで付き纏わせていただきます ! 」
天高らかに響く声。不思議と胸が軽くなる。
正体不明の声の言葉に、江川は背中わ《せなか》を押される。
男「じゃあ、言ってくるわ……あー ! 怖えー ! ! 」
天の声「大丈夫 ! 自信を持って下さい ! 」
男「……おう ! 」
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